第6話
村に入ってから、男が出会った者たちは、みな吸血鬼だった。
彼らとは長い付き合いだった。変わり果てた姿を目の当たりにし、塵に帰していく度に、心の中の何か大事なものが崩れて行った。男は、妻と娘の無事を祈り、気力を振り絞って歩み続けた。
ようやく、村はずれ近くの自分の家にたどり着いた。月明かりに照らされた家は、無事なようだった。そう言えば、この辺で吸血鬼は見なかった。きっと、こちらには来なかったのだろう。
男はそっと扉を開いた。中はほとんど真っ暗だった。台所の方から、微かに蝋燭の灯りが見えたので、行ってみると、妻がテーブルのところでうたた寝をしていた。待ちくたびれて眠ってしまったのだろうか。男は妻の側に近寄り、そっと肩に手を置いた。
「ただいま」
妻は声に気づいて体を起こし、夫の方を見上げた。
「お帰りなさい、あなた」
白く輝く瞳が男を見つめていた。妻の首には、べっとりと血の跡がついていた。男は悲鳴を上げて、無我夢中で持っていた護符を妻の方に突き出した。妻は護符に触れると、塵になってしまった。
「何てことだ。何てことを……」
男は茫然として、何度も同じ言葉を繰り返した。
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