第20話.陽炎の嵐


「ぼ、くは……おじさ、んの……むす、こじゃ……な……いか、ら……」


「……訂正ができるくらい元気があるなら良いな」


 ギリギリで間に合ったな……王都に帰り着いて直ぐにカイン副長に陛下たち王族の護衛と、避難民の誘導なんかを指示を出した時ちょうど五右衛門が赤髪のお嬢ちゃんを担いで北門まで走って来た時には驚いた。


…………

……


『カイン! 今すぐ団の者たちを率いて王族の護衛並びに王都住民の避難を急げ!』


『それは?!』


『王都が奇襲され、後手に回った時点で巻き返しは不可能に近い! これは撤退戦である!』


『おっちゃん?! タイミングばっちしじゃんか! 早く相棒を助けてくれ!』


『五右衛門か! 場所は何処だ?!』


…………

……


 お陰でステラの居場所と現況のほぼ全てを知る事が出来た……他にも王都のあちこちで魔族が暴れているようだが、まさか最高位ハイエンド支配者階級オーバーロードが二体も出やがるとはな……それぞれが魔王軍の幹部だろこれ絶対。

 まぁなんであれ? 俺の許しもなく王都に火を付け、ステラをここまでズタボロにした報いは絶対に受けさせてやる。


「​金属器​──カタフニア・スィエラ陽炎の嵐


「金属器​──ルフ・デス・クローズ怨嗟の呼び声


 ほう、この六つ目の野郎は金属器使いだったか……こりゃいよいよ王都に被害を及ばさない様になんて、悠長な事は言ってられねぇなぁ?

 せめて人命に被害が出ないようになるべく上手く立ち回るしかないなこりゃ。


「へっ! 生きているうちに三人・・も金属器使いを狩れるとは俺も運が良い」


「……同僚の仇は取らせて貰おう」


 さてさて? 今度の金属器使いはいったいどんな能力を使い、どんな戦い方をしやがる?

 ステラには最終的に生き残った方が勝利者だとは言ったが、生き残り続ける度にコチラの情報は相手に渡る……常に不利な状態で戦いがスタートする事が多くなる。

 その不利をどうやって覆し、そして自分の有利に持っていくか……戦士としての腕の見せ所じゃねぇかよ。


「ルーティネス王国聖騎士​──アルデバラン・グラウディウス」


「第八魔星​──静謐怨嗟のクリカラ」


 相棒の金属器を両手でしっかりと握り締めながら上段に構え、目の前の敵が戦斧を腰だめに構えるのを目を離さず見やる。


「「いざ、尋常に​──」」


 言い終わる前にお互いに前に踏み出し、大地を踏み割りながら金属器を敵めがけて振り下ろす。


「「​──勝負ッ!!」」


 お互いの金属器がぶつかり合う直前……空中で見えない壁に阻まれているかのように制止し、真ん中の空間がひずんでいく。

 俺とクリカラの真ん中辺りの大地は両者を隔てるように裂け、稲光の様な轟音を立てながら周囲へと可視化されるほどの強烈な闘気を飛ばす。

 歪んでいった両者の真ん中にある空間が限界に達し、たわんだところで弾けるように俺とクリカラは背後へと弾き飛ばされる。


「けっ! 膂力勝負は引き分けかい!」


「……いや、仮にも最高位ハイエンドである私が人と引き分けるなど……実質其方の勝ちだ」


「お固いねぇ」


 素直に引き分けなら仕方ねぇなぁ〜! とか言ってれば良いのに……コイツ魔族の癖していやに律儀というか、武人気質だな。

 ……その割りには使ってる金属器は悪趣味が過ぎるけどよ。

 奴が金属器を解放したその時から、あの骸骨のものかは知らねぇが女のすすり泣く声が耳元でずっと聞こえてやがる。


「悪趣味な金属器だこって」


「……刃を隠す卑怯者には言われたくはないな」


「あっそ」


 いやいや、別に名誉ある果たし合いとかじゃないんだし良いだろう……というかこの陽炎の様に刀身が無色透明に揺らめく様は本当に便利なんだぜ?

