第12話.金属器
「村長は何処か!」
「い、今呼んで来やす!」
件の村に到着して直ぐに副長が大声を張り上げて村長を呼ぶ副長に驚いて振り返るけれど、周りの兵士たちはみんな気にした様子もないし、これが普通なんだろう。
しばらく待っていると若い男性に肩を貸して貰いながら片足を失った老人が少しずつ歩いて来る。
「こんなナリですいませんねぇ、なんせゴブリン共に襲われた時に片足を失ったもんで」
「む、それはすまない。配慮が足らなかったな」
あぁ、そうか……ここでも奴らは誰かから何かを奪って行っているのか。
道中で無理やり乗せられた馬の上から村の様子を観察してみれば確かに傷病者が多く、畑も荒らされ、女性の人数も心做しか少ない気もする。
「ねぇ、おじさん」
「あん? どうした坊主」
僕の後ろから手を伸ばして手綱を握るおじさんに振り返って疑問に思った事を尋ねる。
「ゴブリンは魔族だと思うけど、魔物ってなに? 別の名称?」
「あぁ、ゴブリンみたいな不死性もない低級の魔族は区別する為に魔物って呼称してんだ」
「なるほど」
じゃあ僕が倒したオークや、村を襲った仮面の男は都会でも文句なしの魔族って事だね。
特にオークは首を落とせば死んだけど、仮面の男は心臓をかち割っても死ななかった……あれだけの不死魔族はどうやったら殺せるのだろう。
やはり金属器や、これから目覚めるかも知れない僕の勇者としての力に期待するしかないかな。
「じゃあオークを倒した僕は文句なしの魔族殺しって事だ」
「お前、魔族に手を出したのか……危ないだろ? というかアレは本気で言っていたのか?」
「首を落とせば死んだよ」
「……そうか」
何とも言えない顔でため息を吐きつつ、おじさんは僕の頭をグリグリと撫で回す。
力強く乱雑に行われるそれを無造作に手で振り払うと何が可笑しいのか、忍び笑いを漏らすのが癪に障ってしょうがない。
「──敵襲!」
「総員散開! 村民の安全を第一に備えよ!」
副長が村長から詳しい話を聞き、その間に行われるおじさんに寄る僕へのちょっかい……それを見てテラと五右衛門君がクスクスと笑うという緩い空間を引き裂くにようして告げられたその報告。
それを受けておじさんはすぐさま表情を切り替えて部下たちに指示を出し、僕は急ぎ馬から飛び降りて報告の声が聞こえた方へと駆け出す。
「あっ、こら! 一人で行くな!」
これ幸いと、何故だかは知らないがことある事に僕を構いたがるおじさんから離れ、勇者として目覚めたその日かは強化された身体能力をそのままに猛スピードで駆け出す。
凄まじい速度でありながら、僕の駆ける速さにギョッとする兵士の一人一人の表情さえ判別できる動体視力で捉えたゴブリンの顔面へと出会い頭にスピードの乗せた拳をお見舞する。
「ブギャッ?!」
そのゴブリンが持っていた粗末な短剣を、僕が使っても耐え切れないからと後方に投擲してさらに一匹を始末する。
後ろから殴り掛かってきた奴の腕を掴んで引き倒し、そのまま足で顔を押さえ込みながら胴体部分を持って引っ張り上げる事で引きちぎり、そのまま腰を捻って自分の身体ごと腕を振り回す事でそのゴブリンの首を失った胴体から血液を撒き散らして周囲の敵の目を潰す。
「ふんっ!」
そのまま血液が目に入って馬鹿のように騒いである彼らの首を一人一人丁寧に殴り折っていく……確かにコイツらは首の骨を折る程度で死ぬし、他の魔族と区別して魔物と呼称するのはアリかも知れない。
「次は──っ?!」
次の敵を探そうと周囲を見回そうとした所で勢いよく飛来してした岩石を飛び退く事で避ける。
飛んで来た方を振り返ってみても誰も居らず、勇者の力によって強化された視力を最大限まで使ってみてやっとその存在が確認できた。
「オーク、とはまた違うな……けどあれは魔物じゃなくて魔族だね」
オークに似ているけど違う……有り余った自身の脂肪や皮が重力に負けて下に垂れ下がっている。
おでこの肉や皮が視界のほぼ全てを塞いでいる様なその鈍重そうな見た目からは想像できないような膂力と命中精度だ。
「そっちが最初に始めたんだから──なっ!」
ゴブリンの死体を乱雑に掴み取って振り被り、反対側の足を上げてから勢いよく腰を捻ってから投擲──ゴブリンの死体は空気を破裂させながら飛んでいき、勢いに負けて四肢がバラバラになるけれど残った胴体部分が魔族へと激しい衝撃と共に命中する。
「……ダメだな、ゴブリンの死体程度じゃあ有効打にならないし残弾も尽きた」
暫くそうして攻撃していたけれど、周囲の死体は全て無くなったし手頃な石も無い……僕がせっかく死体の投擲で空けた胴体部分の穴も魔族特有の不死性からか塞がってきている。
それにも関わらず、奴の近くでは別のゴブリンの集団がせっせと鈍重な魔族の為に岩や石などを転がして集めているし……ジリ貧かな。
接近戦をしようにも、あの脂肪の塊に拳打が効くとは到底思えない……オークの時に学習した。
「うーん、一度剣を借りに戻るか──あいてっ!」
「バカ野郎、ほぼお前だけで倒してんじゃねぇ」
おじさんに小突かれた。
「ちゃんと俺の分は残してるんだろうな?」
「心配しなくてもアソコに魔物じゃなくて魔族が居るよ」
「あん? ──っとぉ!」
僕が指差した先をおじさんが振り返ると同時に岩石が投擲されるけれど……それをおじさんは反射神経のみで真っ二つに斬り捨てる。
「遠くからチマチマとうぜぇ奴だなぁ……ま、ちょうど良いか」
岩を斬るのに使用した鉄の剣を僕に『予備だからやる』と言って手渡したおじさんは、そのまま腰に下げた金属器に手を添える。
「ステラ、お前こいつが気になって仕方ねぇんだろ? どうせ魔族に普通の武器は効き目が弱いんだ、見せてやるよ」
そう言っておじさんは腰から剣を──刀身が揺らめく陽炎の様で曖昧で目視できない、不思議な剣を引き抜く。
「金属器──カタフニア・スィエラ」
おじさんが剣を横に薙ぐ──目の前の雑木林ごと遥か遠くの魔族の首が両断される。
まるで距離などないかの如く、見えない刀身はおじさんの目の前にある障害全てを斬り捨てて見せた。
「ま、こんなもんだろ」
僕がオークを殺した時は死体が丸々残っていたのに、おじさんが金属器で倒した魔族は加速度的に腐敗し、塵となって風に煽られて消滅していく。
……なるほど、金属器が高位の魔族の不死性を中和するというのが理解できた。
そしてその力が強すぎて並の魔族じゃ死体すら残らないという事も。
「相手が雑魚じゃなければもっと色々見せられたんだけどなー、仕方ないなー」
──ちょっとドヤ顔で僕をチラチラ見てくるおじさんがウザイ。
▼▼▼▼▼▼▼
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます