素晴らしき人間の味
髙月晴嵐
これから訪れるもの
濡れた窓を開けて、山に吹く風を感じる。
空が光り、稲妻が雲と地を繋いだ。
うん、今夜もいい天気だ。
古ぼけた木造の部屋に複数の悲鳴が反響した。
窓を閉めて、声のした方を見ると五人の男女がいた。
僕のことを指差して名前を呼んでくれたので、僕は思わず笑顔になってしまった。
いらっしゃい。待ってました!
嬉しくて駆け寄ると、一人が動かなかったので僕の体に張り付いた。
最近の人々はハグで挨拶するのかと思い、この出会いに感謝して抱きつくと床と胸が真っ赤に染まった。
残念なことに僕に挨拶をしてくれた人は突然いなくなってしまった。
人がいなくなる時はいつもこうだ。さよならも言わずに去ってしまう。
指を舐める。脳に電撃が走った。何ておいしいのだ。
これだから僕は人間が大好きでたまらない。お喋りさんもいちいち絡んでくるやつもみんなみんな大好きだ!
できることなら、人でできた家に暮らしたい、引っ越したい。
誕生日会とかにも呼ばれたい。
他の四人はどこに行ったのか見渡すと、彼らはどうやらまだ洋館の中にいてくれるようだ。
エントランスに来ると、一人が扉に駆け寄ってドアノブで遊んでいた。
どんなやつでも一口食せば、僕は優しい気分に包まれる。
特に怯えた目玉は美味しい。
僕は感謝してその子を口に含んだ。
残りの三人を探すと、キッチンルームにいた。三人とも包丁を手にしている。
僕は包丁に怯えるフリをした。でも男の子が首を転がして遊ぶと、二人は首に頭がついているうちに走って逃げてしまった。
どうしてそんなに怯えた目をして僕のことを怖がるの。
大丈夫怖くない。
僕は怖くない。
悪くても、今日のご飯になるだけだから。
追うとリビングの暖炉から煙突を伝って、脱出を図っているのが見えた。
僕が来たことに気づいたようで、上の女が下の男を蹴落とした。
落ちてきた彼と目が合う。こんにちは。
彼は大声を上げて何かに火を着けると、僕の視界は真っ白に染まった。
僕は炭と灰となった洋館の跡地にいた。
こんなところに居ても仕方ないので、叫びながら逃げる女の人を追って山道を下る。
山を越えると朝日が僕を包んだ。
街だ。
たくさんの人が住んでいる場所に着いたので、感謝しながら彼女を頬張った。
道行く人たちが驚き見上げている。
でも、こんなに大勢の人がいたら迷っちゃうなぁ。
誰かが僕のことをものすごく呼んでる気がする。
振り向いて驚いた。
見てたんだね。
じゃ、お礼にこれから君の住んでいるところに行くよ。
素晴らしき人間の味 髙月晴嵐 @takatsukiseiran
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