(12)〜魔女の少女と母の遺品~


 ライゼが目覚めて数日。


 ライゼはセレスタイトの治癒魔法と魔石のおかげでガスパルの世話ができるまでに回復していた。




 セレスタイトはライゼが回復すると、必要最低限の時間以外は全て家の書庫に篭るようになり、母の手記や母の集めた古書から「悪しきもの」に関する記述や対策法を探すため、本棚の片っ端から読み漁る日々を過ごしていた。


 しかし、「悪しきもの」に関する記述も対策も見つからず、とうとう最後の一冊、最後の一ページまで読み切ってしまった。




「ない…これが最後の一冊のはずなのに……何にも書いてない」




 セレスタイトは改めて周りを見渡す。


 古い紙とインクの匂いのする狭い部屋には本の山がいくつもできている。


 はじめあれほど本でぎっしり詰まっていた本棚はメモ一枚残されていなかった。




「ここに無いってことは……もしかしたら他の部屋にある?でも、どこに?」




 頭を抱えるセレスタイトの耳に町の鐘の音が聞こえた。




「あっ。もうそんな時間なんだ………」




 セレスタイトはふらふらと立ち上がり積み上げた山を崩さないようゆっくりと書庫を出て扉を閉じる。




 1階に降りようと階段の方に向かった時、廊下の一番奥にある部屋の扉が見えた。


 母が亡くなってからもう何年も開けていない両親の部屋部屋だった。




「そういえば、母さんの物をしまったままだ…もしかしたら何かあるかもしれない」




 セレスタイトはぱっと顔を輝かせ、最後に鍵をかけた日からお守り代わりに首から提げていた鍵を手に持ち部屋の前に立ち…。








 鍵を開けることはできなかった。








 代わりにセレスタイトの頬を涙が伝う。


 そして、先程まで忘れていた、この部屋に鍵を掛けて開かずの部屋にしてしまった理由を思い出す。




 ―――そうだ、私は。私は母さんが死んでしまったことを認めたくなくて、棺の出て行ったあとこの部屋に鍵を掛けたんだ。




 本当はそうすべきではなかった、閉じるべきではなく、受け入れるべきであることは分かっていた。


 でも、ハッキリとは認めたくなかった。




 いくらノックしても、いくら声を掛けても、いくら部屋を訪ねても、そこにあるのは空っぽの部屋だけで、もう母の姿はない。


 その事実を認めたくなくて、セレスタイトは気持ちの区切りのつかぬまま、優しい思い出と記憶、深い悲しみや寂しさが詰まったこの部屋を開かずの部屋とすることで、母の死の哀しみをを封じることで、無理矢理前に進んだ。




 いや違う、そうでもしないと前に進めない、哀しみに潰されてしまうと言い訳をして、結構の所は逃げたのだ。




 だからか、日が経った後、セレスタイトは何度かこの部屋に入ろうとしたのだが、その度に封じた気持ちがどうしても溢れて入れなかった。




 結局、最後にこの部屋に入ろうとしたのは何時だっただろうか。








〜〜〜薄暗い廊下にセレスタイトはただ一人、自責の念に駆られていた。〜〜〜

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