夏休み前日 高校生(2)
小学生頃の話になる。
小学生の時は、夏休みに入ると必ず叔母の家に泊まっていた。それは両親が共働きで面倒が見られないだとかの理由だ。少し心細かったけど、叔母と一緒に住むのは楽しいし、穏やかな毎日なので嫌いじゃなかった。
一年生の夏休みに入ったころ、すぐに叔母の家で寝泊まりを始めた。
夏休みの終わりまで宿題をやったり、テレビを見たり、花火を見たり、祭りに行ったり。自由気ままな生活だった。そんな生活を送れたのは、全部叔母のおかげだった。
だが、退屈な日もあった。家の中にこもってばかりでもよかったのだが、それだと気持ちが沈んだままなので憂さ晴らししたかったのだ。
叔母の家の裏には、大きな空き地があって、そこで太陽の光を浴びながら、生き物の観察をすることがあった。
空き地という小さな世界に、あれだけの生き物が棲んでいると思うと、ワクワクと胸を躍らせていたものである。
そういう日がしばしばあった。
そして、あの少年と出会ったのもその空き地だった。
「あるかなー?」
家に帰ってから、部屋の押し入れの中をごそごそといじっていた。
片付けが苦手で、いつもごちゃごちゃと中に何かがたくさん入っている押し入れだが、今それが見事に祟った。
小さい玩具や小さい椅子など、入っているのは捨てるのが面倒になったモノたちばかりだった。まさに、これを使っている人物の性格が表れるというものである。
一体、誰の押し入れなんだか。
「にいちゃーーん」
中学生の妹が気になって覗きに来た。
「はっ」
妹のおかしなリアクションを耳にし、なんだなんだと振り向いてみる。
妹は大げさに口を開いて、両手で口を覆っていた。
「兄ちゃんが、あの兄ちゃんが、片付けしてる!」
「片付けじゃない、」
「お母さんーーー!」
「おいっ、おいっ」
妹がびっくり仰天とした表情で、かえでの部屋を出て行った。
疾風の如く目の前に現れた妹は、瞬く間に姿を消した。
さっきの出来事を適当に飲み込み、またも押し入れの中に体を突っ込ませ、ごみごみとしているモノの中を熱心に探した。
「これかな」
取り出したのは白い小さな箱。箱には、小学生の時に好きだったキャラクターのシールがたくさん貼ってあった。
おそらく目的の物はこれだ。そう確信して、箱を開けてみる。
「おっ」
箱の中には野球ボールが一つあった。
「これだこれだ」
野球ボールを手に取る。野球ボールには、黒い油性マジックで『翔平』と書いてあった。
「渡された時のままだ」
少し砂がついている。見た目は小汚いが、これには大切な思い出が詰まっている。
あの夏休みは記憶に残る思い出だなー。
遠い昔にあったかのような思い出に浸り、ぼんやりと目を細めた。
あの時、あいつに出会ったのは必然的で、運命の巡りあわせといっても良いのかもしれない。そのおかげで、野球に触れて好きになることが出来たし、いろんな友達もできた。
僕の知らない大切なモノを教えてくれたのもあいつだった。
誰よりも友達と呼べる存在もあいつだった。
小さい頃は、今よりももっと独りぼっちで、内向的で外側の世界になんて興味がなかった。
そんな小学生があいつと出会っただけで、だいぶ見える世界が広がったのだ。
そう思うと、本当にあいつは面白いやつだった。
「はあ」
あいつは今、どこで何をしてるかな。
「野球辞めてねえよなー」
いつの間にか口元が笑っていた。
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