青と緑
シルキーたち魔法部隊は、ジーニアス王国の外壁から魔獣めがけて魔法を放っていた。
外壁から平原までの距離は数キロある。だが、マッケンジーの補助魔法で視力を強化された魔法使いたちは、的確に魔法を放っていた。
魔法使いたちの属性はバラバラだ。だが、様々な魔法が魔獣めがけて放たれ、命中し、魔獣は絶命する。魔王が使役していると思われる魔獣の数は数千、下手をすれば万に届く……それに対し、魔法部隊の数は千程度。
魔法一撃では絶命しない魔獣も多く、魔力を消耗した魔法使いたちは、一人、また一人と倒れていく……魔力の枯渇による症状だ。
そして、魔法部隊の数が五十を切るころ、シルキーの近くにいた魔法使い……ドロシーが言う。
「マズいわよ……歩兵部隊が頑張ってるけど、援護が追い付かない」
「くっ……わかってるわよ。あたしたちは魔法を撃つしかできない。喋ってる暇あったら一発でも多く撃ちなさいよ!!」
「わかってる……でも、キツイのよ」
「……ごめん」
ドロシーのレベルは48。17歳という若さでは驚異的で、天才とも呼べる。
それに対しシルキーは95。勇者の恩恵で手に入れたレベルだが、どうしてもほかの魔法使いと比べて高い。自分のようにいかないことはわかっているが、その苛立ちをドロシーにぶつけてしまった。
「はぁ、はぁ……エーテルの在庫ももうない。ヤバい、あんたに任せることになっちゃうかも」
「当然よ。あたしは勇者だもん……ドロシー、あんたも無理しないで、眠かったら寝てなさい」
「冗談……まだまだ魔力は残ってるわ」
気が付くと、魔法使いたちは全員倒れ……シルキーとドロシーだけになっていた。
だが、そんなことを気にしていられない。
シルキーとドロシーは競うように魔法を放ち、平原で暴れている魔王配下の魔獣を倒していく。
「まだ、まだ……」
「ドロシー、もう」
「うるさいわ……あたしは、あいつの先生なの……こんな、情けない姿、見せるもんですか……立派なところを見せて、あいつに、釣り合うような、魔法使いに……」
「え……」
ドロシーは汗だく、真っ蒼になりながら魔法を放ち……気を失って崩れ落ちた。
シルキーは、ドロシーの本音……『あいつ』が誰を指しているのか、すぐにわかった。
ここにも、『あいつ』を好きな奴がいた。
「……くす」
嫉妬よりも、なぜか誇らしかった。
あいつ、女の子ばっかりひっかけて……あたしの返事もまだなくせに。
そう思い、魔力を振り絞る。
「そうよね。あいつから返事もらってないし!! こんな戦いさっさと終わらせるんだから!!」
〇青の勇者シルキー レベル95
《青の勇者》
・経験値アップ
・魔法攻撃力アップ
・魔力総量アップ
・【究極魔法】
シルキーの『勇者』の力が覚醒した。
究極魔法。どんな文献にも載っていない、魔法特化した青の勇者だけの魔法。
シルキーはギラリと笑う。獰猛な猫のように。
「メテオストライク!!」
究極魔法の一つ、メテオストライク。
いくつもの隕石がどこからともなく現れ、魔獣たちだけを押しつぶす。
「ホーリーストーム!!」
究極魔法の一つ、ホーリーストーム。
純白の光がアンデット系魔獣を包み込み、浄化した。
「サザンクロスブレード!!」
究極魔法の一つ、サザンクロスブレード。
上空に無数の魔法陣が展開し、そこから大量の剣が降り注ぎ、魔獣たちを貫いた。
「これが最後……究極魔法、アルティマバースト!!」
究極魔法最後の一つ、アルティマバースト。
平原を蹂躙していた巨大ドラゴンの上空に巨大な光球が現れ、ドラゴンを包み込んでそのまま消滅した。
シルキーは興奮し、究極魔法を連発して魔獣たちを蹂躙する。
「さぁさぁ!! 青の勇者シルキーの究極魔法、ご覧あれ!!」
◇◇◇◇◇◇
シルキーの究極魔法が発動する少し前。
「…………まずいな」
マッケンジーは一人、作戦本部である天幕の中で爪を噛んでいた。
戦況がよくない。
魔法部隊の疲弊。歩兵部隊の負傷。
補助魔法をかけ続けているとは言え、ドラゴンやタイタンといった大型魔獣を相手にするには、兵士個人個人のレベルが足りていない。
負傷した騎士や兵士たちは、聖魔法の使い手が集まる治療院に運ばれている。数が圧倒的に多く、すでに何人かの聖魔法使いも倒れているそうだ。
クレスとロランは幹部と戦闘中。高レベルな騎士たちも部隊を率いて戦闘している。
「………………行くしかないな」
マッケンジーは自身の愛弓を手に、天幕を出る。
「ふふ。まさか、こんな気持ちになるなんてね」
本名マッケンジー・アシュクロフト・ジーニアス。
ジーニアス王の唯一の子にして王族。王位継承者でもあり、稀代の天才と呼ばれるほどの頭脳を持つ秀才で、ジーニアス王国次期国王。
緑の勇者に選ばれたマッケンジーが王位に就くことに不満など出るはずもない。
だが、マッケンジーには何かが足りない。実の父がそう言っていたことを覚えている。
身長も高くスタイル抜群。顔立ちも非常に整い、城内のメイドや女性兵士や騎士でさえ見惚れてしまうほどのルックスだ。
マッケンジーは、自分の見た目などどうでもよかった。知識を詰め込み、次期国王としての勉強、緑の勇者としての使命……それだけだった。
マッケンジーは、他人にあまり興味がなかった。
他人とは、能力値を分析し自分のすべきことに使えるかどうか。ただそれだけの存在だった。
でも、違った。
勇者の仲間たちは、マッケンジーを仲間だといった。
分析できない能力値。利用ではなく助け合う。一緒に笑い、肩を組む。
マッケンジーにはそんなことをする仲間なんていなかった。
初めての経験だった。そして、それがとても心地よかった。
修行を終えて戻ったジーニアス国王は、息子マッケンジーを見て言った。
『いい顔になったな』と、嬉しそうに。
やっとわかった。
他人とは利用するものではない。共に笑い合い、手を取り合うものだと。
今、騎士や兵士たちは戦っている。血を流し、平和のために剣を取っている。
それを守るためにできることは、なんでもやる。
マッケンジーは天幕を出て、魔獣部隊の主力がいる平原へ向かう。
「緑の勇者は最高の頭脳。その頭脳で分析した結果、ボク自信が戦うって結果が出た。さぁ……みんなで笑い合える世界のために、人の心の赴くままに!!」
〇緑の勇者マッケンジー レベル97
《緑の勇者》
・経験値アップ
・思考力アップ
・精神力アップ
・【心眼】
緑の勇者。最後の力が覚醒した。
マッケンジーは【心眼】を開き平原へ。平原では巨大なドラゴンと戦う騎士部隊がいた。
騎士の指揮を執るのはシギュン。クレスの剣の師である。
「怯むな!! 進め!! 剣が通りそうな部分を狙え!!」
シギュンの指示で、騎士や兵士たちはドラゴンの腹や尻尾などを狙い剣を振る。
だが、マッケンジーには見えていた。
〇グリーンドラゴン レベル55
体力 29870/34000
《スキル》
ブレス レベル53
爪技 レベル54
尾技 レベル50
牙技 レベル51
【弱点】 左側部
「ははっ、これはいい……丸見えじゃないか」
心眼により、ドラゴンのステータスが丸わかりだった。
騎士たちの攻撃で体力が少しずつ減っている。そして、心眼から通して見たドラゴンの左側部が、白く光っていた。
「なるほど、弱点ね」
マッケンジーは弓に矢を番え、近くの岩場から隙を伺う。
そして、ドラゴンが左横を向いた瞬間、武技『疾風の矢』を白く光る部分に命中させた。
『!?!?!? ッガッガ、ガァァァァァァーーーーーーッ!?』
ドラゴンが苦しみでゴロゴロ転がる。
騎士たちが矢の飛んだ方を見ると、弓を構えたマッケンジーがいた。
「ドラゴンの弱点はそこだ!! 今のうちに狙え!!」
「よし!! 全員突撃!! 剣を突き立てろ!!」
シギュンの命令で騎士がドラゴンの左側に殺到。
弱点部分に剣を突き立てると、ドラゴンは絶命した。
騎士たちは雄叫びを上げ、マッケンジーの登場と指示に感謝……すると。
『グォォォォォォォーーーーーーン!!』
「またか……みんな、喜ぶのはあと。やるよ」
再び、ドラゴンが現れた。
マッケンジーは心眼を発動。ドラゴンの弱点を見て騎士たちに指示を───。
『オォ───ブギャガッ!?』
と、上空から現れた巨大な隕石にあっけなく潰されたドラゴンだった。
ポカンとしていると、隕石が無数に降り注いだ。魔獣だけを狙った隕石……まさかと思い城壁を見ると、シルキーが悪役みたいな笑みを浮かべて魔法を連発していた。
「なるほどね。これがシルキーの勇者の力……とてつもないね」
この調子なら、魔獣殲滅は可能だろう。
マッケンジーは、残った騎士たちに負傷兵を集めるよう指示。シルキーが打ち漏らした魔獣を狩るべく、マッケンジーは走り出した。
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