第4話
「制服が違うとはいえ、同じに思われたらたまったものじゃありませんわね」
「まさか、私達は彼女達と違って匂いも気品も違いますもの」
その声の方向を見ると私達の制服とは違い、いかにもなお高い服装を纏った人の集団がおほほと高笑いしている姿が目に入った。
足首まで隠れるほどの真っ黒なロングスカートにそれに映えるアクセサリー、自分の金持ちアピールをしているかのような服装。彼女達の優雅に飾り付けられたお人形のような格好に目がチカチカする。
聖グリミア学園
シルレート魔法学園のほぼ隣にあると言っても変わらないほど近くにその学園はある。
気質は高慢、華族の中でも取り分け華やかで高貴と自負するような痛い人達が集う学園。シルレート魔法学園も華族はそれなりにいるが長い歴史を持つような家系出身は少ない。
その点聖グリミア学園は生徒数こそ少ないものの一年中上流家庭としての振る舞い方や帝王学を学ぶ正に格式高い家のみが通う学園である。一説には入学試験は建前で寄付金の額で合格が決まるだとか。
聖グリミア学園の生徒は間違いなく……私たちを見下している。
その集団を率いる人物がかつかつとこちらに歩いてきて会釈の一つもせずにいつもの様に話し始める。
「お久し振りだな、シーラに……レディ・アーカイヴ、恥を恥と思わないその胆力には脱帽する」
「本当にお久しぶりですねオーリア、毎度毎度ご苦労な事で」
「……」
プリジアム公爵家、嫡男オーリア=プリジアム=ドーラン=オズボーン。長い。
源流を辿れば今のアヴェリア王家に繋がる公爵家であり何故かシーラをライバル視してるのか毎度毎度突っかかってくるのが本当に鬱陶しい。
因みにだがかつてシーラとオーリアさんは婚姻を結んでいたらしい。が、あまりにも馬が合わずにシーラが断ったそうだ。貴族間の婚姻解消はお互いの家に物凄い悪影響だそうなのによくもまあ解消出来たものだ。
何より取り巻きも子爵家だったり伯爵家だったりなので下手に逆らわない方がいい、理不尽が過ぎる。まぁ彼女達はくすくす笑ってるだけで実害を与えるわけではないのでいいんだけれど、圧が……
私は……何を言ってもどうしようもないので無言でスカートの裾を摘むそぶりをして膝を曲げて会釈、所謂カーテシーとやらをするだけしておく。難癖付けられても面倒くさいので暫く顔はあげないでおこう。
こちらに取り巻きさんのトゲのある視線が突き刺さった気がしたが無視無視、そして数秒の静寂。
最初にこの間をぶち破ったのはオーリア=プリジアムだった。
「実は困ったことがあってな、聞いてくれ」
「どうぞどうぞ、なんなりと」
「実は恥ずかしい事に、私の愚妹がそちらの学園に入学すると言ってね。あんな腐ったところはやめておけと止めたのだが止めきれず……」
堂々と煽ってらっしゃる事で……
別にそちらの学園と違ってこっちも負けず劣らずの名門校のはずなのだが気にしない気にしない、そんな事言う方が腐っているのだ。
何より驚きなのが彼の取り巻きがこの発言を聞いて「あのオーリア様の妹が……」みたいな感じで落胆してる事だ、心の底から見下していたのだろう。
ただ確かに選民思考的な兄がいてそれでもなおここを選ぶと言うなら確かに気になるところではある……?
どんな精神構造でシルレート魔法学園を受けたのか今度暇があれば見つけて聞き出して見ることにしよう。名前は知らないが……、まあこんな兄を持つくらいだから雰囲気で分かりそうだ。
「あ、それはよかったですね〜」
「今年から貴女方の"後輩"としてお世話になるようなので改めて挨拶しておこうと」
「ふふふ、いらないですよ〜」
「それなら良かった、せめて愚昧が獣臭い匂いを纏って帰らないように学園の清掃をお願いする」
それではと散々な捨て台詞を吐いた後、彼は取り巻きを引き連れて去っていった。
「は、はは……あの、大丈夫ですか?」
私は暴言を吐かれることにかなり慣れているほうなので別に何とも思ってないがシーラはあんまり怒っているところを見たことがないとはいえこういうのは嫌いだったような。
完全にオーリア様一行が見えなくなったのを確認してから少し下がっていた私は元の位置に戻りシーラの顔を確認した。
「うひぃッ」
「……怒ってないよ? ほんとに、ね」
「目が……目が笑ってませんよ……」
確実に死んだ目をしているシーラがキッと睨むと不安そうに見守っていた群衆は蜘蛛の子のように散って行った。
そして暫くすると何事も無かったように辺りに喧騒がもどる。
私は一応立場としては伯爵令嬢という事になるが、シーラ級の話になると付いていけないほどの見えない圧のかけ合いがあるのだろう。
貴族ってのは本当に、大変そうで。
「あの、シーラ……今なら私の事撫でていいですよ」
「え、いいの!? じゃあ遠慮なく〜」
「……ノーダメージじゃないですか」
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