第2話 オタク女子とカップ麺
机に座っている僕の目の前には美少女。
その美少女はショートカットでサラサラと綺麗でくすんだ茶色の髪をしている。
大きな目、長いまつ毛、白い肌。どれも一級品のパーツを持っている紛れもない美少女。
ただそんな美少女は僕の目の前でスマホを片手にカップラーメンをすすっている。いわゆる、ながらスマホだ。
みんなもお母さんによく注意されるのではないだろうか。
無論、今は誰も注意する人がいないので僕も絶賛、ながらスマホゲーム中だ。
しかし男女の高校生が共に食事をするなんて滅多にないこと、普通ならファストフード店でイチャイチャとするもんじゃないのか。
僕らはナ◯トの対戦ゲームを終え、休憩がてら僕の家で夜ご飯を食べていた。
「ーーこんなのでいいのだろうか?」
僕はこの状況を見てふと口に出した。
「何を疑問にもってるのかしら?」
晴野さんは僕の疑問に反応はしてくれたが視線はスマホの画面をずっと見ている。
「いや、華の高校生活、家に引きこもってるみたいに放課後にゲーム、漫画、アニメ視聴、そしてその最中に食べるカップラーメン……こんなことばかりしてていいのかなと」
僕は画面を見ながら、そしてその合間合間にフーフーと冷ましながらラーメンをすすってそんなことを呟いた。
「あら? こんな生活は嫌だとでも?」
「全くそんな気はない! というかこのままであれと僕は切実に思うね」
「見上げたオタク根性ね。大体オタクになってしまった以上こんな自堕落で二次元に染まる生活になるのは当たり前よ」
晴野さんも同じようにスマホを横に持ちながらそんなことを呟く。
ちなみに今やってるのはモ◯ハン2G、昔懐かしのゲームだが久しぶりにリメイク版がスマホで出たということで二人してインストールしてやっているのだ。
これ登場モンスター多くてやり込んだな〜
「……というと?」
「私たちみたいな種族はね。現実逃避したいのよ、今の環境、職場、学校の雰囲気からすぐに逃げたくてね。だからこういう生活に引き込まれる。二次元をより良く味わう生活にね、だって確実に楽しいじゃない」
晴野さんは自分で作った僕の家のカップ麺をすする。
というかこんな美少女でもカップ麺食べるんだな。意外なことを知った。
「確かに……っていうことは晴野さんも現実逃避したいの?」
「当たり前じゃない。だからこんな時間まであなたとモンスターを狩ってるのよ。こっちの世界は現実みたいに裏切らないし、狩った分だけ成長できるんだからやめられないわよ」
「確かに……現実とは違ってゲームは裏切らないからね〜」
ゲームはやればやるだけ実になる。でも現実はそんなこともない。だって僕の気持ちを知らずに勝手に裏切るから。
僕は少し画面から目を離して晴野さんを見た。
ゲームに熱中しているから僕の視線には気づかないが晴野さんのゲームをプレイして嬉しそうな表情はいつ見ても可愛かった。
「……そうね。あっ尻尾切ったわよ」
「りょーかいっと」
僕は再び画面に目を戻して晴野さんが切ったであろうモンスターの尻尾を剥ぎ取る。
レアな素材が出ることを祈りながら。
「二人で狩るとここまでスムーズにいくのね」
「あれ? もしかして協力プレイ初めて?」
「悪いかしら? こちとらソロプレイが基本ですけど」
「いや悪くはないけど……。それじゃあどうだった初めての協力プレイは?」
「とても良かったわ。動きも随分楽だったし」
「そっか、そっか! それは良かった!」
「あとあなたが初めての協力プレイの人で良かった……」
「へ?」
不思議と晴野さんが少しばかり顔を赤らめている様に見える。
もしかして僕の事が……ってことじゃーー
「あなた随分上手いもの、私やることなかったんじゃないかしら」
「あ、そっそういうことね」
晴野さんはいつものような真顔だった。あれ僕、目悪くなった?
