44.宝玉に導かれて 2
「た、旅に出るのか。気をつけてな……」
心底心配そうな門番さんに見送られながら街を出る。
ファナさんを先頭にして3人で歩く。いつもファナさんと2人きりだったから何だか不思議な感じだ。自然とファナさんの揺れるポニーテールを眺めながらボーっとしていると、いつの間にかいつもの森にたどり着いていた。
昨日、宿で宝玉を光らせた時には、森の方向とおおよそ同じような方向だったので――確実に反対方向ではなかった――ひとまずは森あたりまで歩いて、人に見られないところから本格的に動き始めようということになったのだ。
周囲に人やモンスターがいないことを確認して、俺は空に飛び上がった。
飛び上がった、とかっこいい言い方をしたが、ナメクジの如き上昇速度なのでエレベーターに乗っている人くらいな感じだろう。
「よし!」
気合を入れて、『無限収納』から宝玉を取り出した。宝玉を動かそうと念動力を働かそうとしてみる。
当然宝玉は動かないわけだが、一筋の光が宝玉から溢れ出してきた。同時に、昨日買ってきた方位磁石も『無限収納』から取り出す。一筋の光は北東の方角を指していた。昼間にも関わらず宝玉から出る光には若干の紫がかった色がついているので、よく見えた。
それを確認し終えたところで、宝玉を『無限収納』にしまってから地上に降りる。
地上に降りるとファナさんがワクワクした表情で待っていた。いつもは背中に背負っている大剣を腰に装備していた。
「方角はちゃんと見えそうか?」
「うん、全然くっきりわかりましたよ」
「じゃあ、
目を輝かせて俺に半ば詰め寄るファナさんについつい苦笑する。相変わらずめっちゃハマってるなぁ。俺たちのやり取りにクレト様は「アレ、とは……?」と困惑している。
俺はファナさんの期待とクレト様の疑問に応えるべく、『無限収納』から『ハンググライダー』を取り出した。
ファナさんにハンググライダーを手渡すと、非常に手際よく装着し始めた。
「あの、その巨大な羽のようなものは何なのでしょうか? その、もしかして……」
クレト様が不安そうにファナさんが背中につけているハンググライダーを見つめた。
「ええ、これを背中に着けて空を飛んでいきます。どれだけ遠いかわかりませんから、徒歩で旅なんてしてられません」
「こんな羽で空を飛べるんですね……」
クレト様は若干顔を青ざめている。確かにそういわれると、手作り感満載のこのハンググライダーだけで滑空しろと言われたら俺も不安に思うかもしれない。
クレト様を怖がらせたままに飛び立つなんて不敬なことはできないので、俺はクレト様を安心させようと笑顔で話しかけた。
「クレト様、心配ありませんよ。確かにこの道具のつくりは若干ちゃちかもしれませんが、空を飛ぶときには俺の『念動力』でサポートをおこなうので万が一姿勢が乱れたとしても落ちてしまうなんてことはありませんから」
「……いえ、あの、……はい。ありがとうございます。……では、よろしくお願いいたします」
クレト様は少し迷ったように視線をさまよわせたが、決意したように俺にまっすぐ視線を向けてきた。
よしきた。
俺はクレト様にハンググライダーを装着するのを手伝ってから、自分の装備も行った。クレト様に装着するときに御髪(おぐし)からいい匂いがして緊張したということは絶対にばれないようにしよう……。
ファナさんと一緒にお互いの装備に不備がないか確認し合ってから『念動力』を発動。
俺たちは空へと飛び上がった。なお、その上昇速度は以下略である。
ある程度の高さまでたどり着いたところで、『無限収納』から宝玉を取り出す。念動力を籠めて光らせ現れた光の方向に我々の身体の方向を向けた。
「では、いきますよ~」
「よしきた!」
「え、ええ……」
テンションMAXなファナさんと、怖がるクレト様。
クレト様には申し訳ないけど、きっと一定時間飛んでいれば慣れるから。
というわけで、我々の身体にかけていた念動力を弱めて、自由落下開始。重力の力を借りて俺たちの身体は結構なスピードで滑空し始めた。
「ヒャッホウ!!」
「あぁぁあぁぁぁぁ……!!」
楽しむファナさんと、絶叫するクレト様のギャップよ……。
というか、申しわけないけど絶叫するクレト様とかはじめてみるから新鮮だな。
と、光の方向に合わせて滑空、上昇、滑空、上昇を続けていると、手に持った宝玉がプルプル震えだした。
俺は念動力で我々の身体を一定地点に固定した。
光の筋も出て来なくなったからね。
「お、これが宝玉の限界か」
ファナさんが俺の手元の宝玉を見て言った。プルプルと震えていた宝玉は、そこから更に念動力を加えてみるとどんどん震えの速度が速くなり、最後にはバイブレーションみたいになったかと思えばパーンと砕け散って消えた。
そこからは新しい宝玉を出しては砕くという同じ作業を繰り返していった。
途中からクレト様の絶叫は聞こえなくなった。やっぱり慣れたのだろう。
ファナさんはずっと楽しそうにしていた。かわいい。
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