第5話 おさななじみ
私には二人の幼馴染がいる。
一人は親友の月野渚ちゃん。お母さん譲りのとても綺麗な金色の髪の持ち主で明るくて知らない人とでもすぐに仲良くなれるすごい子だ。
人見知りするところのある私にはすごく羨ましい長所だし、そんな私といつも一緒にいてもらえて本当に感謝している。
運動も得意で、中学生の頃テニスで全国大会にまでいった時は自分のことのように嬉しかった。
私も頑張っているつもりだけど、とても追いつけそうになくて…ちょっと、嫉妬していたりもする。
もう一人は隣の家に住む男の子、水瀬湊くん…みーくんだ。男の子としては少し長めの髪はサラサラしてて、女の子のような彼の顔立ちを引き立ててる…私よりも触り心地がいいというのが正直悔しいところだけど。
中学の最初の頃は、その容姿から少しいじめられていたこともあったけど、それに負けないようずっと頑張っていたことを知っている。
今では圭吾くんのような友達もいるし、勉強や部活も頑張っている強い子だと思う。みーくんが泣いている姿は、幼稚園以来見たことがない。
そんな幼馴染に恵まれた私は、すごく幸せだと思ってる。これだけで既に運を使い切っているのかも、と思うくらいには。
いつまでも一緒にいられることを、楽しい毎日がずっと続くことを私は信じて疑わなかったんだ。
「おはよう」
5月が近づいてきてるけど、私達の住む地域では、その日はまだ少し肌寒い朝だった。家を出ると、もう外でみーくんが待っていた。
ようやく見慣れてきた少し大きめな紺のブレザーがよく似合ってる。
私が挨拶をすると、みーくんも優しい笑顔でおはようと返してくれた。
いつも私や渚ちゃんより先に待っているみーくんにはちょっと不満だったりする。
しっかりものなのは嬉しいけれど、一度くらいは部屋で起こすということをやってみたいのだ。
いつか必ず実現しようと密かに決意していると、渚ちゃんもすぐ傍までやってきていた。
「湊、綾乃、おっはよーう!」
いつも通り元気な挨拶。私が返事をする合間に、渚ちゃんはみーくんの背中を勢いよく叩いていた。ちょっと悲鳴をあげてたし痛そうだなと思う。少し涙目で彼は背中をさすっていた。
すかさず渚ちゃんも謝っていたけど、みーくんの視線が渚ちゃんの胸元を向いていたのを私は見逃さなかった…やっぱり男の子は大きいほうがいいんだろうか。
私もあと一年もすれば追い付くのに。多分、きっと。
今日の昼休みは牛乳を買おうと密かに決意しつつ、二人に並んで学校に向かって歩き出す。
私たち三人の、いつも通りの朝だった。
部活が終わったあと、私と渚ちゃんは部活の友達と一緒にハンバーガーショップまできていた。
みーくんに予定が入ったため、二人で帰ろうとしたら誘われたのだ。男子テニス部の子も何人か一緒だった。
「いやー、霧島さん達もきてくれて良かったよ。部活終わったらいつもすぐ帰っちゃうからさ」
「そうそう、俺ら仲良くなりたいなって思ってたんだよ」
さり気なく隣に座った男の子達が話しかけてくる。渚ちゃんも同じような状況で、少し離れた場所に座っている友人が両手を合わせて頭を下げていた…頼まれたんだろうなぁ、多分。
ちょっとだけ苦笑いしながら連絡先の交換に応じる。こういったことはよくあるのだ。対応には慣れていた。
告白もされたりするだが、私は今のところ誰かと付き合うつもりはなかった。それは渚ちゃんも、きっとみーくんも同じ気持ちだと思う。
私達はまだ高校一年生だ。卒業まではまだまだ時間があるし、ずっと一緒だった幼馴染三人で、思い出をたくさん作っていきたい。
そう、思っていたのに
「え…」
ふと視界の端に私達と同じ高校の制服を着た男女の姿が映った。顔を真っ赤にした綺麗な子が一生懸命話しかけていて、男の子が笑顔で返事を返している。
誰から見ても、きっとそれは微笑ましいカップルの姿なのだろう。
だけど、私は知っている。女の子のほうは見たことがないけれど、男の子は見間違えようがない。
「みーくん…?」
声が漏れていた。一瞬で頭がパニックになった。
なんで
どうして、女の子と一緒にいるの
そんな疑問で一杯になってしまって
私も見たことがない怖い顔をしている渚ちゃんに、気付くことができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます