第2話

 学校の荷物をパパっと詰め込み着替えを済ませた私は櫛を片手に洗面所に立っていた。

 コップとそこに刺さる歯ブラシ、あと化粧水と乙女用具。

 普段付けているネックレスと魔道具兼おしゃれに買ったピアス。あれこれは友人にプレゼントされたものだったか、何にせよこんなものは学校が始まるとお役御免だ。

 今日が終わればまたすぐに休日は来るからそれまで眠っていて欲しい。あ、ネックレスは付けてても怒られないんだっけ。


 春休みの間アルバイトの時以外はまともに身だしなみを整えていなかったなぁと鏡を見やる。

 私と目が合う。森を流れる川の様な浅葱色の髪に深い深海を思わせる綺麗な目。

 白い肌に長い睫毛。


 ふふっと微笑みかけると鏡の中の彼女はぎこちない笑顔を返してくれた。



 ……うん、多分大丈夫。今日も私は可愛い、はず。


 ぼさぼさの髪に櫛を当て梳かそうとするとするとかっと引っかかる。

 今日からちゃんと髪の手入れをしようと誓った私は近くにあったゴムを取り適当に後ろでくくった。













 シルレート魔法学園

 魔法大国アヴェリアの主要都市のひとつ””シルレート””に拠を構える王立魔法学園。

 アヴェリアに認定された王立学園は全部で三つしかなく、その内の一つであるこの学園にはシルレート内外問わず優秀な人間が集まる。


 そして出来たのは学園都市シルレート魔法学園を中心として大学、私立学園、その他特殊技能学校と多くの学生が集まる大都市が出来上がった。

 無論そういった学園に勤める教師も住居を構えなければいけない、そして学生寮とは別に""教師寮""という概念も出来上がった。

 その教師寮の一室を借りて私はシルレート魔法学園に通っている。



「あらノアちゃん、今日もかわいいわねぇ」

「おはようございます、ミラおばさん」

「全く……おばさんって言うのやめてって言ったじゃない」

「30歳まではお姉さん、そっからはおばさんですよ」



 食堂に着き寮母長のミラおばさんに挨拶をする、この人は私がここに入った時からずっと面倒を見てもらっていて何というか……

 最初の方はただただ優しかったのに二年目あたりから私を色々叱ったりしてくれて助かってはいるがもう一人母親がいるみたいな感覚に陥る。

 男性の先生がいる所で「ノアちゃんのパンツ、また洗濯し忘れてるでしょ」って言われた時はちょっと拗ねてしまったり……反省。



「ノアちゃん今日から学校でしょ? 宿題終わらせたの?」

「うぐ……」



 と、こんな風に私にダメ出しをしてくるのが嫌らしい。本当に世話焼きなのだ、私の友人にもやけに世話焼きな人がいるがどうやら私はそういった人に好かれやすいらしい。呪いだろうか。

 ダメ出しされるポイントがある方が悪いは正論なのだが、しかしやれないものはやれないのだ。

 宿題?最後にやったのはいつだろうか……



「あー……まあやらなくても可愛く謝れば許してくれるのでやってないです」

「まぁ、先生がここにいたら怒ってるわよ」

「いないからオッケーです」



 パンを一口サイズに千切って口に運びながら辺りを見渡す。

 普段は教師とその教え子、それとよくわからない人たちでひしめきあっているこの食堂も春休みが終わったからか誰一人として見当たらない。

 この寮はほぼ完全に教師の為だけの寮と化しており私の担任の先生や他の学園の先生が仕事のために借りているためかなり質素な作りだ。

 料理も栄養と量だけ、みたいな感じで共有スペースもかなり散らばってたらしい。


 しかし話を聞く限り私が来てからというもののちょっと料理がカラフルになったらしくミラおばさんが私に配慮してくれてるのだと思う。

 食堂含めた共有スペースも少しおしゃれな感じで、男率99%(というか女は私とミラおばさんのみ)とは思えない綺麗さを誇っている。

 ……ただ他学園の先生が教え子を連れ込んでいちゃいちゃ勉強を教えてる姿をよく見るのは嫌だが。


 先生方は始業式やらなんやらでやる事がいっぱいあるのでとっくのとうにいなくなったのだろう、牛乳で残りを流し込み席を立つ。



「じゃあ、行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」



 私はミラおばさんに手を振り春の気配を一層濃厚にして見せた外に踏み出した。


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