(17)~魔女の少女は行商人少年と街に行く②~
走る。走る。走る。
---ダメだ。アイツの相手は討伐隊じゃダメだ。早く、早く帰らなきゃ。私が、私がなんとかしなきゃ!
薬屋を飛び出したセレスタイトは息を切らし、それでも走る。
魔物討伐隊。
そこはセレスタイトの父親がかつて所属し、そして亡くなる原因であった
---このままじゃ、このままじゃまた同じことになる。今度は父さんじゃない誰かが……。
角を曲がり、大通りに出る。
「やっぱり、まだ来てないか」
待ち合わせの場所には、まだライゼの姿がなかった。
セレスタイトはそのまま、大通りの片隅に立ち止まった。
「相談…するべき、なのかな?」
なぜか自然とそう思う、何故だろうライゼは言ってしまえば他人なのに、自分に相談されても本来なんの関係ないのに、それでもライゼには言っておきたかった。
「……そういえば来る時、ライゼも何か言いたそうだった。ライゼの話のついでに、言えそうだったら相談しよう。まずは帰らないと。ライゼがいそうな所は……やっぱり広場…かな?」
いつの間にか、通りには来た時は見られなかった人の集まりがいくつも出来ており、時折拍手や歓喜の声が聞こえてきた。
セレスタイトはそのまま歓声に背を向けて、春告げの祭りの会場である時計台の広場まで走った。
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セレスタイトが祭りの会場のライゼの露店の前に着いた時。
ライゼは同じ露店商人らしき人と話をしていた。ライゼはセレスタイトに気がつくと話を切り上げて、すぐにセレスタイトの方にやってきた。
「あれ?セレス、待ち合わせはまだだったよな?」
「えっと、お店混んでたから、二人とも元気そうだったし、邪魔になるのも悪いなと思って早めに出てきたの。」
嘘は言っていないが、本当の理由でもない、そんな言葉で誤魔化す。
「ライゼこそ、さっき何か話していたけど、何かあったの?」
「ああ、俺も今さっき聞いたことなんだけど、祭りを再開させる目処が立ったらしくて…セレス、まだ少しの間客室借りてて大丈夫か?」
「それは大丈夫だけど、でもどうして急に再開?」
「あの森に魔物の討伐隊が派遣されるらしくて、それでやっと、祭りも無事に再開の目処が立つらしい……でさ、セレス」
それまでとは一転して、急に口ごもり始めたライゼが数回、視線を泳がせる。
そして、意を決したようにセレスタイトの方に向き直り、こう言った。
「セレス、もし『悪しきもの』の件が解決したら、その…良ければなんだけど、旅について来ないか?」
セレスタイトは突然の提案に驚き、同時に嬉しいと思った。
だから、きっといつもなら、すぐに返事が返せたのだろう。
「嬉しい…けど、返事はもうちょっと待って欲しい……ごめんね。いい、かな?」
けれど、その日、セレスタイトが言えたのはそんな言葉だけだった。
「それは大丈夫。まだこの街には居るつもりだから、祭りが終わるまでに返事してくれればいいよ。俺の方こそ急にごめん」
ライゼはそう言って、返事を待ってくれた。
「じゃあ帰る準備を……あっ、待って」
ライゼはそう言って露店の裏側にまわって行く。
そして、何か小さな箱を持って戻って来た。
「危ない危ない、忘れる所だった」
「ライゼ、それは?」
「えーっと、セレスちょっと目つぶってもらっていいか?」
「う、うん。いいけど……」
セレスタイトはライゼに言われた通りに目を閉じた。
しばらくして、カシャりという音が右の耳の近くで鳴り。
「もういいよ」
そうライゼの声がして目を開けた。
一瞬、目で見える限りは何も変わっておらず、不意にそっとさっき音がした方に手を伸ばす。
右のこめかみの近く、そこには花が模された物があった。
「うん、やっぱりよく似合ってる」
「ライゼ、これまさか……。」
「初めて会った日にセレスが見てた髪飾り。ここ数日、何かずっと思い詰めてたみたいだったから少しでも気が紛れたらいいなと思ってさ……ま、まあ宿代の代わりくらいに思ってくれたらいいよ」
そう言うとライゼが照れくさそうに視線を外す。
どうやら、結構心配させてしまっていたらしい。
「ありがとう、ライゼ。」
「うん。それじゃあ俺、ガスパル連れて来るから大通りで待ってて」
そう言ってライゼはガスパルを預けている所の方へ走って行った。
その後ろ姿を見送りながら、セレスタイトは小さく謝った。
---ありがとう。ごめんね、ライゼ。これ以上はもうあなたを巻き込めない。
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