第3話◇なんか様子がおかしいな?
年開けてー、冬休み終わってー、三学期が始まり始まりー。
ゲームしてねーと勉強しかすることねーわ、ツマンネー。なるべく家にいたくは無かったから、家には寝に帰るだけのような冬休み。
父さんも母さんと会いたく無かったのか、単身赴任先から帰ってこなかったし。あの母さんに会いたく無いって点では、父さんはまだマトモだと言えるんかな?
仮病と逃走で年末年始のカルトの集会からはなんとか逃げたが、そのせいで母さんの機嫌は悪かった。いや、俺、あの宗教も教祖様も胡散臭いとしか思えんし。熱烈に拝んでる人見ても、寒気がするだけだし。
あの破壊神様と同じ家で過ごすよりは、適当に犯罪でもして少年院でも入った方が、俺の情操教育にはいいかもな。すっかり町の図書館の常連だ。他に行くとこもねーし。
ヤマねーちゃんと一緒にいる時間が増えた冬休みだった。
ただ、キノコ大好キーの面子にメッセ送っても電話しても返事が無い。何かあったか?
いや、風邪引いて寝込んだという簡単なメッセは来たんだが、なんかいつものあいつらと違うような。
俺があいつらの家に行くとなると、あいつらの家族から見たらカルトの狂信者の子供が布教に来た、と見られてしまうのでそこは自重してる。
いや、ほら、俺は小学生の頃から『あの家の子とは一緒に遊んじゃいけません』ブラックリストの殿堂入りしてるから。
一般庶民のご家庭には気を使うわけデスヨ。
キノコ大好きキーの面子、ロード、コレキヨ、サタヤン、速撃ちマック。
あいつらは『
まさかあいつらもゲーム機、破壊されたか? いや、あいつらの家族はマトモだろ、たぶん。うちの破壊神様のように庭でバットを破壊工作に振り回したりはしないだろ。
冬休みが終わって三学期が始まるのが、本当に待ちどおしかった。家だとウチの破壊神様が何をするか怖くて安心して眠れんのよ。
やっぱり学校の机が1番よく眠れるわー。
ヤマねーちゃんのアパートも別荘として快適だけど、ヤマねーちゃんだって一人になりたいときもあるだろうし。
男連れ込んだりとか、オナニーしたりとかあるだろうし。あのアパートに俺以外の男が来たことはなさそうなんだが。
学校に到着、教室に入る。
なんだろう、この家に帰ってきたようなホッとする気分は。学校っていいなー。このクラスには俺になんかする奴はいないから、自分の家より安心できるってだけなんだが。
……学校に寝袋を持ってきて住むのはどうだろう? 登校と下校の手間が省ける。家に寝泊まりするより良さそうだ。
クラスじゃ俺と話をすると変な病気でも移されるとでも考えてるのか、キノコ大好キーの奴ら以外は俺に話しかけてこない。近づいて来ない。なので平和で安心できる。
その中でキノコ大好キーの面子はこのクラスの中では、頭おかしい集団と一目置かれているわけだ。
前に廊下でコレキヨとふざけてて、よろめいて同じクラスの女子にぶつかったときには、
『キャアアアアッ!!』
と、その女子はゴキブリでも触れたように飛び退いて、俺がぶつかった肩のところをハンカチでゴシゴシと拭っていた。半泣きで必死に。
まるで潰れた芋虫の体液を拭き取っているようにも見えた。俺は何の汚物だってーの。ゲロか、病原体か、寄生虫入りのナメクジか。
汚物タンと書けば可愛くなるか? お仏壇みてーだ。
今更、そんなことで傷つくような、センチメンタルなガラスハートでも無いけどな。
お、キノコ大好きキーのリーダー、ロードだ。
「おす、ロード、久しぶり」
「おー、トモロ、明けましておめでとう」
「さて、問題です。明けると何がめでたいんかな?」
「そりゃ、昔からの風習ってもんだろ。お年玉とか貰えるのはめでたいか?」
「答えは、頭がおめでたくなるんだろ。歳をとって老化痴呆症に1歩近づけるから」
「相変わらずのトモロ節か」
コレキヨもサタヤンも速撃ちマックも同じ。
速撃ちマックは、あいつ三國志だろうが戦国時代だろうが新撰組だろうが赤穂浪士だろうが、主人公の名前をつけるゲームは全部、速撃ちマックという名前でプレイしてたというのはどうなんだろ、男前。新撰組の志士速撃ちマックが土方さんと並んで歩いていた。
「そんで、ロード、ずっと風邪で寝込んでたってほんとか?」
「ほんとだよ。今もまだ少し熱がある」
「冬休み中、ずっと?」
「風邪なのかどうなのか。頭痛がして熱が出る」
「病院は?」
「病院行って医者が風邪だと言ってた。でもこんなに長引くなら違う病院で精密検査する方がいいか」
