第8話◇ゲームの中の方がマジメかよ


 キノコ大好キーの中ではマジメな方のロードとサタヤンから話は聞いた。意外にもあいつら忙しいらしい。そしてそれぞれが手分けして違うリアルスキルを習得していると。

 あいつらがいればリアルで村作り内政チートとかできるのかもしれん。


 次はコレキヨ。先のことはあまり考えない、というか考えたくないってことでは、俺と同じ。

 いや、まー、進学とか就職とか、できればしたくない。可能なら家から出てひとりで暮らしたい。ひとりで生きていきたい。

 山の中で猪とか狩猟して生きていけたら。ゴブリン退治とか魔獣退治で暮らしていけたらなー、マジで。

 剣をぶんまわして生きてきけたらいいのにねー。フランスの外人部隊に応募しようか? ダメだ、おら、英語できねー。

 山賊とか海賊とかに就職してー。

 パンが無ければゴハンを食べればいいじゃなーい。ゴハンが無ければ? 人を食べればいいじゃなーい。

 戦争になったら徴兵復活して簡単に就職できそーだなやー。

 そんな人としてダメなことを話しあえるのがコレキヨっていう奴だ。さて、あいつは何をやってんのか。

 

「もしもし? コレキヨ?」

『あいよー。トモロ、明けましておめでとう』

「とっくに明けましてるわ、俺だけこっちにひとりでめでたくも無いわ」

『ひがむなや。こっちは楽しーぞー』

「腹立つ。で?」

『で?』

「こっちのコレキヨはなんて呼べばいい? アドルか?」

『お前、ぶっ殺すぞ。アドルはやめろ』

「コレキヨはなんて呼んでるんだよ?」

たいらだよ、タイラ』


 ハンドルネーム、コレキヨ。本名はたいら亜努流あどる。インパクトある名前だよ、亜努流。あいつの親、センスがスゲエ。

 名字が平なら名前はカゲキヨとかマサカドだろーが、こんちくしょう! とか叫んでいた男。それでコレキヨになった。

 アドルと呼ぶと怒るので本名は呼ばないようにしてる。


「コレキヨはそっちで何やってんだよ?」

『最初はずっとゲームの中だひゃっほい、と遊んでたけど、他の奴らマジメに勉強、というか実習してっからなー。おれもなんかやるかって探してたら、師匠連に刀鍛治がいてな』

「刀って、マジ刀?」

『マジポン刀。で、刀の作り方教わってるのよ。俺、侍だし自分で刀作ってみたかったんだよなー』

「刀って需要あんのか?」

『無いだろ。せいぜい外国の物好きな金持ちが美術品感覚で買うぐらい』

「それじゃあ身につけてもあんま役に立たんのでは?」

『俺もそう思う。なので他の金属加工も教えてもらってだな、ロードの使うクワとかカマとか作った』

「クワにカマか、いきなり実用品になった」

『サタヤンの木工と合わせてだな、カマとか鋤とかカンナとか作ってんぞ。俺とサタヤンで農具工具製作コンビ結成だ』

「キノコ大好キーはどこに向かってるんだ?」

『トモロも早く来ないとブームに乗り遅れるぞ』

「クッソウラヤマシ」

『あー、金槌振りすぎて腕が痛いわー。おっとモリーアンから包丁研いでって頼まれてたわ』

「誰だよモリーアンって。充実してそうだなこのやろう」

『おう、充実してるぜー。刀鍛治の師匠もな、俺に教えるのが嬉しいみたいで、いやいい師匠見つけたわー』

「お前が大人しく弟子なんてやってられんのかよ」

『あー、それがな。流石のコレキヨ様も師匠の話を聞くとな、マジにちゃんと弟子やろうかなーと』

「なんでまた? その師匠は弟子に恵まれなかったのか? コレキヨに教えるのが嬉しいって、他にマシなのいないのか?」

『俺が弟子じゃいかんのか? いや、まー、物覚えの悪い不肖の弟子だけどよー。師匠の現実世界の方の身体な、脳溢血で左半身不随なんだと』

「そりゃまた、お気の毒。ん? ということは『Beyond Fantasy memories』の中ではどうなる?」

『伝統技能保存計画で、師匠の記憶と人格を機械に移した後に脳溢血になったんだと。だから現実世界の方で師匠はもうその技を人に伝えられんのだと。それでこっちで刀作ってみたいなー、なんて言い出したボンクラ侍にワシの技を識ってくれーと、メッチャ丁寧に教えてくれる』

