第3話 オタク女子と本屋で出会う
ある日、学校からの帰り道スマホを見ていると大好きなラノベシリーズが新刊を出すことを知ったので足早に本屋に向かう。
ちなみに僕はバイトをしていない。それこそ親から送られる仕送りをなんとかやりくりしてオタク生活を送っているのだ。
本当はあるゲームを買いたいからある程度我慢していたが思いたったら吉日というのか、すぐに歩く足の向きは本屋に向かっていった。
「お! 来たな。蓮、その様子じゃ平常運転だな」
「どういうこと?」
「絶賛オタク道を歩んでいるんだろう? 今日だってお目当てはあのシリーズの新刊っぽいし」
本屋の制服を着てアルバイトしてるコイツは真柴晴臣。ボッチの僕の唯一の友達だ。今は他の学校にいて離れ離れになっている。
なんだよ、この主人公ボッチじゃないじゃんと思った君たち。残念ながら僕は今の学校だとボッチなのだよ。
……心配しないでいいよ、悲しいけど友達はコイツだけですから。
「ん? なんか人だかりが出来てるけど?」
「あぁ……なんか知らないけどよ。ラノベコーナーに場違いな美少女がいるみたいなんだよ。それを見にいろんな男子が集まってさ、店側も迷惑してるんだ」
晴臣が人だかりが出来ているラノベコーナーの方を見て困った顔をする。
場違いな美少女? 全く……あれだけ人だかりが出来ていたら買えるものを買えないだろうに。人の視線を気にするラノベ読者が黙ってないぞ?
--ったくオタクの風上にもおけないやつだ。
ちょっと文句言ってやろうかと思ったが陰キャの僕がそんなことできるわけもなくただ様子を見に行こうと思った。
……美少女っていうのも気になるし。
「ちょっと僕も見てくるよ」
「よっ! さすがエロ天狗。ハーレムの道は近いぞ?」
「お前は友達兼客に罵倒をするのか?」
「いやいやどうせ、噂の美少女が気になるんだろ?」
「そっそんなことないんだからねっ!?」
「お前気持ち悪いぞ」
僕がわざわざツンデレっぽく喋ってあげたのにこの仕打ち。
全くここのアルバイトはどんな教育されてるんだ。誰か上の者を呼んできて欲しい。
それよりもあの人だかりだ。一体何が……。
人を避けながら前に進むと確かにラノベコーナーに一人の女子高生が何かを悩んでいるかのように陳列されている本を見て立っていた。
それは後ろ姿から見ただけでわかった。
凛としていてその佇まいだけでも絶対に絵になる。なんならモデルかと思った。スラッとした体型で出るところは出てる。これはみんなの注目を浴びるのも仕方ないだろう。
ただそんなモデルが一心不乱にラノベを見ていると、なんか組み合わせがな……と思ってしまう。いや偏見とかじゃないよ? アメリカ人が寿司食うみたいな感じ。
だがなんでこんなモデルがここに? と思い、そのモデルの顔を見てみると……。
「あ、晴野さん……?」
晴野さんだった。ラノベコーナーにいた美少女は生粋のオタク……晴野さんでした。
「あら? 笠松くん、こんなところで会うなんて奇遇ね。もしかして尾行してきた? 潜伏スキルぐらいを使って」
「さすがにそこまで念入りに尾行しないよ? 今日会ったのはたまたまだし」
ボッチオタクでも流石に女の子を潜伏スキルを使ってストーキング行為はしない。それなら黙って、ダ女神と日常を歩むほうが百倍マシだ。
あぁ、この陰気なボッチオタクにも祝福を!
そんなことより、僕が話していると周りの男たちがコソコソこっちを見て話始めた。
ムムム……この状況まずいぞ? 僕のボッチアンテナがビンビン言ってる。
なんなら全くみんなには迷惑をかけてないとは思うが敢えて言おう。僕たちは今、目立っていると!
どこかの総帥の演説を心の中で思うと僕はすぐさま晴野さんの手を取って引っ張る。
目立つのは苦手だ。だから咄嗟にこの場から去りたかった。
「ちょっ……!? そんな強引に!」
急に僕に手を引っ張られたからなのか分からないが晴野さんは表情を赤らめていた気がした。
晴野さんを連れて僕は本屋の隅っこ、なんなら少し薄暗い、人がこなさそうなところに行った。
「さて一体どういうつもりかしら? 三秒あげるわ。お祈りを済ませなさい」
「いや、弁論のチャンスぐらい欲しいんですけど」
「ダメよ。もう裁判は終わったの、有罪判決を待ちなさい」
不思議と某裁判ゲームの裁判所が見えてきた。
検事席には晴野さん、被告兼弁護士席には僕がおどおどと冷や汗をかいている。
「異議あり!! 横暴だ! 一体どんな証拠があって有罪に……」
「あら? 本人の許可も得ずに勝手に女性の体に触れた挙句、誰もいない薄暗い場所に連れてきたあたりで現行犯逮捕は否めない気がするけど?」
「まっまだ……!」
「もう楽になりなさいよ。なる○どくん、あなたはよく頑張ったわ」
「くっそぉぉぉ!」
僕の目の前には有罪の二文字が映し出されて目の前が真っ暗になった。
「さて、そんな逆転◯判をモチーフにした小芝居は置いといてなんでこんなことに?」
「あぁそれはね。かくかくしかじかで……」
僕はあの人だかりのせいで店側が迷惑してることを晴野さんが出来るだけ責任を感じないようにオブラートに包んで話した。
遠回しに物事を伝える……これラノベを読んでる者なら意外に得意なことでもあったりする。
「……なるほど、少なくとも私のせいでこの店に迷惑をかけたのね」
なんだか晴野さんが責任を感じている様子だった。あれ、僕の伝え方下手くそだった?
「多分、晴野さんには責任ないんだけどね?」
「いえ、私にも少し非はあるわ。すぐに私が決めれば良かったんだし」
晴野さんはラノベコーナーを遠目で見る。その目は何やら子供を待つ母親の眼差しに似ていて。
「話は変わるけどあなた意外にたくましい手をしてるのね。意外だったわ」
「そっそう? これでも男だからかな」
「左手は鬼の手ぐらい霊力はあるかしら?」
「いや、僕、ぬ◯べ〜じゃないけどね!?」
すぐにでも生徒を助けに行く教師ではない事をここに宣言しておく。というか、なんなら生徒たちとあれだけ仲良くスクールライフは送れないと思う。
「冗談よ、初めて男の人にあんな風に手を握られたものだからビックリしちゃったの」
「そっそうだったんだ。なんかごめんね」
「なんであなたが謝るのよ?」
「いや初めてがボッチオタクだと示しがつかないでしょ?」
「いいえ? むしろあなたの手で良かったと思うわ」
「え!?」
晴野さんの言葉にビクッとした。え……どういう意味なんだ?
「……そうだわ、あなたの意見も聞きましょう。そうすれば早く決まると思うし、さて行くわよ」
「ってちょっと……!?」
僕は言葉の真意を聞く前に、逆に晴野さんに引っ張られるようにラノベコーナーに向かっていった。
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