第3話
中学生の頃、私と涼真は、合宿所の地下室に間違って閉じ込められたことがある。
私立中学の卓球部に所属していた私たちは、五月の大型連休中もみっちり部活にいそしんでいた。郊外に運動部用の合宿所があって、あの時はたしか五泊六日の強化合宿だったと思う。
体育館は学校にあるのよりこじんまりしていて、バスケ部やバドミントン部など他の部と一緒には使えなかった。だから夏休みなどは部ごとに順番に日程を組んで利用することになっていたのだが、五月の連休に優先的に使えたのは卓球部が強豪だからだ。
合宿所の地下室は体育倉庫になっていて、まずそこから卓球台を引っ張り出してくるところから合宿ははじまる。高台にあるせいか建物には高低差があり、体育館と合宿所の地下室は同じ高さで、渡り廊下でつながっていた。
部員の大部分がそうだったように、私も涼真も小学生の頃から卓球を続けていて、そこそこ真剣に大会で優勝することを夢みて練習に明け暮れたものだ。
最後の練習を終えたのは五日目の夜で、卓球台をきれいに磨いて倉庫に戻してからコーチの総評があって、それから打ち上げみたいに仲良いグループ同士が集まってゲームしたりおしゃべりしたり、解放感もあって、みんな楽しく最後の夜を過ごしていた。
そんな中、笑い疲れて喉が渇いた私は、ジュースじゃなくて水が飲みたいなと思い、自販機のある一階ロビーにいった。そこで浮かない顔をした涼真を見かけ、声をかけたのがすべてのはじまりだ。
「倉庫にラケット置いてきたかも」
涼真はひそひそ声で打ち明け、どうしようと深刻そうにため息をついた。
「え、それって……まずいよね」
コーチは道具の管理に厳しい人だった。練習後は必ずラケットを手入れしてしまうよう口うるさく言われていて、雑に扱っているのを見られでもしたらひどく叱られた。練習が終わって数時間、ラケットを忘れたことに気がつかないで遊んで過ごしていたなんて、もし知られたら説教どころかみんなの前でこっぴどく怒られるかもしれない。
「倉庫って鍵かかってますよね?」
「うーん、たぶん」
その時、私は中三、涼真は中二になったばかりで、コーチに叱られることが何より恐いお子様だった。しかもみんなの面前で……なんて、想像しただけで震えてしまう。
「だめもとで行ってみよっか?」
涼真はそのつもりだったらしく、キーホルダー型のLEDライトを用意していた。廊下や階段の灯りは点けず、こそこそ地下室に向かうと、扉の鍵は開いていた。
「ラッキー」
私たちは小声で笑うと、ゆっくり扉をスライドさせ、音を立てないよう気をつけて入り込んだ。
「どこに置いたか覚えてる?」
「うん、たしか……」
球台が並べてある奥の辺りまで進み、小さな明かりを頼りに探していたその時、軽い足音が近づいてくるのに気がついた。
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