「そいつは……、ちゃんと弟子やらないと悪い気がする話だ」

『このコレキヨ様も、泣きながらワシの魂を継いでくれ、なんて言われるとだな、珍しくマジメになっちまうワケよ』

「で、刀は作れるようになったのか?」

『バッカお前、師匠の刀が簡単に俺に作れるワケがねーだろ。俺はまだ刀のパチモンしか作れねーよ』

「でも、クワは作ったんだろ?」

『クワと刀を一緒にすんじゃねーよ。そのクワだってまだ半人前だっつーの。それに刀ってのは違うんだよ。只の刃物じゃねーんだよ。鬼の前には鬼を斬り、神の前には神を斬るんだよ、解るか? おい?』

「わっかんねー。ぜんぜんわっかんねー。お前、村正でも作ってんのかよ? しかし、コレキヨがかなり入れ込んでんのは解った」

『あー、ま、そうかもな。師匠に、お前しかいない、とか言われて調子に乗ってるだけかもしれん。でも、刀作れたらカッケーよな』

「そうだな。需要は無いけど」

『そこは世の中変わったら、大量生産の効率よりもコスト低減のために人力に戻る分野が増えるだろってロードが言ってたし。他の金属加工にも手を拡げるつもりだし』

「なに作るつもりだ?」

『なんでも、だ。釘でもノコギリでもなんでも作れるようになったら楽しくね?』

「コレキヨとサタヤンがいて材料があれば、なんでもできそうな気がしてきたわ」

『作っちゃうぜー、村作って、町作って、最後は国を作っちゃうぜー』

「国興しかよ、でっかいなー」

『ロードはマジでやるかもな』

「いや、それはねーだろよ」

『明治維新のときみたく、国の借金ぜーんぶチャラにするには、国を1回潰して建て直すのもありか? とか、ロードとサタヤンが口にしてた』

「冗談……にしてはオチがなんも無いか。おい、なんでテロか革命みたいな話してんだあいつらは? ヤベエだろそれはよー」

『つーわけでさっさとこっち来いよ。キノコ大好キーのお世話係。世の中かき回すのはAIのイシュタに任せて、俺らは俺らが住むとこ作るだけで、それだけ心配してればいいっつーの』

「それもそれで大概だってーの」


 おいおい。ログアウトできなくなってずっとゲーム三昧ってゆーのじゃなかったのか?

 なんで日本転覆なんて話が出てきてんだ?


 最後のひとりは速撃ちマック。ドライとゆーか枯れてるとゆーか。

 口ぐせは、あー死にてー、の厭世的シャイボーイ。いや、俺も長生きとかしたくねーし。できたら二十代でポックリと事故とかで後腐れ無く死んでしまいたい。

 長生きしてやりたいことも無いし。

 その速撃ちマックは進路希望に自殺と書いて、職員室に呼び出された前科アリ。


「もしもーし。速撃ちマック?」

『あー、トモロか。おひさ』

「ほい、おひさ。そっちはどーよ?」

『なんだろ。なんかみょーなことになってる』

「そりゃ、これ以上奇妙なことも無いだろよ。で、こっちのマックはなんて呼んでる?」

輝一きいち、名前の方で呼んでる。コレキヨじゃねーから』


 ハンドルネーム、速撃ちマック。本名は、由志ゆし輝一きいち


「速撃ちマックはNPCの輝一とはなんか話とかしてるのか?」

『たまに、ちょっと。好きにしろって言ったらマジメに勉強してるってよ。それで家族が喜んでる』

「中身が入れ替わったらマジメに勉強するようになったってか?」

『ウチの家族にはあっちの輝一クンの方がウケが良さそうだ』

「そーゆーもんか。俺もそっちにいってこの身体の中にNPCが入って、なんでもかんでも母さんの言うとおりに動くようになったら、母さんは喜ぶだろーな」

『家族ってのはそんなもんだろ』

「それもそーか。速撃ちマックはそっちで何やってんだ?」

『いや、俺もなんでこーなったのか解らんけど、今は先生やってる』

「は? どーゆーことよ?」

『小学生に教えてる。先生とゆーか、家庭教師?』

「なんでまた?」

『新しい教育システムの実験と。おれが教えてるのは小学3年生の女の子なんだけど……。えーと、モデルは日本の学習塾なんだが』

「モデルがあるのか、どんなん?」

『イジメやらなんやらで登校拒否になった子供のための学習塾なんだが、寮生活でひたすら英語を学習する塾なんだ。目的は英語ペラペラになって海外の高校とか大学に入学して卒業すること。日本の学校が合わないなら海外の学校に行こう、てゆーのがコンセプト』