いけない。いけない。僕は何を高望みしていたんだ。身の程を知れよ? ボッチオタク野郎。
一回死ぬか?
「……そういうことにしといてね」
晴野さんはカップ麺のスープを飲み始めた。
******
「現実もゲームみたいに、はいかいいえみたいに単純な選択肢を選ぶだけだったら楽に生きてけるのに」
「あはは! とんだボッチオタクかつニートの鏡みたいなセリフね。少し同感だわ」
「晴野さんも思うんだ、そんなこと」
「当たり前よ。人間関係とか複雑なもの全部一緒にどこぞのゲームみたいに二択選ぶ形式になってくれればいいのに」
まるで世間にぶつけるかのように語る晴野さん。まさか彼女からこんな言葉が飛び出すとは。
「……恋愛だってそうよ。こんなにいろいろ考え事になるならいっそ選択できるようになれば……いやそれはやめておきましょう。……こうやってドキドキするのが醍醐味だし」
何やら晴野さんは僕には聞こえないようにぶつぶつと呟きながらカップ麺の汁をすすっていた。
「このままでいいのかってさっき僕言ったけどさ、どのアニメキャラたちもボッチでオタクだったとしても何か行動はするよね」
モンスターに攻撃すると止めを刺したのかモンスターがうなだれて、クエストクリアの文字が見えた。
視線を晴野さんに向けると晴野さんは少しニヤけながら僕を見ていた。
「ふふ、なに? 私たちも同人サークル作ってゲームでも作ってみる?」
「いや、やめておくよ。僕は作るよりプレイしたい派だからさ」
僕は最後の麺をすすって容器をキッチンに持っていった。
「冴えないオタクの過ごし方……ぷっ!」
「いや全然上手くないし、なんなら晴野さんにも言えたことだよね」
自分で何かツボったのか晴野さんは僕を見ながらクスクスと笑っている。
なんなのだろう。僕のことを言いたいのか? オタクは間違い無いけど冴えないはちょっと言いすぎでは無いだろうか?
「あら心外ね、私は冴えないことないわよ?」
「人の家で勝手にカップ麺作って脱いだ制服は畳むことなく駄々草に放って置いてある女子高生のどこが冴えてるんだ?」
こんな状態見たら学校の人たちも評価を改めそうだけど。ワンチャン誰かにチクろうか?
舐めるな、僕がそんなことするはずない。
……だってチクる友達もいないからね。
「物は言いようよ? 荒れた家で自給自足、人の手を借りず粗末な物で食事を済ましている。社会のルールには囚われず、女が服を畳む文化に抗弁する、自由気ままな女子高生。ほら? なんか頭良さそうに聞こえない?」
「無駄にかっこいい言い方してるけどよく考えたらただの自堕落者だよね。あと地味にこの家を荒れた家とか言いやがったな。このやろ」
確かにそこら中にゲームやら、ラノベやらアニメのブルーレイやらが混在しているが荒れてはないと思う。
なんならそこらへんのオタクからしたら宝島と言える。
「怒った? どこぞのサイヤ人みたいに友達殺されて戦闘力跳ね上がるレベルで怒っちゃう?」
「いやそこまで怒ってないよ」
晴野さんもカップ麺のゴミをキッチンに持ってきてそんなことを言った。
というかそんな怒ってたら僕はこんなふうに接してないと思う。
だってあの怒りレベル、髪の色変わって、星一個壊せるレベルだよ?
それからゲームをしてその日は終わったのだ。
晴野さんが言っていたように人間関係とか全部二択であればいいと僕も思ってる。
その方が楽だし何より深く考えた時よりも裏切られた落ち込み度は低い。
これを逃げと呼ぶだろうか? いや違うだろ。
だって二択って言っても結局どっちかを選ぶんだから。
以上。現場からボッチオタクがお送りしました。
反論とかしないでね。豆腐メンタルだから。
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