第7話 おはよう
「佐々木とは結局どうするんだ?」
席につくなり開口一番、健人が聞いてきた。どこか不安そうな気持ちが混じっている声だ。
意外と気を使う性格の彼らしく、友人の橋渡しをしたことに気まずさを感じているのかもしれない。本人は意識していないのかもしれないが、圭吾を含めたリア充グループと談笑している僕の幼馴染達を、横目でチラチラ確認するくらいには気にしているようだった。
「うん、付き合うことにしたよ」
そんな友達を気遣うように僕は答えた。実際、きっかけをくれた健人には感謝しているのだ。
僕の言葉に明らかに健人は驚いていた。目がマジか、と雄弁に語っており、その分かりやすいリアクションは昨日の佐々木さんとどこか似ていた。
結構似たもの同士なのかなと少し場違いなことを考えていると、慌てた様子で健人は言う。
「マジか。いや、紹介した俺が言うのもなんだけど、決めるの早くね?お前って振るとかはともかく、付き合うならまずは友達から入るタイプだと思ってたんだけど」
あんな幼馴染もいるし、と今度ははっきり視線を向けた。それについては否定するつもりはない。
佐々木さんも美人だが、容姿という点においてはあの二人のほうが上なのは明らかではあった。
僕は軽く手を振りながら、多少冗談めかして話すことにした。このほうがきっといいだろう。
「幼馴染って意外とそういう目で見れないものなんだよ、距離が近すぎるっていうのかな。佐々木さんならいいかなってなんとなく思ったから、付き合おうと思ったんだ。実際話してみたらいい人だったし」
「そんなもんなのか。まぁあいつは嘘とかつけないタイプだけど」
僕の言葉に健人も納得したらしく、さりげなく佐々木さんをフォローするように答えた。どうやら僕が感じた印象は間違ってなかったらしい。
…嘘をつけないタイプ、か。僕とは真逆だ。僕は今も、嘘ばかりついている。
少し気持ちが沈んでいると、ポケットの中のスマホが震えた。誰からだろうと思い確認すると、画面には佐々木夏葉の名前があった。
昨日連絡先を交換したばかりのアプリから、「おはよう」の四文字が表示されていた。
「佐々木さんからか?」
いつの間にかこちらにやってきていた圭吾が覗き込むようにスマホを見てきた。
「そうだけど…なんで圭吾も佐々木さんのこと知ってるのさ」
「そりゃ幸子の友達だしな。朝からお祝いメールに俺も巻き込まれたんだよ。あとついでに言うなら、向こうの二大天使様達も今その話で盛り上がってるから、学年でもお前ら二人が付き合ってることはすぐ広まると思うぞ」
良かったな、と意地の悪そうな顔でポンポン肩を叩いてくる友人を無視して、僕は天を仰いだ。
圭吾の彼女である
人懐っこい性格だから友人は昔から多かったし、僕もいろいろとおもちゃにされた苦い思い出がある。だから佐々木さんと仲良くしていることには何の不思議もないのだが…幼馴染達の行動は完全に予想外だった。
人の恋愛事情を拡散するとはなにが天使だ、悪魔じゃないかと僕は心の中で憤慨した。明らかに好奇の視線でこちらを見ているクラスメイトもちらほらいる。
僕が付き合えたことがそんなに意外かちくしょう。
「まぁこれであの二人にアタックかけるやつは増えるだろうな。なんだかんだ、これまではお前が一応風除けの役割もしてたわけだし」
一応は余計だ、とツッコミつつ、内心それを期待していた。
彼女達ほど恵まれた容姿をした女の子がこれまで彼氏を作らなかったのは、幼馴染の関係というものを特別視していたからだということを、僕は知っていたからだ。
中学の頃も今のようなカースト上位グループを形成していたが、休日などで遊ぶ時は決まって、僕ら三人だけだった。
だから、僕が彼女という別の特別を作れば、きっとその輪は壊れると思ったんだ。
彼女達が離れていくことを、僕は望んでいた。
そのはずなのに
そのことを考えると、何故か心のどこかがチクリと痛んだ
そんなはずはないと頭を振り払うのと同時に、教室に朝のチャイムが響いた。
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