(21)〜魔女の少女と「魔女」そして「悪しきもの」〜



「あら?なぁに?あなた、まさか私と戦うつもり?さっきまであんなに怖がってたのに?ふふっ、あなたってまさか、バカなの?」




 セレスタイトが再び構えを取ったことに気がついたアンジーは、扇子で口元を隠して小馬鹿にするように鼻で笑う。




 しかし、今度こそセレスタイトの覚悟は、眼差しは、決して揺るがなかった。




「ええ、そうですね。きっとあなたにはバカに見えるでしょう。でも私には、守りたい街が、守りたい人たちが、守りたい自分の行くさきがあるんです!それをあなたに、あなた個人の快楽なんかに壊されてたまるかってんですよ!!!」




「ふうん、大層なことね。いいわ、そこまで面白いことを言ってくれたんだもの……。私の最高傑作のこの子の全力に、あなたの覚悟がどこまで耐えられるか…とぉぉっっても見てみたくなったわぁ!」




 そう言うと、二人は同時に動き始めた。




 セレスタイトは「悪しきもの」の攻撃を躱しながら「足止めの陣」を展開していく。




 しかし、すぐにアンジーによって陣が壊されて行く。




 ならばと、アンジーが構築している魔法を壊すためにアンジーに近づこうとするが、「悪しきもの」の斬撃に阻まれて思うように近づけない。




 風を斬る鋭い音と直後の轟音。


 パキパキとガラスでも踏み潰すかのような、展開させた陣が端から軒並み壊されて行く音。




 逃げる程に息が上がり、駆ける程に苦しい。




 ---それでも何か、何か一手、相手に届く何か……




 セレスタイトが「悪しきもの」を振り切るため、走りながら次の策を考えていると、




 不意にアンジーの口の端が不気味に弧を描いた。




「でーきた」




 そう言うとアンジーが何かを小さく呟く。と、急に「悪しきもの」が動いていた態勢のまま動かなくなる。




 一体何をしようとしているのか、そう思った時。




 アンジーは作り上げた陣を発動させ、なんと動かないままの状態の「悪しきもの」に向け撃ち放った。






「グゥぅがァァァァあァァぁぁァァァァ」






 アンジーの放った陣が「悪しきもの」を包み込んだ瞬間、地を揺らすような「悪しきもの」の咆哮が森の中を響き渡る。




「さあさあ、デゥンケル!私の最高傑作ちゃん!あなたの力をその子に見せてあげなさい!」




 轟音の片隅に狂気を帯びたようなアンジーの声が聞こえる。


「悪しきもの」は、魔法陣を通して与えられるアンジーの魔力を呑み込み、瞬く間に魔力で自身の身を増強させていく。




 それはもう、セレスタイトの知る「魔物」では無い。




 ……災厄、惨禍、兇変。




 そういった言葉の方がよく合う、そんな化け物が目の前に現れたのだった。




 セレスタイトは「悪しきもの」から一度距離を置き、自分の周りに二重、三重と結界を張り巡らせる。


 しかし、これも少しの時間稼ぎにしかならないだろう。




 ---これじゃ足りない、母さんの陣を展開させる為には時間がかかる…考えないと。まずは一度ここから離れて態勢を整える。どうやってアンジーの妨害を避けるのか………。






 そう思った時、




「フッ、調子ヅいた小娘がァ、勝手ナこトヲ言いヨルわい」




 突然の地を這うかのように、低く唸るかのように、響く声。


 そして次の瞬間、アンジーの魔力の流れが急に変わった。




「えっ?」




 そう声を漏らしたのはアンジーだった。


 そして、その声は間もなく絶叫に変わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る