第7話

 しばらくすると、男はふらふらと力ない足取りで、台所から出て来た。娘を探さなければ、と彼は思った。


 あちらこちらを探し回り、ようやく娘を見つけた。娘は物入れの中で眠っていた。怖い思いをしたものか、顔には涙の跡があった。


 外からガヤガヤと何人かの声が聞こえて来た。吸血鬼どもがこの家に近づいてくるようだった。男は急いで入口の戸の所まで行くと、閂を下ろした。ほぼ同時に、ドンドンと乱暴に戸が叩かれた。

「開けろ、ここを開けろ。」


 男は娘を抱き上げると、寝室に入って戸を閉め、更に寝台と箪笥を積み上げて塞いだ。窓を覆って中が見えないようにした。彼は護符を握りしめ、娘をしっかりと抱きしめた。


 愛しているよ、と彼は言った。目が覚めたものか、娘が腕の中でもぞもぞと動き始めた。

「母さんと、おまえを心から愛しているよ。」

 

 男の首筋に、チクリ、と小さく尖ったものが当たり、そのまま食い込んでいった。


 翌朝、吸血鬼狩りが村へとやってきた。一軒一軒虱潰しらみつぶしに、生きているものは助け、吸血鬼の残りは見つけ次第、倒した。死者は丁重に弔った。


 彼らは村はずれの男の家にもやってきた。中を調べたが誰もいなかった。


 台所に一つ、別の部屋に二つの塵の山があるだけだった。それらは、彼らが足を踏み入れた途端、風に吹かれて、跡形もなく散り失せてしまった。


(了)

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家路~塵は塵に~ たおり @taolizi9

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