(22)〜魔女の少女と「魔女」そして「悪しきもの」②〜


「ナア『深森』、キサマの人形だと思ッテイタ我に裏切られた気分ハドウダ?」




 ニタニタと嗤いながら、「悪しきもの」が胸を押さえ苦しそうに膝から崩れ落ちたアンジーを見下ろす。


 アンジーは息も絶え絶えになりながら、「悪しきもの」を見上げた。




「デゥン、ケル…どう、して……」


「どうしてダト?きさまの胸ニ聞いテミロ。貴様ガ魔物の錬成実験をスル時ニしてキタ今までの愚行ヲなァ」


「デゥンケル、私の言うことを聞きなさい。私の『言うこと』を…ああぁぁァァァ」


「残念ダナ『深森』。ソノ暗示はモウ効かぬ。大人シク『オマエの最高傑作』の我ノ糧となるがイイ」




「悪しきもの」がそう言った瞬間、


 アンジーの魔力が滝や増水した河のように勢いを増して、陣に吸い込まれ始める。




 辺りにはゴウゴウと激しい風が吹き、木々を揺らす。




 耳をつんざくアンジーの苦しそうな金切り声はだんだんと叫び泣く声に変わっていった。


 セレスタイトはただ立っていることが精一杯だった。




 まるで地獄の様な情景がそこにはあった。




 アンジーの叫び声は風と共に次第に力を無くし始め、そしてアンジーの姿は光となって陣に消え、「悪しきもの」に摂り込まれた。








 これがアンジーの最期だった。








 アンジーを飲み込んだ「悪しきもの」はその身体を増す増す巨大にし、気味悪く舌舐めずりをすると、セレスタイトの方にゆっくりと向き直り、嗤う。




「サテ、『浄化』の小娘。きさまモ我の糧トナッテ貰おうカ。恨ムなら己の不運を恨ムがイイ」


「誰が糧になってなってやるものか!私がおまえに殺された父さんの代わりにお前を倒す、おまえのせいで辛い思いをした母さんの代わりにお前を封じる!」


「フッ、こちらノ小娘モ随分と反抗的ダ。なら、出来ルモノならやってミルガイイ」




 そう言うと、「悪しきもの」はアンジーから吸い取った魔力を腕に纏わせ、威力、速度共に強化した爪を振り被った。




 ---今だ!




 その時、セレスタイトは手を打ち合わせ、そのまま「悪しきもの」の方めがけ、放つ。


 そしてそれは「悪しきもの」の顔の前で鋭い閃光を伴って炸裂した。




「ぐわァァァぁぁ」




 咄嗟のことに反応が遅れ、もろにその閃光を浴びた「悪しきもの」は目を押さえ、その後手当たり次第に爪を振り回し始める。




「おのれ小娘ぇ生意気なぁァァァどこだァァァ」




 セレスタイトは静かに「悪しきもの」から距離を取り、木陰にしゃがみ込むと、静かに浄化で使う結晶の小さなものを作り、それを先程と同じ様に今度は森の奥に向けて撃ち放った。




 結晶はチラチラと音を立て、暗闇に包まれた森の中を小さく照らしながら駆けていく。




「そこかぁぁァァァ見つケタゾォォぉぉマぁぁァァてぇぇェェ」




 そしてそれを追って「悪しきもの」は爪を振り回し木々をなぎ倒しながら森の奥へと走ってく。


 その姿はあっという間に瘴気に呑まれて消えていった。




 先程の戦いが幻であったかの様に突如として森に静寂が訪れる。


 セレスタイトは深く息を吐くとゆっくりと立ち上がり、「悪しきもの」の去って行った方を睨みつけた。




「私は決してあなたを許さない、絶対に」




 そう呟いたセレスタイトの足元には、割れたランタンが光を失って転がっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る