(5)〜魔女の少女の家にて〜


 ライゼの荷馬車に乗せてもらったセレスタイトは、夕日が完全に落ちきる前に家に帰って来ることができた。


 ライゼの荷馬車がセレスタイトの家の玄関先に来ると、セレスタイトは荷馬車を降りライゼにお礼を言う。




「ありがとう送ってくれて、ガスパルもありがとう」




 セレスタイトがお礼を言うとガスパルが嘶いた。




「こっちこそ部屋貸してくれてありがとな そうだ、セレス、君の家に馬小屋ってあるかい?なくても別に大丈夫だけど」


「えーっと…もう使ってないから、干し草を敷かないといけないけど…ある事はあるよ 家の向かって右側」


「了解、じゃあ、それからだな」


「ちょっと待ってて、ランプ取ってくる」


「よろしく」




 セレスタイトは家に入ると、家中の明かりを灯して階段を上がり、二階にある物置部屋に行った。


 物置部屋の棚から、しばらく使っていないランプを取って油を入れ、火を灯して外へ持って行く。




 辺りはもう真っ暗だ。




 馬小屋では、藁を入れ替え終わり、ガスパルを小屋に入れたライゼが、荷馬車の荷を整理しているところだった。




「ライゼ、ランプ持って来たよ」


「ありがと、ちょっとここの木箱の中見たいから照らしてくれる?」




 セレスタイトが言われた木箱を照らす。


 ライゼは木箱の中身を確認して、「お、あったあった、ありがと」 と言ってその木箱を取り、あとには大きな布をかけた。


 ライゼの荷物を持って、セレスタイトとライゼは家に向かう




「ライゼって腕細いのに結構力あるんだね」


「よく、重い木箱を持ったりするから、それなりに力はある方だと思う」


「で?その手に持ってる木箱の中身は商品?」


「そ、アクセサリーの類いだから磨いておきたくて…また見せてやるよ」


「え!いいの?」




 セレスタイトは目を輝かせずにはいられなかった。


 元々、可愛いものは好きだし、何より昼間飾ってあったアクセサリーは、どれも素敵だったからだ。


 そんなセレスタイトの様子を見て、ライゼは笑いながら、「また後でだからな?」と言った。




 家に入るとセレスタイトは、被っていたケープのフードを取ると、セレスタイトの肩口くらいのまっすぐな髪が現れる、着ていたケープを元の玄関先に掛け、ライゼを二階の三つ部屋が並んでいるうちの、真ん中にある客間に案内した。




 その後、ライゼが荷物を解いている間、セレスタイトは夕食の準備をしていた。




 夕食が出来上がり、セレスタイトが作った料理をテーブルに並べていると、ようやく荷物を解き終えたらしく、ライゼが二階から降りてきた。




「ごめん、ちょっと時間かかった」


「ううん、大丈夫、今、料理も出来上がったところだよ さ、食べよ食べよ」




 セレスタイトとライゼは、料理の並べられたテーブルの席に着く。


 すると、セレスタイトはお皿が一枚足りないことに気づき、「ごめん、お皿が足りないね、ちょっと待ってて」 そう言って、ついうっかりいつものように指で軽く宙をなぞった。




 一瞬、セレスタイトの髪がふわりとそよぎ、髪と瞳の色が蒼みを帯びる。


 すると、台所の食器棚からお皿がひとりでに浮いて、こちらにやって来た。




「セレス、君、魔女だったんだね」




 ライゼの言葉に、台所からやってくるお皿を受け取ろうと、横を向いていたセレスタイトはハッとした。


 脳裏に幼い頃の記憶…街で同年代の子に魔法を見せ、「化け物」「気味悪い」と泣き叫ばれた、そんな記憶が蘇る……。




 次の瞬間、浮いていたお皿がぐらりと傾き、床に落ちた。お皿は割れ大きな音を立てて、床に散らばる。




 セレスタイトは恐る恐るライゼの方を向き、少し困ったように自嘲気味に笑った。




「ごめんね、そうなの……やっぱり気持ち悪いよね…」




 ―――あーあ、やってしまった…ライゼとなら、同年代でも仲良くなれるかもと思ったのになぁ




 セレスタイトが次に来るであろう、今まで色々の人から言われた厳しい言葉に身構えて俯いていると……。




「? いや?全然全く、俺、話は聞いたことがあったけど、実際に魔法って初めて見たんだよ、なんかこう、うまく言えないけどさ、すごく綺麗だな!魔法って!」




 セレスタイトは予想外の言葉に唖然として見ると、ライゼの目は嬉々としている。




「え?ちょっ、ちょっと待って、ライゼは私が気味悪くないの?全然?」


「セレスはセレスだし、まっったく、気味悪くないけど…? それがどうかしたか? そんなことより早く食べないと、せっかくの夕食が冷めちゃうぞ」




 そう言ってライゼは目の前の夕食を食べ始めた。


 そんなライゼの様子を見て、セレスタイトは何か心が軽くなった気がした。




「ありがと…」そう小さく言って、再び宙をなぞると、また瞳と髪の色が蒼みがかって、新しいお皿に加え、今度は箒と塵取りがやって来て、今しがた落として割ってしまったお皿を片付けて行った。




「そういや、魔法を使ってる時、髪と瞳の色が変わるんだな」


「うん、そうなの、昔 ついうっかり街で魔法を使ってね…髪と瞳の色が急に変わったのを街の人が見て、ちょっと大変な事になった事があったの、それ以来 街では極力魔法を使わないように気をつけて、髪と瞳はフードで隠すようにしてるの」


「へー…意外と面倒なんだな、ほかに魔法って何かできるの?」




 セレスタイトは少し考えて、




「えーっと、今見せたのが、一番簡単な浮遊魔法で私は人 一人までが限界、薬を作るのにも魔法を使ってるよ、あと治癒魔法、これはかすり傷ならすぐに治せるけど、大怪我には時間がかかるし、魔法だけで完治はムリ、治癒と言っても自己回復能力を高めるものだからしばらく眠ったままになるし……ほかに、陣を描けば転移魔法と封印魔法みたいな高度な魔法もできるけど、術者の血が要るから出来ればしたくない。……治癒魔法で治るとはいえ、痛いし」


「なるほどね、魔法って万能そうに見えて、実はそうでもないんだ」


「魔法は魔力あっての物だし、当然、魔力にも限界がある、それとは別に、魔法使いや魔女の掟や制約も多いの。だから万能ではないわね」


「じゃあ、セレスの一番得意な魔法は?」


「浄化魔法と結界、ちなみに浄化魔法と対になる人を呪う魔法は全く合わなかったわ。その所為せいで他の魔女から邪険にされるのよね……」


「へー」




 セレスタイトはこれまで、魔法を使って避けられる事はあっても、感心されたことがなかった、その為ライゼの、単純に魔法について聞いてくるこの反応がなんだかこそばゆくて、でもとても嬉しかった。












 〜その日の夕食は、セレスタイトにとって一番楽しい夕食になった〜

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