「それがなんで『Beyond Fantasy memories』と関係が……、ん? 速撃ちマックが先生? ゲームの中で学校でも作る気か?」

『学校、というより塾か? 予備校か? 目的としてはゲーム内での学習で高認を取れるような学習塾を作ることだと』

「VR学習塾か」

『それで、まぁ、学校でイジメられてたっていう小学生の子がひとりここにいる訳よ。ロードが算数と理科を教えてて、おれが国語と社会と歴史を教えている』

「なんで速撃ちマックとロードが先生なんだよ。他にいねーの?」

『中学校卒業してたら誰でも小学生に教えることはできるのな。それだけの学問は修めてるハズだから。いい先生かダメな先生かは置いといて。あとは対人関係にトラウマ持った子が先生を気に入るかどうか。なんでか解らんが俺がこのリトになつかれてしまって』

「リトってのがその子の名前か? なつかれた流れで先生になってしまったと。ほー」

『VR学習塾で高等学校卒業程度認定試験に合格できるようになれば、教育の在り方が変わるってゆー計画らしい。ゲーム機に繋いだヘッドギアとゴーグル被れば、『Beyond Fantasy memories』の学習塾で勉強できる。そうなれば公立の学校の数を減らしてその分、国家予算が浮く、と』

「そうなるとそのうち高校が無くなるかもな」

『できたら中学校も無くすとか。義務教育は小学校で終わり。VR学習塾で高認取ったら大学受験。その代わり小学校を7年制とか8年制とかにするとか』

「そーとー学校の数が減らせるな、それ」

『子育てに金がかかる、というか、そういう風潮を作って教育関連でコストを上げたとこを絞るのだと。子育てにかかるコストが下がれば、少子化もおさまるってことらしい』

「なるほどねー。とことん無駄と余計なものを省くのか」

『いや、単に利権に膨らんだ脂肪を落としてダイエットするのだと』

「そんなに大きく変えるってか?」

『すぐには無理だろ。まずは登校拒否児童の為のゲーム内学習塾からスタート。でも、こっちの方が簡単に高認がとれてスキップして大学受験、そして合格、なんていうのが増えたら?』

「世の親御さんはそっちに子供を通わせたがるだろーな」

『そして師匠連も使ってゲーム内の専門学校も充実させると』

「そいつはヤベェ。ゲームの中の方が教育が充実しちまうわ」

『問題としては先生の数を増やす必要があるってとこか』

「なんで? AIに先生させたら?」

『そこが女神イシュタの主義かね。種の子供はその種の大人が育てるべきです。機械が子育てをするのは最後の手段です。と、女神イシュタが言ってた』

「なんか、機械っぽく無いなー。カッコウの託卵はどーなんだよ」

『イシュタのモデルが大地母神イシュタルだからなのか? そこは譲れないとこらしい。リトを抱っこしてるとこ見ると、子供大好きみたいなんだけど』

「女神イシュタに会ってみたくなった」

『トモロの苦手な巨乳だぞ』

「ジャージを着てくれと頼んでみるか。しかし、速撃ちマックが先生ねー」

『俺も似合わねーと思うけどな。最近はリトに教えるのも楽しくなってきたし』

「なんだ? ロリコンに目覚めたか?」

『それは無い。だけどリトが嬉しそうに笑うの見ると、こっちまで少し嬉しくなる気がしてな。なんでこんな子がイジメられんのかね。それで、本気で小学校の先生やろうかと思うようになってきた』

「マジかー? お前がー?」

『俺もどーかしてるとは思う。上手くいくかどうか解らんけど、VR学習塾の先生やってみようかと、こっちで勉強してる』

「ゲーム世界で勉強かよ。そして先生かよ」

『ほんと、みょーなことになった』


 速撃ちマックが先生とはね。解らんもんだ。リトって女の子と何があったのかは、またそのうち教えてもらうか。

 あいつらゲーム世界でなんでマジメにリアルスキルを磨いてんだよ。ゲームの中の方がマジメに将来のことを考えてるってなんだよ。

 そしてキノコ大好キー以外にも、かなりの人数が『Beyond Fantasy memories』裏面にいるらしい。師匠連とか。

 それはつまり、かなりの人数の人間アバターが現実世界にいる、ということだ。

 それでやってることが、少子化対策に教育の分野の大改造を模作中。

 まぁ、古い制度が今の時流に合わないし、子育てをラベルに貼れば金になるって奴等が余計なものを付け足して、不具合起こしてる状態が今なんで。

 1回ぶっ壊してスッキリしたのを作り直そうっていうことなんかね。

 ゲームの新規プレイヤーを増やす為には、賢い子供が増えてくれないとってことなんだろうけど。


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