第14話 現在-7

現在-7

 

 

2019/07/03

 

『出席、代わりに書いてくれ』

 

 メッセージを志田に送る。

 もう何回このメッセージを志田に送ったのかわからない。

 ただ、まだ欲しいものを手に入れてないから仕方ない。

 さっさと、済ませたい。

 

 

「今日も私に代筆押し付けるとか、舐めてんの?」

 

「別に舐めてないが、どうした」

 

「私の告白、保留してるくせに」

 

「ああ、そうだったな」

 

「そうだったな、って、酷くない?」

 

「そうか?」

 

「ったく……あ、トイレ行ってくるね〜」

 

 志田はトイレにのんびりと歩いていく。

 俺は周りを見渡す。

 ……いや、雑貨が集まっている、ある一点に視線を向ける。

 俺はそこに向かう。

 

 

 その雑貨の山には、見覚えのある、太陽を象ったペンダントトップが付いてるネックレスが混ざってあった。

 

 

 ……

 …………

 

「おーい、酒飲もー?」

 

 志田は明るく俺に声をかける。

 

「……なぁ、志田。一つ話していいか」

 

「そんなことより早く、酒……」

 

 志田は、俺が一体どこに視線を向けているのか気付いたのだろう、声が小さくなる。

 

「俺は殺人鬼に殺されたうちの大学の学生、中原夕とは恋人同士だった」

 

「……え?」

 

「言い辛くてな、前は言わなかった」

 

 俺は太陽のペンダントトップが付いてるネックレス――夕のネックレスを手に取る。

 

「ただ俺は知っていたんだ。夕を殺した犯人はあの男じゃないって」

 

「……」

 

「覚えてないか。あの時お前は顔を隠していたが、俺とお前はすれ違ってたんだぞ」

 

 そう、あの時俺は犯人とすれ違っていたのだ。

 そして、そいつは明らかに女だった。

 

「……」

 

 志田はさっきから一言も口を開いていない。

 ……

 

「……実を言うと、もうあれは過去のことだ。今更気にしてない」

 

「え?」

 

「ただ、少し気になるだけだ。なんでお前は中原夕を殺すことになったのか」

 

「……」

 

 志田はツバ飲み込んでいる。

 

「……怒ってないの?」

 

「ああ、不思議なことにな」

 

 志田は胸を撫で下ろす。

 

「……じゃあ、結論から言うけど、あの中原っていう女、ビッチだったんだよね」

 

「……どいうことだ?」

 

「言葉の通りだよ。男を身体で籠絡して楽しんでいたんだ」

 

 志田の目にはイラつきが見てとれた。

 

「私の元カレの石田快樹がそうだった」

 

 石田。

 夕をしつこくナンパしていた男。

 

「……」

 

「快樹が、あの女に騙されて、あの女を追った!」

 

 志田は叫ぶ。

 

「あの中原とかいう女、思わせぶりな態度を取って誘惑しちゃってさ、殺したくなったんだよ」

 

 憎々しげな声で。

 

「だから、本当に殺しちゃった」

 

 志田は泣き笑いのようなものを浮かべる。

 

「あいつ、見た目が綺麗じゃん?だから、本当に鬱陶しかったんだよねー」

 

 志田は泣きながら、何かを誤魔化すかのように軽く語る。

 

「後ろから、腹の方に手を回してズブリ」

 

 その時の動作を真似してみせてくる。


「そして、よく見たらなんか変なネックレスで着飾ってるの。なんかムカついたから、奪い取ってやったんだ」


志田の声が震えている。

いや、声だけではない。

 

「……その時のことが、まだ体が覚えているんだ」

 

 そう語る、志田の手も震えていた。

 

「あの時のことが、忘れられないんだよ。そのせいで快樹と別れることになったんだ」

 

 志田は震え声を出す。

 

「あの時、運良く連続殺人事件があったから、そっちの方に殺人を擦りつけることはできた。でも、私はあの時、人を殺した恐怖が取れない」

 

 泣きながら、声を出す。

 

「だから、上谷。あの時の恐怖を忘れさせて?」

 

 そして、志田は俺の首に手を回そうとし――――

 

 

 触るな、ゴミクズが。

 

 

 俺は無言のまま、志田の襟首を掴んで、全力で壁に叩きつけた。

 

「ぐっはああぁ!」

 

 志田は苦しそうな声を出す。

 つい、やってしまった。

 だけど、知りたかったことは全部聞き出した。

 もう演技する必要は無い。

 だから、

 

「なん、で」

 

 もうこれ以上口を開くな。

 俺は志田をこちらに引き寄せ、もう一度壁に叩きつける。

 

「おええっっっ!!」

 

 志田は嗚咽を漏らす。

 胃の中身は無いようで、特に何も出ててこなかった。

 俺はそのままもう一度、今度は床に叩きつける。

 

「ぐあぁぁ……」

 

 俺は仰向けで露わになった志田の腹を、込めれる限りの力で踏み、蹴り飛ばす。

 

「……っ!!」

 

 もう声も出ないようだ。

 ヤク中だから、筋力も体力もないんだろう。

 俺はうつ伏せに倒れた志田の上に乗り、右腕に関節技を決めた。

 そして、そのまま志田の右肩を外す。

 

「……っ!……っ!!」

 

 俺はそのまま左肩も外そうとするが、中々上手く行かない。

 ボギィ!って小気味いい音がした。

 骨が折れたかもしれない。

 知ったことか。

 

「痛い、痛いよぉ……」

 

 俺の下で人の形をしたゴミが泣いている。

 

「夕が」

 

 ここまでして、俺はようやく口を開いた。

 

「夕が受けた痛みは、こんなもんじゃなかっただろうな」

 

 夕は死んでしまったのだから。

 こいつのせいで。

 

「あんな女のためになん」

 

 志田は何か文章を言おうとしたみたいだが、俺は志田のセリフを最後まで聞けなかった。

 志田の頭を掴み、そのまま床に叩きつけだからだ。

 

「ぐっえぇぇ」

 

 志田の口の周りが血まみれだ。

 歯が折れたかもしれない。

 

「夕を貶めるようなことを僅かでも言ったら、同じことを何度でも繰り返す」

 

「うぅぅ……」

 

 志田は泣いている。

 鬱陶しいから、まず目玉から抉り取ってやろうか。

 

「なんで」

 

「あ?」

 

「なんで、あのネックレスを見つけるんだよぉ……」

 

 志田はかすれ声でそんなことを言う。

 

「あれを見つけなければ、私達仲良くやれたのに」

 

 志田は悲しそうに言う。

 そんな馬鹿なことを。

 

「そんなわけないだろ」

 

 だって

 

 

「俺はお前が夕を殺したのを最初から知っていたんだから」

 

 

 ……

 

「……え?」

 

 志田は素っ頓狂な声を出す。

 ああ、やっとここまで来た。

 ここにくるまで長かった。

 でも、やっと、欲しいものが手に入った。

 それは――

 

 

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