第15話.孤児院その2
えっと、エリーゼは確かこの辺りに向かったはず……あ、居た。
子ども達の言っていた通りに木の枝を黙々と振り続けてる。
けど、あれじゃダメだ……おじさんに教わっているだけの僕の身でもダメな部分が分かる。
「ねぇ」
「ひぐっ?!」
……後ろから声を掛けるのは失敗しちゃったかな……喉が詰まる様な声を出しながら飛び上がってしまった。
「……」
「……」
ぎこちなく僕を振り返ったエリーゼはなんの意味があるのか知らないけど、木の枝を顔にピッタリくっ付けながら横を向く。
……え、いやまさか、それって木の枝の影に隠れてるつもりなの?
どうやら彼女は思っていた以上に恥ずかしがり屋らしい……仕方ない。
「──ふっ!」
彼女の前で腰に差して持って来ていた木剣を引き抜いてから振り下ろす。
毎日欠かさず繰り返してた動作を彼女に見せ付ける様に……木剣を振り下ろす。
「……」
最初は突然の僕の行動にビックリして訝しげな表情を浮かべていたエリーゼは次第に無言で、無表情に……ただじっと僕を見詰め始めた。
次第に横目でチラチラと僕を見ながら見よう見まねで彼女も木の枝を振り下ろす動作をし始める。
「……剣を握る時は左右の手はくっつけない」
「……っ?! ……?」
小声で僕がおじさんに教わった事を呟いてみれば一瞬だけ肩をビクつかせたけれど、ちゃんとその言葉に従って左右の手を離す。
「……利き手にバランスが偏らないように、左手で振るイメージ」
「……」
僕の不器用な指示に無言で従って剣を振るうエリーゼから、段だと綺麗な風切り音が聞こえてくる。
「……剣は手で降るんじゃなく、背中で振るう」
「……」
手にしているのが木の枝が惜しいくらいに段々と洗練されていくエリーゼの振り下ろし、にほんの少しだけ嫉妬を覚えながら彼女と並んで黙々と剣を振り続ける。
「……これ、使って」
「……」
「僕はこれがあるから」
何となく彼女の綺麗な振り下ろしにケチを付ける木の枝が気に入らなくて自分の持っていた木剣をエリーゼに無理やり渡し、自分はおじさんから貰った真剣を鞘に納めたまま振り下ろす。
「「……」」
そのまままた、無言で二人だけで並んで黙々と剣を振り続ける。
▼▼▼▼▼▼▼
「なんか俺の想像する子どもの遊びと違う……さすが俺の相棒は違うぜ!」
『同い歳の子どもが一緒になってする事が、ただ黙って剣を振り続けるだけで良いのでしょうか』
五右衛門さんは何やら感心した様子ですが、私としては……その、ステラにはもっと子どもらしい事を沢山して欲しいなって思います。
私から勇者に選んでおいて何をとは思いますが、だからこそ……まだ子どもである間だけでも健やかに暮らして欲しいのです。
「……まぁ確かに相棒は危ういところがあるよな〜」
『えぇ、あの年齢で復讐に囚われるのは良くありません……アルデバランさんやエリーゼさんへの態度を見る限り、ステラだって何処かで安寧を求めているはずです』
元々ステラは優しい性格だったのが言動の節々から現れていますし、何かを恨み続ける事でその素敵な部分が無くなってしまうのは酷く悲しいです。
あの歳で復讐に囚われ、どうせ治るからと欠損も厭わない戦い方……あそこまで生き急いでいては早晩死んでしまいますし、生き残れたとしてもろくな末路を向かえません。
……私は復讐に囚われて悲惨な目に遭った方を何人も見て来ました。
「まぁでも? 俺やテラの姐さん、さらにはアル坊まで居るんだから大丈夫だって!」
『……そうでしょうか?』
「この内の誰かがまた魔王軍に殺された〜、とかならいよいよ危ないかも知れないけどさ……俺は割れても治るし、テラの姐さんは元々死んでるし」
『死んでませんが』
「アルデバランのおっちゃん何か、どうやって殺すんだよってくらいに強いから大丈夫だって!」
『そうですね、私はまだ死んでいませんが……そもそも見えませんしね』
この先で仲間となった者たちが死んでしまう事もあるでしょう……ですが、その時にはステラがちゃんと乗り越えられる大人になっていうる様に私達で支えていけたらと思います。
『えぇ、そうですね! 心配ばかりではいけません!』
「お、その調子!」
『なんて言ったって、私はステラのお母さん代わりですからね! 明るい笑顔で、不安なんてこの世に無いんだって彼に感じさせなければ!』
「……また空回りそうっすね」
そうと決まれば何をしてあげましょう?
ここはやはり寝る前に物語を読み聞かせてあげましょうか?
私もお婆さんにいつもして貰った時は安心して眠れた物です。
『よし! 今日最初に話す物語は「こんなはずじゃなかった 〜王国と帝国の貨幣取引で失敗した商人〜」にしましょう! とても面白いんですよ!』
「あ、自分孤児院から絵本とか借りて来るっすね〜! (やっぱテラの姐さんに任せるのはダメっすわ……自分が相棒を守らないと!)」
鼻息荒く気合いを入れる私に触発されてか、五右衛門さんも物語を集めてくれるようですね!
この不思議な埴輪さんはステラの親友ですから、とても頼りになります!
『ふふふ、私の寝物語が火を吹くぜ!』
かつての仲間の口調を真似しながらドヤ顔をキメてみます。
……ふふふ、夜が楽しみですね。
と言いますか、ステラには夜を楽しみにして貰いたいものです。
『……よく、魘されてますからね』
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