夏休み突入 小学生(2)


 夏休みが始まって、1週間が過ぎた。


 もう宿題と自由研究は終わってしまった。


 することといえば、本を読むこととばあちゃんと話したりぐらいで、外に出ることはあまりない。というよりも、外に出る用事がない。


 家にこもってばかりだと退屈だ。退屈で仕方がない。


 うーん。どうしよう。


「はあ」


 ため息ばかりが部屋に響く。


 折角の叔母の家で夏休みを堪能しているというのにと、自分が残念に思う。


 バン


 唐突に、窓の向こうから何かが聞こえた。


 叔母の家の裏はただの空き地で、友達と遊んだりするためならば充分なスペースがある。


 バン


「なんだ?」


 気になってカーテンを少しだけ引いて、小さな隙間から覗いてみた。隙間から見えたのは、壁にボールを当てている一人の少年。左手にはグローブをはめている。


 野球してるのかな?


 そう思ってカーテンの隙間から見える範囲で回りを見たが、その少年以外には誰もいなかった。


 壁にボールを当てて遊んでるのかもしれない。


 少年をじっと眺めていると、気づかれたのか少年がこちらを向いた。


 その瞬間、気づかれないようにカーテンの陰に隠れる。


 あぶなかった。目でも合ったら、なんか気まずくなるもんな。でも、外で野球か。たのしそうだなー。


 と焦っているのも束の間。


「ねえねえ、そこの誰かー」


 へ?もしかしてばれた?


「一緒にキャッチボールやらない?誰もいなくてつまらないんだー」


 カーテンの隙間からゆっくり顔を出す。


「ねえねえ」


「わあ!」


 隙間から見えたのは、少年の間近な顔だった。顔面を窓に押しつぶすようにして、こちら側をのぞき込んでいた。


 流石に驚いた。


 窓の向こうからは、その反応を面白がる様子で少年は豪快に笑っていた。腹を抱えて笑われて、少しだけ腹が立つ。


 ふつうは初対面の奴にこんなことしないだろ。常識的に考えた。


 むっとした表情で少年の爆笑顔を睨んだ。


「なんだよー。そんな怒んなよー」


「怒ってないし」


「はっはっはっはっはっは」


 またもや腹を抱えて笑い出した。


 そんなに面白かったか?今の?


「一緒にキャッチボールでもしない?」


 いつの間にか笑いがおさまっていた少年は、楽しそうな表情で誘ってきた。


 普段から子供らしい遊びもせずに、家にこもって本を読んだり図鑑を眺めたりして毎日毎日を過ごしていたから、外で遊ぶという事は避けてきていた。


 運動が苦手なのが大きいと思う。


 だが、今は何をしたって退屈だった。


「しないのか?」


 選ぶ選択肢は遊ぶか遊ばないかだが、久々に遊びたい気分だった。


「する」


「そうこなくちゃ」


 窓の向こうの少年は満面の笑みだ。のぞいた歯は白く輝いていた。


「よーし!」


 少年は自分を激励するように拳で胸を叩く。そして、胸を叩いた手を目の前の僕に差し出した。


「俺の名前は翔平!君の名前は?」


 そう言えば名前を教えてないんだった。翔平のオシの強さや親しみやすさが勝って、全く見知らぬ人だったという事を忘れてしまっていた。


「ぼくはかえで。木に風って書いて楓って言うんだ」


「何言ってるのかわかんねえけど、よろしく」


 わかんないのかい。頭の中でつっこむ。


 そして、窓を開き、翔平の大きな手を握った。


 二人の視線が繋がる。


「改めて、よろしくな!」


「よろしく」



 この出会いは、かえでにとって忘れられない思い出となる始まりである。


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