16:

 しばらくして、港にたどり着いた。

 港には船が数多く停まっていた。貨物船が多かったが、中には旅客船もあった。船と岸を繋ぐように渡り板が設置されていて、その前には屈強な船乗りたちが立っている。乗船したい人は彼らに乗船料を支払い、船の中へと入っていく。

「どの船に乗ろうかな?」

 ルタは船を見ながら尋ねた。

「大国に行ける船がいいんじゃないの?」

 各旅客船の船乗りたちは、乗船料と行き先を記した看板を掲げていた。それらを吟味し、二人はどの旅客船に乗るかを決めた。

 ルタはとある船を指差して、

「じゃあ、あの船でいい?」

「オッケー」

 その旅客船は一〇〇人は軽く乗れるだろう大きさだった。行き先はフィロマギアから近い大国であり、乗船料も比較的安いので、船の前には列ができていた。見たところ、身元確認などもなさそうだ。

 二人も列に並んだ。

 少しして、二人の番になった。

 ルタはフードを目深に被って、やや俯いた姿勢で黙っていた。ロゼが船乗りと会話し、二人分の乗船料を支払った。

 渡り板を上って、船へと入る。

 二人はデッキの手すりにもたれながら海を見ていた。

 やがて、客を乗せ終えた船は、ゆっくりと動き出した。少しずつ港の姿が小さくなっていき、やがて見えなくなった。

「僕は大罪を犯した」

 ルタはぽつりと言った。

「知ってる」

「だけどね、僕はまだ、リアさんを生き返らせることを諦めてないよ。果てしなく広い世界のどこかには、死んだ人を生き返らせる方法がある。そう信じている」

「もし、お姉ちゃんを生き返らせる方法があるなら、それは……あたしにとっても嬉しいことだけど……」

 だけど、ともう一度ロゼは言う。

「あんまり期待しない方がいいと思う」

「わかってる」

「ならいいんだけど……」

 海を眺め飽きた二人は、客室に向かった。



 ◇



 長い長い航海の終わりが見えてきた。

 今まで一面が海だったが、前方に大陸の姿が見えてくる。その姿は少しずつ大きくなっていく。もうすぐ大陸に着く。

「ようやく航海が終わるね」

 ルタは手すりから身を乗り出しながら言った。

「そうね。でも、あたしたちの旅はまだ始まったばかりよ」

「どうなるんだろうね、僕たち。二人だけでやっていけるのかな……?」

 ルタもロゼもまだ子供だ。

 子供二人で生きていけるほど世界は甘くない。しかし、ルタはただの子供ではない。フィロマギア屈指の実力者なのだ。

『外に出ればただの未熟な子供だ』

 ライリスの言うとおりだ。

(僕はまだ、大人じゃない。世間知らずの子供なんだ)

 ルタは自分の実力を正確に把握している。しかしそれでも、未知の世界に対する不安があった。

「やっていけるわ、あたしとあんたなら」

 不安なルタに対して、ロゼは自信満々だった。

「どうしてそんなに自信があるの?」

「あんたこそ、どうしてそんなに自信がないのよ?」

「だって僕たちは、ろくに世間も知らない子供じゃないか」

「そんなものこれから知ればいいじゃない。あたしはともかく、あんたは滅茶苦茶強いんだから、どうにでもなるわよ」

「そうかな?」

「そうよ」

 ルタにとって、ロゼの存在は心強かった。

 やがて、船が大陸の港に到着した。

 二人は船を降りた。

 その大陸――その国は、二人が生まれてからずっと住んでいたフィロマギア魔法国とは全然違っていた。

 今までに見たことのない景色。

 今までに見たことのない人々。

 今までに見たことのない世界。

「さ、行きましょ」

「うん」

 二人は歩きだした。

「ここが僕たちの新天地、か……」




 そして、ルタとロゼの旅が始まった――。

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追放賢者が旅をするまで 青水 @Aomizu

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