(10)~嵐の後の静けさ~※


 ライゼが投げた手のひらサイズの何かとは、閃光弾だった。




 ライゼが投げた閃光弾は、結界を殴り続けけていた、「悪しきモノ」のすぐ目の前で炸裂した。


 閃光弾によって視界を奪われた「悪しきモノ」は哮り立つと、瘴気の向こうに消えていった。


 目が眩んでいるせいか、途中、森の木々にぶつかっている様で木の折れる音が遠くで聞こえる。




「やっ、た……」


「ライゼ?ねえ、ライゼ?」




 目を開けたセレスタイトは、ライゼの意識が途切れたのを見て慌てて、呼吸を確認する。




「………良かった…息は、してる……」




 どうやら、ただ気を失っただけの様だった。そして、ライゼの傷口にかざしていた手を退けて見ると、背中から脇腹にかけてあった深い傷口もふさがり、一応今のところ、出血によって命の危機に瀕する事はなさそうだ。




 セレスタイトはひと息つくと、手を開き、魔力の残った量を確かめる。




「あーあ…魔力、もうほとんどないや……でも、転移魔法…ギリギリだけど一回できるかな?」




 そう呟いて、セレスタイトは近くに落ちていた小枝を拾った。そして、ライゼから少し離れると、地面に小枝で陣を描いていく。


 セレスタイトが小枝を地面にはしらせると、繊細な陣が地面に現れる。




 ―――最近は魔力で編むから、使わなかったけど……意外と覚えてるものね……




 そんなことを思いつつ小枝で地面をなぞり続けると、いつのまにか立派な陣ができていた。




「………陣はこんな感じで大丈夫……かな?…次は………血かぁ……」




 セレスタイトは自分のウエストポーチの中から、小さな折りたたみ式のナイフを取り出した。


 ナイフの刃を出す、刃は光を受け鈍く光った。ナイフは使い古されていてるが、刃はきちんと手入れをしているために、よく切れそうだ。




 セレスタイトは意を決して、ナイフの刃を自分の左手の甲に滑らせた。刃の滑った跡から細く赤い線が現れ徐々に線は太くなる。そしてそのまま指を伝い、先程書き終えた陣に赤い雫が落ちた。


 陣はセレスタイトの血を受けた所から蒼く光りを放ち始め、地面に書いた陣の隅々に広りって行き、地面には大きく繊細な蒼の転移魔法陣が現れた。




「……やっぱり痛いし…あんまり頻繁にはやりたくないな……」




 セレスタイトはナイフの刃を持って来ていた布で拭き、元の通りにしまった。気を失ったままのライゼを陣の中に運んだのち、陣の真ん中に両膝をついて目を閉じ、両手を陣にかざして意識を陣に集中させた。




 陣の中に風が吹く。




 セレスタイトは、目を開けかざしていた両手を陣に押し当て、持っていた魔力を全て、陣に流し込んだ。


 持っていた魔力が陣に吸収され、底を尽きた感覚がした刹那、陣の外側の景色が ぐにゃり と曲がり……………。








 ****






 気がつけば、二人ともセレスタイトの家の前にいた。




「………よかった…帰って来れた」




 セレスタイトはしばらくの間、魔力不足と安堵で足の力が抜け、その場に崩れ落ちるように座りこんだ。




 しばらくして魔力がある程度回復すると、もうあたりはすっかり日が落ちていた。


 セレスタイトは依然、意識をうしなったままのライゼに魔法をかけながら家の客室まで運び、客室に備えてあるベットに寝かせた。




 ライゼの呼吸は安定していて、表情も穏やかだった。




「ライゼ…本当にありがとね」




 そう眠ったままのライゼに呟いて、セレスタイトはふらふらと危なげな足取りで客室を後にし、自分の部屋に戻ると、そのまま倒れこむようにしてベットに横たわり、意識を手放した。

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