第33話 夏祭り

Q.彼氏が待ち合わせ場所に、他の女の子と手を繋いでやってきました。その時の彼女の心境を述べなさい。




A.ふ・ざ・け・る・な。




いやいやいや。それはない。それはないでしょう。


これでも私、かなり気合入れてきたんですよ。お母さんにもお墨付きもらいましたし、妹からは家を出るとき冷やかされたりしたんですよ。なんなら二人でこっそり抜け出して、夜の境内でいい感じに…くらいまで妄想を膨らませたりまでしました。




それなのにいきなりこの仕打ちですか。先制攻撃にしてもやりすぎでしょう。


ジャブどころかアッパーですよこれは…


内心ふざけないとやってられません。というか、正直もう泣きそうです。




「湊くん、こんばんは…なんで月野さんと手をつないできたのか、詳しく聞きたいんですが」




「うぇっ!こ、これは違うんだよ、渚が勝手に!」




湊くんは慌てて手を離しましたが、後の祭りです。いや、本番のお祭りにいくのはこれからなんですが。




浮気男の常套句みたいなことを言って私に弁解してきますが、あれ見てどうしろというんですか。


別れる原因になってもおかしくない所業ですよ、あれは。


まぁ別れませんけど。




必死になってる湊くんを後ろから月野さんが笑ってますし。からかってるだけなんでしょうね。


あの人、なかなかいい性格をしてらっしゃいます。


霧島さんは…なんでしょう、どちらかというと気に入らないとかそういう目をしているような…




「ねぇ、佐々木さん。みーくんを許してあげてくれないかな。くる途中で友達と会っちゃってからかわれちゃったんだ。ちょっと急いでここまできたから、渚ちゃんと手を繋いだままきちゃったの。ほんとにみーくんは悪くないんだよ」




それ、説明になってないんですけど。


からかわれたから女の子に手を引っ張られてきた男子って、それはそれでどうなんですか。


ちょっと引きますよ。




「私もさっさと手を離せば良かったんだけど、うっかりしちゃってさ。ほんとに悪気なかったんだよー。佐々木さん、湊、ごめんね」




う。月野さんまで謝ってきましたか。


こうなると形勢不利ですね。許さないとなれば、この場での悪者は完全に私にすり変わることでしょう。


お二人のこういう流れでのコンビネーションは上手いですね、さすがです。


とと、感心している場合ではないですね。




「そういうことなら…でも、なるべくああいうことはしないでくださいね。もちろん見えないところでもですよ」




「ごめんね、夏葉さん」




釘を刺すことは忘れませんが、今はこれでいいでしょう。


これ以上引っ張ってめんどくさいと思われるのも、それはそれで嫌ですし。


では出発…の前に




「それで、湊くん。今日の私、どうですか?」




「あ…うん、すごく、綺麗だよ」




うん、その言葉を聞けただけでも、今日きた甲斐がありました♪


…後ろのお二人と浴衣姿が被ってしまったことについては、目を瞑ります。




「うん、佐々木さん、とっても綺麗だよ。それじゃいこうか、みーくん」




「うわ、綾乃」




そう言って霧島さんは湊くんの手を取って歩き始めました…やっぱり怒っていいですよね、私。


一人おいていかれる私の肩を、月野さんが同情するように優しく叩いてくれるのでした。












「わぁ、人がいっぱいですね。それにとても賑やか…」




私達が到着した神社は既に人で大勢賑わっていました。


お正月ともなると、参拝客が多く訪れることでも有名であるため、参道にはかなりのスペースがあるのですが、既に露店と人で埋め尽くされています。




境内にもぼんぼりの灯りがともされ、雰囲気は抜群。これでお酒で出来上がってる方達や子供達はしゃぐ声がなければ、もっと厳かな場所になるのでしょうが…夏祭りでこの考えは無粋ですね。


