4.食料問題
防衛拠点ができたからには、継続的にサバイブする為のものを確保せねばなるまい。
人間が生きる為に第一に必要なものと言えば、水だ。
飲み水さえあれば一週間は生きられるという。
水を探しに行かねば。
息を消し外に出ようと思ったが、外でガチガチという、あの特徴的な音が聞こえてきた。
出入り口の溝から外を覗いてみると、木々の隙間から巨大な蜘蛛の脚が数本見え隠れしている。
クソ、迂闊に外に出られない。
ホント、この拠点を作るまで見つからなかったのは奇跡だったようだ。
黒地に茶色の体毛を生やした蜘蛛の脚とともに、青地に白の体毛を生やした脚が見える。少なくとも2体はいるってことだ。
しかしデカイ蜘蛛というだけで信じられないのに、青色とか、ますます異世界めいてきた。
そんなわけで俺は拠点内で立ち往生するほかなくなった。
溝に向かって右側の壁際に背を預け、座り込んで待機。
時折外の様子を伺ってみるが、蜘蛛はいなくならなかった。そうこうしていくうちに、時間だけが過ぎ去っていく。
くそぅ、地べたについていたケツのあたりが湿ってきやがった。ずっと立っているわけにはいかないし、椅子がないんだから、地べたに座る他ないんだけど、とても不愉快だ。
スーツを通り越してパンツまで土で湿ってきたし……。
……ん?
湿ってきた?
もしかしてこれは、行けるかもしれない。
湿ってくるってことは土が水分を含んでいるってことだ。ってことは地下水にも期待できるはず。それも、結構浅いところで。
俺はとりあえず極細の井戸を掘ることにした。
バケツも紐もないから下につづく井戸を掘ったところで水をくみ取ることはできないが、水を見つけてから階段を作るなりして取りに行けるようにすればいいだけだ。
水をまず探り当てることが重要なのだから、速度を優先すべきだ。
俺は念を送って、床から柱を生み出すようにして穴を掘っていった。当然余った土は無限倉庫さんに収納する。ズンズン掘り進んでいくとすぐに水にぶち当たった。下から下からものを持ってくるという意識で念動力を使っていたら、水が出てきたのである。
うーむ。
いきなり化け物の闊歩するような異世界に飛ばされて、しかもチートの戦闘力はゴミ以下ときて、もしかして、俺の運悪すぎ……? なんて思っていたが、そうでもなかったらしい。
こんなに早く水脈を見つけるなんて運が良すぎる。
しかも念動力で水が動かせるとは、水場まで階段や通路を作る必要もなくなったし、こりゃ運が向いてきたか。
念動力によって、沸き上がって来た水の塊を俺は見て、ついゴクリと喉を鳴らした。
森を駆けずり回ってきたのだ。怪我もしてる。
俺の身体は水分を欲していた。ていうか喉乾いた。
「うまぁ」
知らないところの水は食中毒が怖いとかいうが、化け物に襲われるリスクと食中毒のリスクだったら断然、食中毒の方がマシだ。
俺はためらうことなく念動力で水を操り、口の中に含んだ。
そのまま顔や手も洗う。土の中で過ごして、全身泥だらけだ。森の中は心地よい春の陽気といった具合の気温ではあるが、さすがに全身を水で洗うのではやめておいた。水浸しからタオルもなく自然乾燥に任せて乾くのを待っていたら風邪を引きそうだ。
しかし顔だけでも綺麗になって、随分とすっきりした気分になった。
「こうなってくると食べ物だよなぁ」
人は贅沢なものである。
さっきまでは水、水言っていたくせに、それが見つかったとなると、すぐ次のものが欲しくなる。
実際問題、俺は深夜残業後帰宅途中だったので、正直言うとめちゃくちゃ腹が減っている。お夜食代わりにコーヒーを流し込んではいたが、家で待っている
意識してしまうと、めっちゃ腹減った。
「グゥウ……」
俺の正直な腹の虫も反応してしまった。
しかし穴の外には、巨大な虫だ。どうしたもんか。
これまた念動力でなんとかなるといいのだけど。
蜘蛛に念動力、効くかなぁ。水も動かせるとなると、蜘蛛みたいな生物に対しても使えるのかなと思うのだけど……。
俺は出入口である溝の近くに身を寄せて、外の様子を伺った。
ちょうど溝の外、5メートルくらいのところに青字に白の体毛の蜘蛛が蠢いている。
俺はその見えている8本の脚をもつれさせるイメージを持って、念動力を使……おうとした、のだが……まったくもってピクリとも効いているようには見えなかった。
「そう上手くはいかないってことか」
俺は溜息をついた。
土や水を動かせることから、無機物や無生物なら動かせるようにも思えるが、さっきこの拠点を作っているとき、崖に生えていた草や花も動かせたのだからその説は間違いだろう。
草や花を動物扱いしないということか。
いや、異世界モノ定番であれば、あの蜘蛛も化け物が所謂「魔力」を持っていて、その魔力に俺の力では対抗できないから効かないというのが一番しっくり来るな。
そうしてじっくりと蜘蛛を見ているうちに気が付いた。
蜘蛛たち、ずっとここにたむろって何をしてるのかと思いきや、お食事中だったようである。
蜘蛛たちの向こう側には色とりどりの果物が生っていた。
俺の場所選びのセンス、高すぎませんか?
にんまり笑って、蜘蛛たちから離れた位置の果物を、念動力でえっちらおっちら穴の中まで引き込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます