第5話
村の入口には小川が流れていて、その畔には老人が一人で暮らしていた。最近では、日がなぼうっと家の前の大きな石に腰を下ろして、時折通りかかる誰かとおしゃべりをして過ごしていた。男が朝、村を出る時もそうやって座っていて、二三の言葉を交わして出かけたのだった。
今、夜も更けたと言うのに、老人は変わらず石の上に座っていた。
「こんばんは」
男は老人に声をかけた。
「爺さん。月を眺めてるのかい?何か変わったことはなかったかい?」
「いやいや、何も」
老人の眼は白く輝き、口からは鋭い歯が覗いていた。
「そうかい、ごめんよ」
男は老人に護符を押し付けた。シュッと音を立てて、老人の体はシュッと音を立てて塵となり、足元に崩れ落ちた。
「本当に、ごめん」
村の中に入ると、杭を打たれて転がっている死体が目に入った。粉屋だった。
あの、おしゃべりな女房の方はどうなったのか、と訝しんでいると、向こうからふらふらと歩いて来た。
「こんばんは、ミラルカ」
男は声をかけた。
「あんたの旦那は一体、どうしちまったんだい」
「酔い潰れて寝ちまったのさ」
粉屋の女房は、鋭い歯が生えた口で、カラカラと笑った。
「まったく、困ったもんだ」
その眼は白く輝いていた。
「そうかい、ごめんよ」
男は護符を押し付けた。粉屋の女房も、塵となって消えた。
「本当に、ごめん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます