第4話◇日常が壊れる足音、ワクワクしてきたぞ


 学校は三学期に入り1週間が過ぎた。休んでたコレキヨ、サタヤン、速撃ちマックも復活。デスペナルティ、じゃなくて病み上がりで調子悪そうだったロードも復活。

 俺がゲーム機壊されて、夜にはまた皆で『Beyond Fantasy memories』でー、という日々に戻ることもできず、放課後には集まって少し駄弁って解散という毎日。

 ……なんだけど、こいつら随分とあっさりゲームを辞めたよな。俺と違って家に帰りゃゲーム機あるだろに。


「速撃ちマックはソックスコレクターマスターの称号、諦めたのか?」


 速撃ちマックに聞いてみる。


「あと少しだったろーに。あと4つだったっけ?」

「いや? あと2つまでいったけど。でも残り2つがめんどくせーだろ」


 ん? 2つ? あと3つだったハズだが。

 サタヤンが補足して、


「トモロはいなかったっけ。シャドウリッチを倒したときに闇の靴下をとったんだよ」

「シャドウリッチ、靴下履いてたのか……、知らんかった」

「下半身がボヤけてたよーな。足元どうなってんだ? リッチって?」

「履いてたんじゃなくて、大事に胸元に隠してたんじゃねーの?」

「靴下を大事に抱えてる時点で、かなりの変態のような」

「その靴下を守るために不死の怪物として蘇った、とか」

「シャドウリッチの変態レベルが上がっていく」

「でもその闇の靴下はトモロの墓前に供えることになってるんだが」

「俺が勝手に殺された上に埋葬されて、その上墓で生前の性癖を捏造されてる。これが友情かー」

「流石はロード、エクスレベル高ぇ」

「まてまて、なんで俺ひとり? 言い出しっぺはコレキヨだろ?」

「みんなが乗っかった上で、1番ヒドかったのがロードだ」

「俺はどこに訴えたらいいんだか」

 

 バカな話で盛り上がりつつも、俺はこっそりみんなの記憶なんてのを確かめてた。本人なら知ってるハズのこと。偽物なら知らないハズのこと。ソックスコレクターマスターの称号とか。

 今のところおかしなとこは無い。宇宙人か妖怪がこいつらに化けてる、ということでも無いのか。記憶に食い違いとか無さそうだ。


「でも、あと2つってとこまで来て諦めるってのはなー」

「がっつり気合い入れて狙ってた訳じゃ無し、いつの間にか手に入っていて、もののついでだったから」


 速撃ちマックはドライっちゃドライだけど、こんなに諦め良かったか?

 そうやって話をしてると、日に日に疑う気持ちが膨らんでくる。バカな話をしてるうちに、やっぱコイツらはコイツらだ、と安心することを期待してたのに。

 なーんか、前よりおとなしいというか、なんというか、なんか違う。

 前にコイツらに『ホントに電脳ゲームからログアウトできなくなったらどーする?』と聞いたとき、『大喜びする』と応えてた。そんな奴らがあっさりゲーム辞めるとか、ちと、マジメ過ぎじゃないか?

 しかし、決定的な証拠も見つからない。なんかモヤモヤすんなー。どーすっかなー。


 こうなりゃカマすか。カマをかけるか。

 俺はロードを呼び出した。放課後、学校の屋上へと続く階段。屋上への扉は鍵がかけられている。その扉の前。ここなら他の生徒の目につきにくい。

 呼び出したロードは首を傾げている。


「トモロ、こんなとこで秘密の話がしたいって、何だ?」

「ロードに聞きたいことがあって、他の奴には聞かれたく無いってだけなんだが」


 俺は珍しく緊張している。確信は無い、今も半信半疑だ。ゲームでの付き合いメインとはいえ、気の許せる友人相手への態度じゃねーなコレは。

 でも一度、気になっちまったらしょーが無い。


「トモロがおかしなこと言い出すのは、いつものことだが」

「お前、何モンだ?」


 ロードの喋りを遮って珍しくマジメモードで言葉を話す。これでロードがなんて返すか。なんて言うのか。

 俺らキノコ大好キーの中ではサタヤンと並んで優等生のロード。俺の記憶のロードと違いが無いか、間違い探しのように観察する。

 そのロードが俺を見て、呆れたように言う。


「トモロ、お前何言ってる?」

「はい、ダウト」


 確信した。


「お前はロードじゃ無いだろ?」


 ロードはフリーズしたように俺の顔を見る。


「……参考までに、なんで気がついたか教えてくれないか?」

「それは認めたってことか? 随分とあっさりだ。なんか言い訳すんのかと思ってたが」

「そこはロードに聞いてたから」

「ロードに、聞いてた?」


 どういうことだ? 目の前の男はロードに見える。高徳寺こうとくじ道真みちざねに見える。俺たちのリーダーで、俺たちの中ではマジメな奴。その男がポケットから白いスマホを取り出して。


「ロードと電話するから、ちょっと待ってくれ」


 ロードと電話する? 本物のロードはどこにいる? 自由に電話できる状態なのか?

 目の前のロードに見える男が白いスマホで電話する。なんだこりゃ?


「あ、ロードか? ロードの言ったとおりになった。……あぁ、学校だ。今、トモロと二人だ。探られてるから、疑われてるのは解ってたが……、あぁ、君ら凄いな。……今、トモロに代わる。よろしく頼むよ」


 ロードに見える男が白いスマホを差し出してくる。


「ちょっとロードと話をしてみないか?」


 事態がよく解らんが、スマホを受け取って耳にあてる。聞こえてくる声は。


『おー、トモロか?』

「ロードか?」


 目の前のロードに見える男は楽しそうに俺を見てる。口は閉じている。

 それなのに白いスマホから耳に聞こえるのは、俺の知ってるロードの声だ。


『トモロ、あっさり見破ったってな? 流石はトモロ。キノコ大好キーのお世話係だ』

「なんだお世話係って」

『いや、引率は俺だけど、フォローすんのはトモロだろ。参謀というよりはお世話係って感じだし』

「いったい、どういうことだ? なんのカラクリだ? 俺はまた頭がおかしくなったのか?」

『大丈夫。トモロは頭がおかしいのが正常だ。だからこそ、なんかおかしいってものに気がつくんだろ』

「その頭がおかしい奴らのリーダーが何言ってやがる?」

『誰もリーダーやりたがらないから俺がやってるだけだろに』

「ロード、てめぇ、俺がこの1週間モヨモヨ悩んでたってのに、随分と楽しそうだなオイ」

『ハハ、そりゃそうだ。これでトモロもこっちに来れる目処がつきそうだ』

「ロードの言う、こっちってのは何処だよ?」

『予想はついてんじゃないか? 電脳ゲームの中、『Beyond Fantasy memories』の中だよ』


 うーわ、あり得ねぇ。マンガみてぇ。でも、もしかして、と考えて調べてたのはソレなんだよなぁ。


『今のところ俺が何処までトモロに話してもいいのか。情報制限とかどうなってんのか。とりあえず、俺もコレキヨもサタヤンも速撃ちマックも『Beyond Fantasy memories』の中で元気にやってる。ん? これ元気にって言えるのか? まぁ、呑気にやってる』

「元気に呑気かよ。心配して損した気分だ」

『一応確認しておくか、俺達は俺達の意思でここにいる。強制された訳じゃ無い』

「意思? それって、無理矢理さらわれてログアウト不可能のデスゲーム、とかいうことでは無いんだな?」

『その通り。その上でそこにいる道真、あー、俺の身体の方な、そいつに協力してやってくれ』

「どうなってんのか、どういうことなんだか。だいたい目の前のコイツはなんなんだ?」


 俺の目の前、ロードに見える男。通話先のロードの言う『俺の身体』が口を開く。


「それは俺から話そうか」


 耳にあてるスマホからもロードの声が。


『ちょっとややこしいか? まずはソイツの話を聞いてくれ』

「あのなぁ。俺からしたら本物のロードが洗脳されてるか脅されてるかって心配もあるんだが?」

『脅されてはいないが、自分が洗脳されてないって、どうやったら証明できる?』

「そう言えるってことはロードは平常運転ということか」

『おう、俺もキノコ大好キーも、だ。事情説明が必要だろ? そこにいる道真が話してくれる。じゃ、またなトモロ』


 そこまで聞こえると、スマホがプツっと切れる。


「もしもし? ロード? もしもし? おいコラ」


 通話が切れてしまった。ロードに見える男を見る。楽しそうにニヤニヤしている。こいつの話を、ねぇ。


「とりあえず、説明してもいいか?」

「まて、お前がロードじゃ無いなら、なんて呼べばいい?」

「あぁ、それなら道真みちざねと。ロードも区別するために、俺を呼ぶときは道真と言ってる」

「道真はロードの本名だろがよ」

「そうだけど、あっちがロードでこっちが道真。これでオーケイ?」

「オッケ。でー道真クン。いったいどういうことなんだ? あいつら、俺抜きでログアウト不能世界の電脳ゲーム暮らしを楽しんでんのか? クッソウラヤマシ。俺も行きたいぞあっち側」

「調子出て来たな、トモロ」

「あぁ、ここのとこ気になってたのがようやく晴れたし、ロードも他の奴らもどうやら無事のようだし。ロードが協力しろって言うなら、お前はロードの側ってことでいいんだろ」

「君ら、おもしろいな」


 ロードそっくりの、高徳寺道真が腕を組む。どこから話そうか、と呟き考える目の前の男に尋ねてみる。


「で、道真クンは人間そっくりに作られたアンドロイドか? それともスナッチャーか? 中身は異星の宇宙人か?」

「どれでも無い。説明するにあたり、他の面子も呼ぼうか?」

「もう帰ってんじゃねーか? 万が一襲ってきたらと、ロード、じゃなくて道真ひとりを呼んだんだし」

「襲わねーよ。何だと思われてたんだか。こっちは協力者が欲しいんだ。ロードは、トモロなら説明して解ってくれたら味方になるって言ってたし」

「あ? ますますどーなってんだ? あいつらを人質にするってことでも無いのか?」

「そう見られてしまう状況か? トモロがどこまで推理してるのかは解らないが」


 道真は床に座って壁に背中をつける。屋上の前の踊り場はそこに座ると階段の下からは見えなくなる。


「トモロもこっちに座れ。とりあえずのところをざっと話すとしよう」


 いったい何なんだ? コイツは、コイツらは?

 宇宙人か、デジタル世界からのAIの侵略か、それとも幽霊でも取りついたか。どっかのラノベのように『Beyond Fantasy memories』が他の異世界にでも繋がったのか。電子生命体の人間侵略か。

 何も解らん。俺は話を聞くために道真と名乗るロードそっくりの男の隣に座る。

 不安はあるが、同時に期待がある。

 今までに無かった、クッソツマンネー世界が壊れていく予感がある。なんだかワクワクしてきた。

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