第8話

 歩く事数分、私達は目的地に着いた。


 シルレート魔法学園には1年生と貴族学科が入る『本館』、商学科が入る『北館』、魔導工学科とその他研究室が入る本館に次いで大きい『南館』と『東館』、そして普通科が入る『西館』。

 そして私達が着いたここは別館、通称『隔離施設』。


 2階建てで1階には普通科2年Sクラスが、2階には普通科3年Sクラスが入る。


 何故隔離されてるのかはわからないが、普通科のSクラスに配属されるような生徒は問題児が多いのだろう。

 直ぐ近くに屋外訓練場もあり事実今も訓練場で爆音を鳴り響かせながら殴り合っている生徒の姿を見れる、見た事ない顔だし2年生だろう。

 常に学級崩壊当たり前、教師も匙を投げるような所が普通科Sクラス……というのが古くからの共通認識という事実に涙を禁じ得ない。


 そんな彼等をよそに私達は階段を上り2階に着く、ドアを開けると10人程度の生徒が既に勢揃いしており殆どが去年と同じ面子である。

 因みに席順は完全に自由だ、と言ってもみんな同じ席に座り続ける上Sクラスのメンバーはほとんど変動がないため気が付いたら決まっていた……みたいな感じだけど。

 Aクラス以下は変動が激しいからか先生によって決められてるようで自由に座れなくて不便だなと同情する。

 教室の壁もボロボロで何故こんな事になっているのかはわからない、まあ恐らく今頃下の階の2年生も私達がぶっ壊したボロボロの壁を見て嘆いている頃だろう。



『やっほー! 今年もよろしく!』

『あーシーラか、今年もよろしく』

『シルバ久しぶり〜、彼女出来た?』

『絶賛募集中だけど、シーラ応募してみないか?』

『は? 殺すぞ』



 シーラは教室に入るなり早々クラスの男子達に挨拶して周りに行った、実家の名産物とかの土産を配っているのでそれメインってのもあるだろうが凄いコミュニケーション能力だな。

 私なんて近付くだけで悲鳴をあげられるレベルだったりするのだが何が違うのだろうか……包容力?


 私は別にクラスの全員と仲がいいわけではない、むしろシーラを含めて4〜5人としか話さないくらいだ。

 だから私はシーラを放置して去年と同じ席に向かう。階段型教室となっていて3列ある内の左端の末尾から2番目。



「ん……」

「……やっぱり寝てる」



 先客がいたようで黒い手袋をし、仮面を付けた金髪の女子が腕を枕にしてすやすやと寝ていた。

 彼女は以前1日10時間は寝ないと死ぬと言っていたがその10時間の殆どを学校で取っている気もする。睡眠のし過ぎで逆に体調が悪くなって余計眠くなってるような……、そうとしか思えないのだが。


 ミア=ビクティア、双子の兄のレンと揃って私と同じ年齢で、しかも実力で入学してきた超天才兄弟だ。

 レンは色々と有名だがミアに関してはほぼ片時も外さない仮面のせいで有名というのもあるだろう、それとロングスカートにタイツと首以外まともに肌を見せない格好をしている。冬場なんてマフラーをするせいで本気で人間かわからない。


 ……とはいえ普段付き合っている分には2人とも色々抜けてるなと思う、ミアはやる気を出している所を全く見せず同じクラスだった去年の1年間座学は1秒も起きて授業を受けていた記憶がない。

 レンはまあ色々バカなので扱いやすい、そんな2人とシーラ、そして私とこんなのが何時もつるんでるメンバーだ。ただミアは遊びに誘っても乗ってくれないので、休日の関係は私がシーラと遊びに行くくらいではあるが。


 因みに席は私が右後ろでその左にレン、前にシーラで左前がミアとなっている。


 普段私が一番絡んでいるレンはこの教室にいないようなので寝ている所申し訳ないがミアを揺すって目を覚まさせる。

 仮面の隙間から見える焦点の定まらない虚な眼で私を見て確認すると、一回欠伸をして私に手を振ってくれた。



「おはようございます、ミア」

「……ん」

「相変わらずですね、レンは何処にいるか分かりますか? 」

「多分、西館図書室」

「おっけーです、おやすみ」

「ん……」



 そこまでいうと耐え切れなかったように頭を机の上に落とし、またすぅすぅと寝息を立て始めた。

 どうやら彼女にとって友人との会話は一寸先の睡魔よりも立場が弱いらしい、なんと悲しい事か。


 さて、と。


 私は荷物を普段座る席に置き、レンを探しに教室を後にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る