第16話 閑話 天使アーリンの憂鬱 その1
一日の任務を終えて天界の神殿に帰還した天使アーリンは、非常に機嫌が悪かった。
今日、転生を担当した若者、タケル・オオミヤについて思い出すと、どうしてもイライラしてしまう。
神の恩寵により許されるステータス調整をまさかあのような偏った数値にしてしまうとは、
「まったく、不敬にも程があります。」
一日の疲れを癒す入浴も、今日ばかりはあまり効果を期待できそうにない。
「どうしたのアーリン、珍しく機嫌が悪そうね。」
アーリンが下界での穢れを清めるため、浴槽に浸かっていると、
普段の温厚なアーリンとは違った様子を見て、同僚の天使メロントルが声をかけてくる。
「聞いてくださいメロントル。今日私が担当した転生者なんですけど」
彼女が、今日下界で起こったことを話すと
「あははは、何それ。その子、変わってるぅ。」
メロントルは、楽しそうにコロコロと笑う。
「笑い事じゃありません。」
「ごめん、ごめん。でもそれじゃあ、その子とても下界を生き抜けそうにないね。あるいはもう死んじゃってるかも?」
「不吉な事を言わないでください。」
同僚の天使はかなりのお気楽主義のようだ。
メロントルの不吉な言葉を聞いて、アーリンは眉をひそめる。
とはいえメロントルの言う通り、下界での生活はとても厳しい。
大陸内には、人族よりはるかに強力な魔物がゴロゴロといて、冒険者のようなそれなりの能力を持っている者でも、生き抜くのに苦労している。
特に大陸中央に広がる巨大な森林部は、魔素が非常に濃い上に、その魔素を求めて強力な魔物が数多く集まって来るので、一流の冒険者でも立ち入ることさえ困難とされている。
まさか、異世界に来たばかりの若者が、そんな過酷な環境の場所に飛ばされることはないと思うが、それでも人族にとって安全な場所は多くない。
しかしながら転移先については、担当者の彼女でも知ることはできない。
ただ通常は、その者の適正に合った転移先が選ばれるはずだ。
あんなにINTに偏った少年には、どんな転移地が与えられるのだろう。
「やっぱり、魔法王国かマナの湖あたりが順当なところじゃない?
あの辺りは人族の勢力圏だから、きっと大丈夫よ。」
アーリンがタケル事を考えて黙り込んでしまったのを見て、メロントルは慰めるように言う。
魔法王国グランドルは人族有数の大国だし、マナの湖のほとりには魔術師ギルドの研究施設があったはず。
「そうですね。なんとか安全な所に転移していると良いのですが・・・」
いかに愚かな異世界人といえど、自分が担当した者の行く末は気にかかる。
アーリンは少年に不吉なことが起こりませんようにと、信仰する主神に祈りを捧げるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます