夏休み突入 小学生(4)


 翔平とは夏休みのほとんどを一緒に過ごした。出会ってしまう前に、宿題やら自由研究やらを終わらせて本当に良かったと思う。


 翔平にそのことを言ったら、『俺、宿題まだやってないけど』と、それがまるで当たり前のような顔をしていた。運動と勉強とのやる気の差に驚くしかない。


 そしてついに、連休が終わりに差し掛かり、叔母の家から自宅へと戻らなければいかなくなった。


 翔平とはお別れである。


「来年また会おうな」


 翔平はカッコいいヤツみたいな雰囲気で言った。


「会えたらね」


 一応頷く。


「絶対にだぞ!」


「分かったって」


 あまりにも翔平がうるさいので、来年も来ることにする。


 来年の夏にあいつと会うのかー。会うまでの1年は少し遠く感じた。


「またな!」


 翔平は出来る限り大きく手を振り、元気な様子である。


 それでも、目が潤んでいるのがなんとなくわかった。


 やっぱり寂しいのかな。


 後ろを振り返りながら、それにこたえるように大きく手を振る。翔平はずっと笑顔で手を振っていた。


 そして、曲がり角を曲がった時には、翔平の姿は隠れてしまった。


 まだ手を振ってるのかなー。そう思うと、けっこう嬉しい。


 また会えるといいなと思いながら、かえでは叔母の家へと戻っていった。





「友達出来たんだねー、それは良かったじゃん」


 現在、叔母の家に迎えに来た母さんの車で、家へと帰っている。離れていく叔母の家を振り返りながら、直ぐに終わりを迎えた夏休みを寂しく思う。


 通り過ぎていく涼しげな町をぼんやりと眺める。その景色の中で、翔平の姿が目に浮かんだ。それと一緒に、ある心配事も思い出した。


「母さん」


「うん?」


 母さんはルームミラーをチラッとだけ見る。


「またここに来れるかなー?」


 少しだけの間を開け、母さんはルームミラー越しに目を合わせて言った。


「来れるよ」


 それは良かった。単純にそう思う。安心して胸をなでおろした。


「なにー?」


 母さんは軽い口調でからかう。


「もしかして、あの子とまた会いたいんだー?」


「ただの友達だよ」


「それが珍しいんじゃなーい」


 そう言って母さんは笑った。


 ただの友達でなんなのさ。一人ぐらい作ったっていいじゃないか。などなどの反論が脳内で渦巻くが、何とか抑える。


「友達、大切にしなよ」


 さらに母さんは、何の気なしな雰囲気で言った。


「当たり前じゃん」


「そうかもねー。当たり前かも」


 母さんは微笑を浮かべて、それっきり喋らなくなった。特に話したいことがある訳じゃないので、後ろに流れていく景色をぼんやりと眺める。


 そのうち案内標識をくぐり抜け、車酔いに気を付けなければならない山道へとだんだん近づいていくのを感じた。


 流れる景色から建物が消えていき、次第に自然風景を取り戻していく。夏の自然は何とも言えない懐かしさを覚えるものである。とても良い気分なのは間違いない。


 こっちに住みたいなー。


 そう思ったのも束の間で、途端に車が大きくぐらぐら揺れ始めた。


 全く気持ちが休まらない。


 そう思った時には、やっぱりここに住むのは止そうとかえでは考え直した。


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