第12話 現在-6

現在-6

 

 

2019/07/01

 

「やろう??」

 

 いつもの志田の家での宅飲み。

 そこで飲んでる最中にいつもの如く、いきなりクスリを吸い出したと思ったら、そんなことを言い出した。

 

「だから、俺はヤクは嫌いだって言ってんだろ」

 

「違う違う。セックスの方」

 

「そっちかよ……」

 

 最近は言わなくなったかと思ったら、再燃したようだ。

 俺は首元のネックレスの鎖に指を絡ませる。

 

「俺は――」

 

「また、『そういう気分じゃない』ってヤツ?」

 

「わかってるじゃねぇか」

 

 俺はビール缶に口を付ける。

 

「ねぇ、あんた、元カノのことを引きずっていんの?」

 

「……そんなこと言った覚えないが?」

 

「わかるよ、私がそうだから」

 

 志田はクスリをキメながらも、落ち着いて喋る。

 

「私は快樹のことが忘れられない。本当に好きだったから。だから、私に快樹のことを忘れさせて欲しい」

 

 快樹は確か元カレの名前だったか。

 

「代わりに、あんたに元カノのことを忘れさせてあげる」

 

「……」

 

 ……

 

「付き合お?私達」

 

 志田は軽い口調ながら、真剣な眼差しでそう言ってきた。

 ……

 俺は立ち上がる。

 

「……少し、考えさせてくれ」

 

「ダメ、今答えて……って言いたいけど、そう言ったらあんたは『ノー』って言うんでしょ」

 

「よくわかってるな」

 

 俺はそのまま玄関に向かう。

 

「いつか答えてやるから、その時まで待ってろ」

 

「楽しみに待ってる」

 

 俺はそのまま外に出た。

 

 

 ……

 志田に告白じみたことされるなんて、思ってもみなかった。

 そもそも、俺なんかが夕以外の誰かに好かれるなんて、考えさえもしたことなかった。

 ……ただ、夕は違っていたのかもしれない。

 夕は俺が他の女と恋人同士になることを考えていたのかもしれない。

 いや、『かもしれない』じゃない。

 夕が死ぬ直前に交わした、夕との会話を思い出す。

 

『私の事は忘れて欲しい』

 

『……あ?何を言ってるんだ?』

 

『だから、私が死んだら他の女を作れって言っているんだ』

 

 ……

 あいつは自分のことを忘れてくれと言った。

 俺は――

 

 

 

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