(14)〜魔女の少女と母の遺品③〜


 再び扉の前に立ち、鍵を包み込んだ両手を胸に当て、セレスタイトは祈るようにそっと息を吐く。




「大丈夫か?」




 セレスタイトの横に立つライゼが心配そうに顔を覗き込む。




「うん、大丈夫行こう」




 そう微笑むと、セレスタイトは扉に鍵を差し込み、ゆっくりと回した。


 ガチャリと音がして、ドアノブに手をかけゆっくりと扉を開き、そっと開かずの部屋の中に足を踏み入れた。




 久しぶりに入った母の部屋は、うっすらと埃が積もっていたことと最後に供えたベットの上の花が枯れていること以外、セレスタイトの記憶と全く変わらない。




「うぉ、埃まみれだな」




 セレスタイトの後に続いて部屋に入ったライゼが、驚いた声を上げる。




「そうだね。掃除すればよかったかも。」




 そう小さく笑って窓を開ける。


 長らく開いていなかった窓は硬く、ガタガタと音を立ててようやく開く。


 春の涼しい風と共に部屋の埃が舞い上り、日の光に当たってキラキラと落ちていく。


 気を抜けば、すぐにでもやって来そうな悲しみを押し込みながら、ライゼの方に振り返る。




「よし、頑張って探そう!」




 そう言って、セレスタイトは笑った。






 その顔は果たしてきちんと笑えていただろうか………。




 ♯♯♯




「………これじゃない」




 セレスタイトは溜め息を吐き、手にしていた本を閉じた。


 そしてふと自分の周りを見ると、またいくつもの本の山が出来ており、その山の向こうではライゼが引き出しを開けたり、家具を動かしてその下や隙間に挟まっていないか探している。




 しかし、セレスタイトの母親の手記を探し始めてから、もうかなりの時間が経ったが、一向に出てくる気配がない。




 ---もしかしたら、そんな物ないのかもしれない。




 そんな考えが頭をよぎり俯いた時。




「セレス、大丈夫だ。きっとある」




 そうライゼの声が聞こえて、セレスタイトは弾かれたように顔を上げた。




 ライゼは目の前の鏡台を探ったまま、続ける。




「セレスの母さん、セレスの為に色々手帖に書いて残してくれてるんだろ?」


「うん」


「だったら、見てないだけで『あのバケモン』についても何か書いてるやつもきっとある。それに、セレスがあるって信じないと見つかる物も見つから無くなるぞ?」


「うん、そうだね。ありがとうライゼ」


「おう」




 そう言った後、ライゼはセレスタイトの方を見てにっと笑った。そして、鏡台の引き出しを開き、ふと動きを止めた。




「ライゼ?どうしたの?」


「ん?いや、この段の引き出し、他の段のより開きが小さいなと思ってさ。」




 そう言って、ライゼは何度か引き出しを開け閉めする。


 確かに一番上段の引き出しは他の段の半分程しか開いていない。




「ほんとだ。なんでだろ?」




 セレスタイトも鏡台に近付き、その不自然な引き出しを眺める。




「なあ、セレス。この鏡台ちょっといじって大丈夫か?」


「え?うん、大丈夫だよ?」




 セレスタイトがそう返事を返すと、ライゼは慣れた手つきで引き出しを外した。




「やっぱりな…」


「?何かあったの?」




 セレスタイトがライゼの後ろから恐る恐る尋ねると、ライゼは振り返ってにやりと笑って言った。






「ああ、こいつ普通の鏡台じゃない。仕掛け鏡台だ」




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