(8)〜魔女の少女は対峙する~


 セレスタイトは「悪しきモノ」を浄化する為に、浄化魔法の効く限界距離まで近づいていった。


 が、セレスタイトの魔力不足と、「悪しきモノ」が取り込んでいる『負』は思っていたより強かった。




 ―――! これは……思ったより近づかないと浄化が出来ない………




 セレスタイトは覚悟を決め、「悪しきモノ」を浄化する為、ある程度「悪しきモノ」との距離詰めた。




 すると、瘴気の向こうから現れた「悪しきモノ」は、セレスタイトめがけ、大きく鋭い爪を振り回しながら向かって来ていた。どうやら「悪しきモノ」はセレスタイトを敵とみなした様だ。




 途中、森の木々に振り回している爪や、セレスタイトよりひとまわりもふたまわりも大きな図体がぶつかり、凄まじい轟音を響かせながら、見た目だけは容易く折れて行く。




 セレスタイトは即座に、持っている魔力を使えるだけ使って、自分と「悪しきモノ」の足元に陣を編み、魔力を陣に流し込む……。


 陣は、先程魔物を浄化した時より強く光りを放ち………あっという間に「悪しきモノ」を先程の魔物の様に結晶化させてしまった。




 ―――………あとは…陣に込めた魔力が「悪しきモノ《ヤツ》」を浄化し終えるのを待つのみ………呆気、ない?……




「セレス こっちは全部倒し終わったけど、そっちはどうなった?」




 セレスタイトはライゼの声を聞いて、今しがた感じた違和感を頭の隅に追いやって、後ろからくるライゼの方を向いた。


 ライゼは肩に剣を乗せ、剣で肩を軽く叩きながらこちらに歩いてきた。




 ―――やっぱりライゼって結構強いんだ…




「うん、こっちも終わったよ、あとは浄化されるのを待っ……」




『待つだけ』セレスタイトのその言葉は、セレスタイトの背後から聞こえる、注意して聞かなければ聞き過ごしてしまうような、僅かな「嫌な音」に邪魔をされ、消えてしまった。




 セレスタイトが慌てて振り向くと、背後の結晶には内側からヒビが入っている。




「えっ……うそっ…………」




 セレスタイトが状況を飲み込めず、そう呟いた途端、バキンと言う音と共に結晶に大きな穴が空き、中から濃縮された瘴気が溢れ出してきた。




「え?……なんで? なんで?なんで浄化できてないの?」




 セレスタイトは目の前の出来事を理解出来なかった、いや理解したくなかった。


 頭が真っ白になって行くのを感じ、足と手が震える。




「 ! セレスッ!!!」




 ライゼの声にハッと意識を戻し結晶を見る。




 ―――あっ……




 そこからはまるで自分の周りの時が、ゆっくりと過ぎて行く様だった。音も遠くに聞こえる。




 セレスタイトが見たものは、ヒビ割れて大きな風穴の空いた結晶から、結晶化される前より更に大きくなった「悪しきモノ」だった。


「悪しきモノ」は、ゆっくりと、確実に大きく鋭い爪をセレスタイトめがけ振り下ろしている。




 ―――結界……そうだ、結界を、張らなきゃ………




 真っ白になって行く頭の中、セレスタイトはようやく結界魔法を思い出し、「結界」を唱える。




 が、セレスタイトの結界はまだきちんと張られないまま、「悪しきモノ」の爪の威力に耐えられず、パキンと、軽い音を立て砕け散った。逃げようにも足は固まった様に動かない。


 セレスタイトは目を瞑る事も忘れ、呆然と、ただ呆然と迫り来る「鋭い爪」が自分セレスタイトを切り裂く為に近づいてくるのを見ていた………。




 ―――ああ……もう、ダメだ………








 セレスタイトが次に自分の身の起こる痛みと衝撃を脳裏に浮かべたその時、「悪しきモノ」とセレスタイトの間を何か影が横切った。


 結果、セレスタイトの身には、脳裏に浮かべた様な衝撃は受けなかった。








 〜セレスタイトの瞳に『鮮やかで真っ赤な花が散っていく』のが映った。〜


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