第5話

 村の入口には小川が流れていて、その畔には老人が一人で暮らしていた。最近では、日がなぼうっと家の前の大きな石に腰を下ろして、時折通りかかる誰かとおしゃべりをして過ごしていた。男が朝、村を出る時もそうやって座っていて、二三の言葉を交わして出かけたのだった。


 今、夜も更けたと言うのに、老人は変わらず石の上に座っていた。


「こんばんは」

 男は老人に声をかけた。

「爺さん。月を眺めてるのかい?何か変わったことはなかったかい?」

「いやいや、何も」

 老人の眼は白く輝き、口からは鋭い歯が覗いていた。

「そうかい、ごめんよ」

 男は老人に護符を押し付けた。シュッと音を立てて、老人の体はシュッと音を立てて塵となり、足元に崩れ落ちた。

「本当に、ごめん」


 村の中に入ると、杭を打たれて転がっている死体が目に入った。粉屋だった。

 あの、おしゃべりな女房の方はどうなったのか、と訝しんでいると、向こうからふらふらと歩いて来た。


「こんばんは、ミラルカ」

 男は声をかけた。

「あんたの旦那は一体、どうしちまったんだい」

「酔い潰れて寝ちまったのさ」

 粉屋の女房は、鋭い歯が生えた口で、カラカラと笑った。

「まったく、困ったもんだ」

 その眼は白く輝いていた。

「そうかい、ごめんよ」

 男は護符を押し付けた。粉屋の女房も、塵となって消えた。

「本当に、ごめん」

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