第二章.剣の振り方
第9話.王都入り
「──次!」
テラと五右衛門君と一緒になって長蛇の列に並びながら王都を外から眺めてその大きさに圧倒されて……五右衛門君を何人割れば王都を作れるくらいの素材になるのかなんて言って泣かれたり、『ふわぁ……』なんて力の抜ける声を発しながら目をキラキラさせるテラに呆れたりしながら待っていると僕たちの番がきたようだ。
どこか疲れた様子の門兵の方へと、五右衛門君を引き連れて向かっていく。
「……子ども一人、か?」
「バッカ、おめー、この世界一イケメンの五右衛門様が見えねぇのか?」
訝しげに僕を見やる門兵に向かって相変わらず何でフサフサと生えてるのか分からない髪を掻き上げながら五右衛門君はキメポーズを取る。
本当に目立ちたがりでしなくて良い事をするんだから、この埴輪は。
「なっ?! ま、魔族?! ……魔族? いや、これ……埴輪?」
ほら、門兵さんが困惑しちゃってるじゃないか。
「バッカお前、俺は埴輪じゃねぇ! 世界一イケメンで全世界の女性の心の彼氏こと、石川五右衛門様なんだぜ?」
「……そうか、とりあえず別室に移動して貰おうか」
「なんでよ?!」
いやまぁ当然の結果だとは思う。
こんな喋る服を着た髪の毛フサフサの埴輪とか怪しい通り越してもはや化け物だよ。
門兵さんもおっかなびっくりに腰の剣に手を当ててるし……まぁその埴輪は戦闘能力とか全然ないんだけどね。
『あわわわ……ど、どうしましょうステラ……』
「……君も来てくれるかい?」
「……そうですね」
今回はあのオークとの戦闘の時みたいに、テラに出て来て貰う訳にはいかないし……彼女が何も出来なくても仕方ないかな。
というか、今はそれよりも『な、なんだよー! 離せよー!』なんて大声出して抵抗している五右衛門君を何とかする方が先だ……このままだとそのまま牢屋に連れて行かれるかも知れない。
「──何の騒ぎだ?」
「っ?! こ、これは!」
そんな事を考えながら一歩踏み出したところで、外からやって来た一団の中から出てきた一人の男性が声を掛ける……そのまま彼ら専用の通用口か何かから王都に入って行くのかと思ったら、普通に介入して来るのか。
……五右衛門君がそのくらい珍しかったというのもあるかも知れない……この門兵が酷く畏まってるのを見るに、ただの兵士よりかは偉い人なんだろう。
「いや、その……この埴輪なんですが……」
「ん? ……あぁ、こんな奴が居るのか」
……ん、あれ……五右衛門君が目当てな訳ではなかったのか。
門兵に放っておけと指示を出しながら男が僕に向き直る……警戒し、いつでも逃げられるように身体の向きを変えつつ拳を握り締める
「そう警戒すんなって、坊主は一人か?」
「……そうだけど? 何か問題ある?」
……ちょっと五右衛門君煩いよ、『俺が居るだろ?!』って悲痛な声を出さなくてもわかってるから……これ多分そういう質問じゃないから。
「別にないが……親は何処だ? 何をしてる?」
「…………居ねぇよ、死んだ」
「……そうか」
ズケズケと人の触れられたくない部分に踏み込んで来やがって……そんな、親の居ない孤児の僕たちを育ててくれらた村の皆ももう居ない……魔王軍に受けた仕打ちを思い出して、思わず殺気が漏れ出てしまう。
「……コイツらは良い、問題ない」
「……よろしいので?」
「あぁ、責任は俺が持つ」
僕と五右衛門君の二人分の入街許可証という物を貰い、さっさと王都の中に入る……へそくりで何がどのくらい買えるのかも分からないし、今はとにかく情報が欲しい。
「おい、坊主」
「…………なに?」
背後から掛けられた声にため息を吐きつつ振り返れば、先ほどの少し偉そうな兵士のおじさんが居た。
「着いてこい、飯を奢ってやるよ」
「……変な罪悪感からの施しなら要らないよ」
「別にそういうんじゃねぇ──って、おいおい」
「……」
おじさんの言葉に被せるようにして盛大に鳴った僕のお腹に、五右衛門君たちの視線が集まる……多分今の僕は顔から火が出るくらいに赤くなってると思う。
「……あ、相棒? 無理はよくねぇぜ、ここは素直に厚意を受け取ろう? な? お前あれからマトモな食事を摂ってないだろ?」
『そうですよ、無理はよくありませんよステラ』
「そうだぜ? そこの埴輪の言う通りだ、ここは素直に奢られてろ」
「ぐっ、クソ……」
何も言い返す事もできず、また僕自身がとてもお腹が空いていた事も相まってニヤニヤと間抜けな表情を晒すおじさんから顔を背けながら素直について行く。
途中で『痩せ我慢は身体に毒だぜー?』なんて事をドヤ顔でほざく五右衛門君を小突く。
「ほら、ここの婆さんの鶏肉のシチューは美味しいんだ」
「……」
少しばかりムスッとしながらも、連れて来られた食事処から漂う美味しそうな良い匂いに自然と生唾を飲み込む。
そこは宿屋と兼業している様で、一階の食事処の部分では様々な身なりの客が思い思いに座って食事を摂ったり、お酒を飲んだり……仲間達と騒いだりして過ごしている。
「婆さん! シチュー三人前頼む!」
適当に空いている席に座りながらおじさんが注文する。
横では五右衛門君が『見た目はただの埴輪である俺にも……へっ、俺以外にもイケメンは居たようだな』なんて言っているが無視だ無視。
「あいよ! って、アルの坊やじゃないかい! 帰ってきてたのかい!」
「おぉ、アルデバランの帰還だぞ!」
「なんだって?! 今日は飲むぞーっ!!」
「よせよせ、小っ恥ずかしいだろ」
……このおじさん兵士は随分と色んな人に慕われているんだな。
『どうやら色んな方に慕われているようですね、少しは信用できそうで安心しました』
ご飯を奢られるのに賛成だったテラも、一応は僕の為に警戒はしてくれて居たらしい。
「はいお待ちどうさん!」
「おぉ、やっぱり遠征から帰って来たらここのシチュー食べないとな」
……ふむ、まぁ確かにおじさんの言う通りとても美味しそうに匂いを漂わせてるし、いつの間にかもう既に食べてる五右衛門君が涙を流しながら食べているところを見るに問題は無さそうだ。
というか、五右衛門君はどうやって食べてるんだろう……食べた物は何処に消えてる?