楽しむことが一番ですし、そのほうが神様も喜ぶことでしょう。




「夏葉さんはあまりお祭りとかこないの?」




「あー…恥ずかしながら。人混みは少し苦手ですし、響子ちゃんもあまりこういう場所は得意じゃないんですよね」




「そうなの?それじゃ誘ったりして悪いことしたかな」




「いえいえ。誘って頂いて嬉しかったですよ、大勢で周るのも楽しいですしね」




霧島さんが申し訳なさそうにしていますが、本当にそんなことはないんですよ。


友人とくる機会が少ないので、すごく新鮮に思えます。




まぁほんとなら湊くんにだけ誘って欲しかったという気持ちは、否定できませんけど。




「じゃいろいろ見てまわろっか。オススメの出店紹介するよ。あそこのおじさんの焼きそば美味しいんだー。割引もしてもらえるよ」




「顔広いんですね、月野さん…」




前を歩く月野さんに、後光が射しているようにさえ思えました。


これがリア充…私では勝てそうにありません…










それから私達は、露店をぐるりと見て周りました。


美味しい焼きそばを食べたり、綿あめを買ったり、射的をしたり。


あと、同級生グループとバッタリ遭遇して、その中の一人からなんだか神妙な目で見られたりといろいろありましたが、楽しい時間が過ごせたと思います。


ただ、霧島さんがやたら湊くんと距離が近かったのが、なんだか気がかりでしたが。




さて、このあとどうしようかとなったところで、月野さんからこんな提案がされました。




「ねぇ、一通り見て周ったし、ここからは二手に別れない?一時間したら、またここで合流して解散ってことでさ」




おお、ナイスです月野さん!それを待ってたんですよ、私達カップルに気を利かせてくれるなんて本当にありがた…




「じゃあ、グーパーで決めよっか。そのほうが公平でいいよね」




「「え?」」




私と湊くんの声が見事にハモりました。以心伝心とはいえ、この場では嬉しくありません。




「あ、あの、霧島さん…?」




「いくよー。最初はグー。じゃんけん…」




「あわわわ!」




その言葉を聞いて、反射的に手を出してしまいました。


反論もできず、空気に流されてしまうのは私の悪いところです。


あとで反省しなければ…。それはさておき、私が出したのはパー。


これで湊くんもパーなら一緒に行動できます。これはまたとない機会、お願い神様…!




おそるおそる湊くんの手を見ると、そこには…










「よろしくねー、佐々木さん」




「はい…」




私は敗北しました。湊くんが出した手はグー。


霧島さんもグーで月野さんがパーだったことであいことならず、見事グループ成立。


二手に別れ、私は現在月野さんと行動を共にしているところです。


なんでこんなことに…




「いやー、ほんとごめんね佐々木さん。邪魔する形になっちゃってさ」




「いえいえ、お気になさらず…」




そう答えるも、やはり私の気分はブルーのままです。このままだと身勝手に覚醒できるかもしれないくらいにはどん底のまま。


月野さんには悪いですけど、やはりこういう場所では好きな人と一緒にいたいと思ってしまうのはワガママなことなんでしょうか。


そう思ってた私に、月野さんが笑いかけてきます。




「こういう形になっちゃったけど、私ずっと佐々木さんと話してみたかったんだ。あとさ、佐々木さんってちょっと言いにくいから、これからは夏葉って呼んでいい?私も渚でいいからさ」




「え、あ、はい。か、構いませんよ」




なにこの人、めっちゃグイグイくるんですけど。


距離の詰め方早すぎません?でも逆らえない…これがリア充の圧力…




「ありがと。それで早速なんだけど、夏葉は湊のどんなところ好きになったの?」




「そ、それはですね…」




は、恥ずかしい質問を…でも、これ答えないと駄目なんでしょうね。渚さん、すっごく目をキラキラさせてますし。あ、まつ毛長い。ほんと美人だなぁ…




「えっと、入学式の時に、一目惚れしちゃいまして…それから気持ちが抑えられなくなって、勢いで告白しちゃったんですよ。あ、でも今はちゃんと湊くんの好きなところ、たくさんありますよ!すっごく優しいですし、いろいろ気を利かせてくれたりもして!」




「そっかそっか。うんうん、一目惚れか。青春だねー」




顔を真っ赤にさせて答える私に、頷いている渚さん。


とりあえず満足はしているようです。私はほっと胸を撫で下ろすのですが、渚さんはまだいいたいことがあるようでした。




「じゃあ、質問に答えてくれた夏葉には、ご褒美あげちゃおうかな。ねぇ、今湊と綾乃は、なにしてると思う?」




「?私達と同じように、お祭りを楽しんでいるのでは?」




仲のいい幼馴染ですし、と続けようとした私の声を遮るように、渚さんは言います。




「本当にそう思う?」




「え…?」




顔をこちらに近づけてきた渚さんが、綺麗な青い瞳を私に向けました。


まるで私の心を、覗き込むように。




「なんで綾乃が前原くんと別れたのか、夏葉はちゃんと考えたことある?あの騒動があったからで終わってない?これまでの態度を見て、思うことはなかったの?」






ドクンと、心臓が跳ねた気がしました






「幼馴染で終わらせるには、あの二人の距離近くなかったかな?ちなみにあたしは違うからね、そんなつもりないし。でも、綾乃はどうかなぁ」






心臓の鼓動が、ドンドン早まっている気がします。いや、でも、そんなまさか。






「あ、やっぱり心当たりあるんだ?顔色悪いよ」






昨日のデートの行動も、わざと?天然じゃなく、分かっててあんなことを?


今日も思い返せば、霧島さんは湊くんにべったりだった、ような。






「それって、つまり、霧島さんは」




「どうだろうね。でも、もしかしたら急いだほうがいいかも」






私は急いでその場から駆け出しました。




渚さんの、キスくらいはしてるかもねという最後の言葉を、振り切るように。


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