幕間.幼子の声なき絶叫
「やぁ、お目覚めかな?」
「…………っ?!」
薄暗く、鉄臭い密室の中で一人の男が幼い少女に声を掛ける。
身なり良いその男は少女の見慣れない仮面の下からでも分かるほどに機嫌が良く、鉄の椅子に座らされていた彼女はそれを寝起きに見て歯の根を鳴らす。
「いやごめんね? 薬が効きすぎて三日も眠っちゃってたよ……まさかここまで身体が弱いとはね〜」
まるで他人事の様に話し掛けながら、自身の座る鉄の椅子のすぐ横でカチャカチャと音を立てながら薬品や刃物の確認をする男から少女は目が離せない。
「あ、モモチそれはそこに置いておいて」
『にゃ』
何処からか現れた肉の塊の様な異形の化け物を見て、少女が失禁してしまう……こんな薄暗く、狭い空間で間近に見るそれは酷く人間の恐怖心を掻き毟り、正気が削られていく様な気さえする。
……特に、その相手が自分の村を襲った張本人であればその恐怖の度合いも増すばかり。
「いや〜、でも病弱な子どもなんていう素材が手に入るとはね……只人の平民はすぐ死ぬし、貴族は表に出て来ないしで割と珍しいんだよね」
「……っ! ……っ!」
口枷が嵌められていながら音が一部漏れ出るくらいに、恐怖心からの過呼吸を起こす少女に仮面の男が向き直る。
「──じゃあ左手の薬指を貰うね」
「──」
その一言で呆気なく振り下ろされた
突然の凶行を一泊置いて理解した少女は声にならない絶叫を上げるが、仮面の男は全く気にした素振りもない。
「大地の精霊を冒涜する〝完全な不完全〟こそが最高の供物……金よりも銀、満月よりも新月、大人よりも子ども」
滂沱の涙を流して痛みに悶える少女には見向きもせず、何処か興奮した様子で仮面の男は一人でブツブツと呟きながら少女の左薬指を保管し、次の刃物を手に取る。
「そして自然淘汰される中で未だに生き延びている病弱な子どもに、欠けた指……」
「──ッ!! ──ッ!!」
少女の右足の小指を切り落とし、また別の容器に保管しながら仮面の男の口が止まる事はない。
少女の右耳に切れ込みを入れた後は薬品をいくつか取り出し、無遠慮に打ち込んでいく。
「あぁ、あぁ……!! 病弱で体力のない幼子にこの毒が耐えられるかな……?! 耐え切ると良いな……!!」
「──ッ!!」
拘束された中で必死に身を捩り少しでも距離を開けて逃げようとする少女は眼中に無いかのか、うわ言の様にこの後の成功を夢想して涎を垂らす仮面の男は異常の一言に尽きた。
注射針を少女の柔肌に突き立て、グツグツと泡立つ黒い粘液の様な物を一切の躊躇なく打ち込んでいく。
「──ウグゥッ?!」
打ち込まれた首筋から少女の全身に広がる〝紅い罅〟……葉脈の様に脈打つそれら一つ一つが少女に耐え難い激痛を齎す。
思わず漏れ出た喉から絞り出すような悲鳴も、仮面の男には何も感じさせる事は出来ない。
「さてさて、後は──あ、そうだ純潔を奪わないと」
なんて事ないかのように、今大事な事を思い出したとばかりに仮面の男が軽い調子で言う。
「モモチ〜、この子の純潔を適当に散らしてて、相手は誰だも良いけど……そうだなぁ」
『ちゅん?』
顎を指でトントンと叩きながら少しの間だけ思案した男はそのまま異形の化け物へと向き直る。
「丁度良いし、モモチも筆下ろしして貰ったら? うん、その方が絶対良いよ」
『わんわん』
幼い時分にあって純潔を失い、あまつさえ化け物の筆下ろしを担当するなどこれほど大地の精霊を侮辱する事はないだろう、と……仮面の男は満足気な笑みを浮かべる。
「あぁ……どうかこの娘には生きていて欲しい……これ程までに〝完全な不完全〟をお膳立てできるのは珍しいんだ」
『にゃー?』
「あぁいいよ、もうそのまま連れて行っちゃって」
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』
「ふふ、モモチのやつ浮かれてるな……まぁやっと童貞を捨てられるんだし、当たり前か」
出来の悪い弟を可愛がる様な声を出した仮面の男はそのまま次の子ども達へと手を伸ばす……全ては自分と魔王様の為と信じて実験を繰り返す。
「あぁ、あの女の子が勇者だったら良いなぁ……元勇者の尸兵とか激レアだからなぁ」
今日もこの薄暗い一室に子ども達の悲鳴が響き渡る。
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