「なんだそりゃ。コレキヨもサタヤンも?」
「パーティー全員だ。しかもこれが、シャドウリッチ倒した日の夜からなんだ」
「は?」
「もしかして、これが噂の原因か?」
「あ? ゲームの中でボス倒したら頭痛と熱が出た? どういうことだ?」
「解らん。あのボス戦でのエフェクトとかが脳にフィードバックされるときになにか脳に影響が出たっていう、こんな仮説はどうだ?」
「それだったらあの
「そうだよなぁ」
ロードは額に右手を置く。調子悪そうだ。しかしシャドウリッチ倒したら熱が出る? 本当だったらえらいことだ。電脳ゲームが健康を害するってなったらマスコミとか喜びそうなネタ。自称専門家が偉そうに語ってゲームが叩かれてゲーム機発売停止。作ってたザーニスが記者会見で謝って、会社倒産。
そんなことになったらヤマねーちゃんが無職になっちまうじゃねーか。
「シャドウリッチ戦、どうだった?」
「キノコ大好キーはエルダーリッチ倒してんだぞ。トモロが抜けてひとり足りなくても倒せる奴だ」
「戦闘中とか、なんかおかしなことは?」
「部位破壊でモードが変わるってのがあった。あいつ玉座を壊されると
「なんか玉座に思い入れでもあるのか? 恋人の形見か? で、他には?」
「ゲーム的にはおかしなことは無い、と思う。あと皆で『第4の報酬を望む』と叫んでみたけど、特に何も起きなかった」
「そりゃ、残念だ」
「ところが、その日の夜から4人とも頭痛が起きて熱が出るとなると、なんだか不気味だ」
「それで皆と連絡取れなくなったか」
「メッセは見たけど、返事しなくて悪かった」
「そりゃ、しょーがねーよ」
そんな話をしてるとチャイムが鳴る。俺もロードも席に戻る。
しょーがねーよ、と返事はしたが、なーんか怪しい。様子がおかしい。頭痛と熱があってもロードがメッセの返事をしないというのは、らしくない。
その上、4人とも同じ症状?
考えてると、教師が教室に入ってきて出欠をとる。
コレキヨもサタヤンも速撃ちマックも病欠だ?
なんだそりゃ?
シャドウリッチの討伐、その第4の報酬。
ログアウトできなくなるという噂の『
もしかして、マジなのか? いや、ロードはここに来てる。調子は悪そうだが。
放課後、ロードと話をする。
「キノコ大好キーは、どうする?」
「俺のとこも親が煩く言うようになってきたし、年末の予定どおり、冬休み終わりで活動休止ってことで」
「解散じゃ無いのか?」
「トモロが新しいゲーム機買えないと一緒に遊べんだろ。それにたまに『Beyond Fantasy memories』の中で会うのもいいだろうし」
「今年は遊べそうに無さそうだ」
「来年に活動再開できるといい。大学入ってから遊ぼうぜ」
「まだ年が明けたばっかだぞ。そんな先の話」
「鬼が笑うって?」
「笑い声が聞こえないんだったら好きなだけ笑わせてやれよ。鬼にもストレス発散させてやれ。2月には寒空の下に豆で追われるイベントが待ち構えてんだから」
「鬼もたいへんだなぁ」
ロードと別れて帰る。振りをして、そのあとロードの帰りをそっと後をつけた。
あいつ、ほんとにロードなのか? なんか妙だ。
俺は話の通じない奴なら家族でもどうでもいい、と思ってる。だけど、俺と話が通じる奴っていうのは貴重な存在だ。大切にしたいと思う。日本語知ってるからって会話ができる訳じゃ無いからな。くさい話だが友達は大切にしたい。
ヤマねーちゃんが仕事先で変な揉まれかたして、鬱から人格障害になったときは、俺、何もできなかったし。
ヤマねーちゃんとこに遊びに行って、掃除と洗濯して話相手になるくらいだった。ヤマねーちゃんにもプライドがあって、年下のイトコの俺にいいとこ見せようって、頑張り過ぎたら症状が悪化したらしい。我慢のし過ぎだ。俺はそれに気がつけ無かった。
それもあるからか、ロードにしろキノコ大好キーの奴らの様子なんかを、つい伺ってしまう。次はおかしな徴候を見逃さない。
いや、俺がそれを見つけても医者でもカウンセラーでも無いから何ができるのか、たいしたことはできんのだろうが。
で、ロードの奴は冬休み前ならもっと気を抜いて俺と話してただろうに、今日は少し、ほんの少しだが、俺に警戒していたような。妙な感じだ。
ロードに気づかれないように距離をとって後をつける。特に誰かと会うことも無く、おかしな店に入るでも無く、ロードの家に帰り着いた。真っ直ぐおうちに、優等生め。
異常は無い。フツーだ。だけどなんだこの妙な感じは?
