43.宝玉に導かれて 1
さて、そんなわけで
食糧は大量にあると言えど、2人分を1年分くらい購入しているだけなので、追加でクレト様の分を購入する必要があった。
後はベッドだったり、枕だったりという寝具だな。
普通の冒険者はテントで雑魚寝しながら旅をするらしいが、クレト様にそんなことはさせられない。
そんなわけで一度市場や商店街に戻って色々と購入してからクレト様と別れて、宿に戻った。
クレト様とは明日の朝、門の前に集合する予定だ。
「女将さん、明日から旅に出ることになった。どれくらいになるかわからないが、もしかしたら1年かかるかもしれない。部屋を押さえてもらうことは可能だろうか?」
宿に戻ってすぐにファナさんが女将さんに話しかけている。
以前のファナさんなら「何が何でも部屋を押さえておけ! 金なら払うから!」という感じだったらしいが、今は随分と余裕を持っているように見える。
それはやはり、もし宿を押さえていられなくても、宿に空きがなくなったとしても、俺たちの『家』をどこにでも建てられるからだろう。
最悪、街の近くの森を開拓して勝手に家を建ててもいいわけだしね。
……それっていいね。ファナさんと二人暮らしのマイホーム。
いや、でも宿の美味しいごはんが食べられなくなるのは嫌だ。自分でご飯をつくるのは楽しいが毎日となると、きっとめんどくさく感じるに違いない。
となると、金に余裕のある限り、宿暮らしが一番理想的だな。
この世界に来てめちゃくちゃ贅沢になってしまった気がする。
「お金さえ払ってくれるなら全然問題ないよ。ご飯代を引いておくね」
女将さんはあっさりしている。冒険者を見送ることに慣れているからだろうか、これが冒険者デフォルトだからだろうか。女将さんの性格のような気もする。
言われた通りの金額をパーティの共有の財布から支払って、無事旅の準備は完了した。
後は寝るだけである。
◆
――いやぁ、寝るのに一番苦労するとは思わなかった。
でも、あの光の先に何があるのか、想像したらワクワクしすぎて目がさえて眠れなくなってしまったのだ。
俺は遠足前の小学生か。自分にがっくりしながらなんとか眠った深夜。
朝日が顔にあたって目が覚める。
「んーーっ!」
ぐいっと背伸びをして身体を伸ばす。ベッドから降りてカーテンを開ければ、窓の外は雲一つない晴天であった。
絶好の旅
部屋を出て、共有部分に行くとファナさんもちょうど起きたところだった。
「おはようございます。ファナさん」
「おはよう……マコト……」
アレ? 若干テンション低い?
昨日はあんなに目を輝かせていたというのにファナさんの声が若干かすれ気味で元気がなさそうだ。
「どうしました、ファナさん。調子でも悪いですか?」
「あ、いや、昨日の夜、ワクワクしすぎて眠れなくてね……」
ファナさんが照れたように笑った。仲間がいた。
「僕もですよ!」
きっとクレト様もそうだったに違いない。
さくっと朝食をすまして門に向かう。門に到着するとすでにクレト様がいた。
クレト様の美しさにみんな視線を引き寄せられているが、神々しすぎて近寄れないようだ。クレト様の周りはぽかりとスペースが空いていた。
お待たせしてしまっては申しわけないので小走りでクレト様のもとへ駆け寄る。
「おはようございます! クレト様、お待たせしてしまって申し訳ございません」
「おはようございます。マコトさん。いえ、私も今来たところですよ」
「おはよう。おい、クレト、人の彼氏といちゃいちゃするな」
小走りでやってきた俺の後ろをファナさんが悠々と歩いてやって来た。
堂々たる登場にイケメンさが隠しきれていない。美人でイケメンな彼女って最強すぎる。
しかも、その彼女に後ろから腕をとられて抱きしめられるのだからたまったものではない。鼻の下が伸びないようにするだけで精一杯だ。
「いちゃいちゃとは……? 朝の挨拶をしていただけかと思うのですが……」
ファナさんのかわいらしい嫉妬にクレト様が首をかしげている。
俺もそう思うけど、多分ファナさんにはいちゃついているように見えたのだと思う。ファナさんってもしかして腐女子属性をお持ちなのではないだろうか。だって、そう見えるってことはそう考えているってことだろ?
「デート前に待ち合わせするときの定番のやりとりしてただろ!」
いや、違った。
ファナさんが予想以上に乙女チックなだけであった。
異世界にも「待った~?」「いまきたとこだよ」のお約束はあるのか。
そしてそれを『いちゃつく』と認識して、嫉妬している、と。
なにそれかわいい。
思わずニマニマしてファナさんを見ていると「な、なんだよ」とファナさんが後ずさった。
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