(18)〜それぞれの出発〜


 それから2日後。




 鳥や虫の声さえ聞こえない、夜の深まる静かな頃。




 蝋燭の小さな灯りを頼りに、セレスタイトは出発の準備を進めていた。




 薬、ナイフ、陣の書かれたいくつもの紙……。


 必要な物を詰め終え、最後に母の手帖を願いを込めるように、祈るようにそっと持ち上げ額に付ける。




 ---どうか、どうかうまくいきますように……




 願うのは、願えるものはただそれだけだった。






 掛け鞄に手帖を入れ、セレスタイトが部屋を出ようとした時、ふと机の上の小さな青い髪飾りが目に入った。




 討伐隊の話を聞いた時、ライゼに貰った髪飾り。


 大切な物だからと置いて行くつもりのものだったが、セレスタイトは静かに机に駆け寄ると、優しくそっと手で扱って、自分の右の髪に挿した。




 髪飾りは澄んだようにセレスタイトの髪に馴染んでいた。




 蝋燭を持ち、一階に降りたセレスタイトは鞄の中から手紙の入った白い封筒を取り出すと、ライゼへのものを上に重ねて居間のテーブルの上に、蝋燭を吹き消したものと一緒に置いた。




 外に出ると、音が出ないようにゆっくりと扉を閉め、数歩進んで振り返る。




「…いってきます」






 セレスタイトは住み慣れたこの家に最後の挨拶をしたのだった。




 ♯♯♯




 ライゼはなかなか寝付くことができずにいた。




 何度も寝返りを繰り返し、それでもやってこない眠気に仕方なく起き出し、下の階に降りるため、新月で月の明かりさえない真っ暗な廊下に蝋燭の灯を持って出る。


 そして、そこで違和感を持った。




「……あれ?セレス、もう寝たのか?」




 いつもは、夜遅くまで漏れ出ているセレスタイトの部屋の明かりが、今日はもう付いていない。


 それどころか、人の気配が無く妙にしんと静まりかえっている気がする。




「いや、まさかな…。ここ最近、ずっと色々あったから寝てるんだ、きっと。」




 ならば起こさないようにと、そっと客室の扉を閉め、ライゼはゆっくりと一階に降りて行った。




 下の階に降りても、やはり人の気配はなく。


 ライゼはそのまま水でも飲もうと、持っていた蝋燭の灯を側にあったテーブルに置こうとした時だった。




 蝋燭の灯が真っ暗だったテーブルの上に置いてある、白い手紙を照らし出した。




「なんだこれ?」




 不審に思い、すぐに手紙の1つを手に取ったライゼは宛名を見るため裏返して、息を飲んだ。


 そこに書かれていたのは




『ライゼ へ』




 他でもない、自分の名前だった。


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