相変わらず五右衛門君は不思議な存在だ。
考えても仕方ない事はひとまず置いて、僕もすぐに一口掬って食べてみる。
想像以上の美味しさに思わず頬が緩むのを感じる……お腹が空いていた事も相まって手が止まらない
「それで? 坊主はこれからどうするんだ?」
「……決まってる、魔王軍の奴らに復讐するんだよ」
その為には何が必要だろうか……暫くの間泊めてくれる宿や、それを利用したり食料を買う為の仕事が必要だ。
斧はもう完全にダメになってしまったし、ちゃんとした武器も欲しい。
……奴らの事を思い出すだけで腹が立ってくる。
「ハハハハハ! 子ども一人でか? 無茶言ってないで諦めろ」
「なんだと?!」
笑われたのが酷く悔しくて思わず大声を上げて立ち上がる。
それまで騒がしかった店内が静まり返り、周囲の客や店員たちが何事かとコチラを注目しているのにも構わずにがなり立てる。
「子ども一人戦列に加わったところで何ができる? お前は復讐と言うが、何も成す事も出来ずに直ぐに仲間の後を追う事になる」
「し、シチュー美味しい……ぜ?」
『あわわわ……』
ギリギリと握り締めたスプーンが音を立てて僕の手の中でへし折れる音が店内に響く。
「戦争は俺たち大人の仕事だ。この王都にも戦災孤児を支援する場所はあるから、お前はまずそこに──」
「──黙れ」
自分でも内心で驚くくらいに酷く低い剣呑な声が出た……僕には未熟ながらも勇者としての力があって、戦う事が出来る。
なのに、なのに……村のみんなや妹の無念を晴らす事もせず、ただ自分一人だけいつ魔王軍に襲われるか震えながら過ごせと?
僕一人だけのうのうと生き延びて、ただ口を開けて埃を食べて行くだけの無気力な生活なんて願い下げだ。
「僕には……僕には戦う力がある」
「そりゃただの思い込みだ」
「違う! 王都に来るまでに魔族だって殺した!」
「……本気で言ってるのか?」
それまで静かにコチラの成り行きを見守っていた店内の様子が騒がしくなる。
「ぅい〜、ヒック! 女将さん! 酒くれ、酒! …………あん? なんだこの空気?」
新たに現れた泥酔客が訝しげに睨み合う僕と兵士のおじさんを見比べる。
「……子どもがお遊びで戦場に出たがってるんだよ」
「違う! 本気だ! 本気で奴らを殺すんだ! 実績だってもうある!」
机を思いっ切りぶっ叩き、木片が飛び散る。
「あ〜、難しい事はわかんねぇけどよ……今なら魔王軍に対抗する為に出自や身分を問わずに義勇兵を王城で募ってるから行けば良いんじゃねぇか?」
「あ、おい!」
「いてっ、なにんすんだよ!」
その言葉を聞いて即座に荷物を纏めて店の外を目指す。
「……シチューはありがとう」
最後にお礼だけ言って五右衛門君が後を着いてくる気配を感じながら立ち去る。
「おい! ……お前の名前は?」
「……ステラ・テネブラエ」
「アルデバラン・グラディウスだ」
「……あっそ」
最後にそれだけ短く会話を交わして振り替える事もなく王城を目指す……偶然同じ部隊に配置されない限り、もうただのちょっと偉いだけの兵士とは会わないだろう。
……どうせ名前も直ぐに忘れる。
「ったく、なんなんだよ……」
「……今日はもうアンタにはお酒は出さないからね!」
「えぇ?! 何でだよ?!」
「子どもを戦場に送る様な真似をしたからだよ!」
「あいて!」
「……ステラ・テネブラエ、ね」
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