 死ねばそこで終わりの戦場において、どれだけこの相棒が俺の命を助けてくれた事か。

 この武器での初撃は中々避けられまい。


「​──ダァァア!! 死んどけヤァァアア!!」


「おぉう?!」


 猛スピードで横から突っ込んで来る馬面魔族が放つ三つの拳を金属器を盾とする事でガードするも、そのデタラメな膂力によって一気に向かいの建物まで吹き飛ばされる。

 壁をぶち破って屋内まで転がされるが、何とか受け身を取りつつ立ち上がる。

 ……ちっ、いってぇなぁ……口の端を切っちまった。


「お前なんで生きてんだよ? 俺の渾身の初撃をモロに喰らったはずだろうが?」


「おい、武人同士の果たし合いに横槍を入れるな。殺すぞ」


「ダァァア!! 一度に喋るんじゃねぇ!! あとクリカラはどっちの味方なんだよ?!」


 何をくだらない言い争いをしてんだか知らねぇが、早く答えろや……何で金属器すら持っていないアイツがピンピン生き残ってやがんだよ。

 いくら最高位ハイエンドの魔族と言えど、金属器でその身を害せばその強力な不死性も中和されるはずだ。


「……あん? しかもお前、よく見れば無傷じゃねぇか。どんな手品だ?」


「……あん? あぁ、んな事かよ」


 再生したり回復したりしたにしても早すぎるし、そもそも金属器の中和作用がある以上はどんなに頑丈だもそれなりの深手を負うはずなんだがな……少し自信を無くすぜ、おい。

 金属器以外でのコイツ特有の能力や技術なら、まぁ……納得せん事もないが。


「簡単な事だよ俺が​──そいつ・・・の主だからだ」


 そう言って馬面は俺の……俺の持つ金属器に指を差して示す。


「なるほどね、魔族側の適合者って事か……さしずめ、今回の襲撃は俺が狙いだったんかねぇ?」


「そうだよ、分かったらさっさとそいつを寄越しな。それは俺んだ」


 はっはぁ、なるほど……金属器使い一人程度では俺を殺せないからどうしようって時に、この馬面が適合者だということが何らかの形で判明したと。

 だからコイツを文字通り肉壁にして俺の攻撃を防ぎつつ、同じ金属器使いの攻撃で俺をぶっ殺そうと……そいう事か。


「​──舐められたもんだな」


「「​──ッ?!」」


 全身へと闘気を纏い、絶え間なく循環させながら音の速さを超えるスピードで肉薄し、音の壁を超える時に生じる衝撃と共に馬面の顎をかち上げた吹き飛ばす……まずは邪魔者には再度のご退場願う。

 次いで驚愕に六つある目を見開くクリカラが金属器の力を行使しようする気配がするが……させるかよ。


「ぶッ?!」


 奴の金属器ごと殴り飛ばし、自分の武器で顔を強打する間抜けが背後へと吹き飛ぶ前にその行き先へと先回りして腰を蹴り飛ばし、また再度回り込んで腹を殴り、上空へと飛ぶ前に肘鉄を後頭部に落として地面に寝かしつけてやる。


「ぐぅっ……! 金属器​──ルフ・デス・クローズゥウ!」


 一瞬の空いた間に金属器の能力を発動され、途端に閉ざされる視界……真っ暗闇の中で波紋を立てながら地面から伸びる人骨の手が俺を絡め取り、絶えず恨み言を耳元で呟く。

 波紋を立てる地面からは俺の息子と妻が目の前で殺される記憶を何度も繰り返し再生し​──


「​──温いんだよ」


「カハッ​──?!」


 精神汚染の幻空間ごとクリカラを肩口から斬り裂く。

 普通の奴になら抜群に効いたんだろうが、残念だったな……その後悔に彩られた記憶は毎晩見てんだ。

 今さら敵に、それも目がバッチシ冴えて睡眠時よりも意識がハッキリとしている昼時に流されても仕方がねぇんだわ。


「精神汚染された時はな、なるべく早くゴリ押しでぶっ壊すのに限る」


「き、金属器の幻覚をこうも容易くっ……! 化け物めぇ……!」


「目が六つもある奴に言われたくはねぇな」


 上手く心臓を避けたようだが、金属器によって左の肩口から右の腰の辺りまでバッサリと斬られちまったんだ……コイツはもう暫く使いもんにならんだろう。

 馬面をどうやって殺すかだが……まぁダメージは無くとも衝撃でぶっ飛ばす事はできる様だしな。

 アイツが懲りるまで延々とぶっ飛ばし続ければ逃げ帰るだろう。


「最期に言い残す事は?」


「……」


 ……ダンマリか、まぁそれもありっちゃありだろう。


「じゃあ、死ね」


 黙って俺を見詰め続ける六つ目の魔族の首へ向けて金属器を振るう。


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