バカバカしい話だが、もしかして、本当のロードはログアウトできなくて、今、家に入っていったのがロードの偽者とか? まさかなー。なんだそのSFは?
コレキヨもサタヤンも速撃ちマックも休みだし。
とりあえずヤマねーちゃんに報告だ。ヤマねーちゃんにこれから行くとスマホでメッセを送り、ヤマねーちゃんのアパートに行く。
「えー? 『
風呂から出たヤマねーちゃんは、下着のままバスタオルで頭をカシカシと拭く。俺を男扱いしてねーな、この女は。まったく。
俺は手に持つドライヤーのスイッチを入れて、あぐらかいて座るヤマねーちゃんの髪を後ろから乾かす。相変わらずのクセの強い髪の毛。
「ヤマねーちゃんが調べてたのって、そういうのがこれまであったからなのか?」
「変な噂のもとを調べてるのはそうだけどね。『Beyond Fantasy memories』は私も手伝ってるんだし、変なこと言われるのはヤだし。でも話を聞くと昔のポ〇〇ンショックを思い出すね、ソレ」
昔、テレビアニメのエフェクトが激しくて、それを見た子供が倒れたって奴か。そのあと派手なエフェクトが規制されたっていう。
「他のゲーム会社がザーニスのひとり勝ち状態をやっかんで、妙なこと言ってるだけ、だと思ってたんだけどなー」
「じゃ、ロードみたいになったって苦情とかは来てないのか?」
後ろからヤマねーちゃんの天パの髪を手櫛ですいてドライヤーをあてる。ヤマねーちゃんは猫みたいに目を細めてる。痒いところはございませんかー。
「そんなん来てたらおおごとで、本格的に調べてるよ」
「ヤマねーちゃんはどう思う?」
「たまたま仲良しグループがインフルエンザにかかった、とか? そのタイミングが重なった、というところ?」
「じゃ、例のログアウトできなくなるとかいう噂は?」
「そんな昔のアニメみたいなことが、本当にあると思う? それにそんな事件になったらザーニスはゲーム売れなくなっちゃう。利益を潰してやる理由って何?」
「さて? 謎のイカレハッカーの攻撃とか、マッドエンジニアの自己満足とか、サイバーテロとか、いくらでもありそうだけど」
「あ、ザーニス以外に仕組んだ犯人がいた場合ということね。ふーん」
「ほら、乾いたぞ。早く服を着ろ」
「明日太、本当に高校生男子? なんかこう、もうちょっとドギマギするとか、モジモジするとか、無いの? 乙女の下着姿よ?」
「俺におっぱい近づけんな。吐くぞ」
「あ、ゴメン」
ヤマねーちゃんは寝巻き代わりの黒のジャージを着る。
「明日太、まだそれ治ってないの」
「一生治らないんじゃね?」
ヤマねーちゃんはおっぱいが大きい。ぽよんとしてる。だからその部位がブラジャーだけでちゃんと隠されて無いまま視界に入ると、気持ち悪い。ぷるんとなるとこ見ると、おえってなる。
どーにも、俺のあの母さんが巨乳ということもあって、俺の無意識下では、巨乳イコール破壊神様となってしまっているらしい。
なので、大きなおっぱいを見ると気分が悪くなる。顔に生でくっつけられると吐いてしまう。深刻な母親恐怖症だ。母性を感じさせるものが気持ち悪い。
服を着てくれてたらマシなんだが。
いや、これマジだから。落語の饅頭怖いじゃ無いから。前フリじゃ無いから。
マヤねーちゃん以外で試したことは無いから、他の女だとどうなるのか解らん。いや、試したくも無いけれど。
この巨乳恐怖症が治れば、俺とヤマねーちゃんの関係も変わるのか?
「明日太はホモじゃ無いんだよね?」
「ちげーよ。おっぱいの無い女のエロマンガなら勃つからホモじゃ無い」
「2次元ロリコンだよね?」
「やっかましいわ」
俺の性癖なんざほっとけ。俺は恋人も子供も一生作る気は無い。家族って気持ち悪い。
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