シルキーの告白

 魔王復活まであと三十日。

 俺はシルキーと一緒にジーニアス王国城下町で買い物をしていた。

 シルキーに言われたので二人きりだ。ロランやメリッサを誘おうと言ったらなぜかキレられた……だって、女の子と二人きりで買い物なんて恥ずかしいし、まるでデートじゃないか。

 俺は、シルキーの買った服や靴を持ちながら歩く。


「次はあっち! 可愛いアクセサリーショップがあるの」

「お、おお……なぁ、少し休憩しようぜ。腹減ったよ」

「んー……しょうがないわね。じゃああっちのカフェで休憩しましょ。荷物持ちのお礼にあたしが奢ってあげるわ」

「ああ。じゃあ遠慮なく」


 シルキーが見つけたというカフェで休憩。外のテラス席が空いていたのでそこに座り、両手に持っていた荷物を全て降ろした。ま、鍛えてるからこの程度何ともないけどな。

 店員さんがメニュー表を持って来てくれたので眺める。


「んー……そうだな、俺はステーキで」

「あんた、人のお金だからって容赦ないわね」

「あはは。足りなかったら俺が出すからいいよ。この後も買い物するんだろう?」

「……ほんと、そういうところよね」

「え?」

「なんでもなーい。あたし、フルーツパフェ」

「ん、わかった。すみませーん!」


 料理を注文し、俺とシルキーはお冷を飲む。

 こうやって女の子と出かけてカフェでお茶するなんて日本でもなかったな……しかも、シルキーはとても可愛くて魅力的な女の子だ。

 俺は、なんとなく聞いてみた。前に聞かれたことをそのまま返す。


「なぁ、この戦いが終わったら……お前はどうするんだ?」

「ん、あたしは三国で魔法講師をやるかも。ジーニアス王国はもちろん、故郷のブルーノ王国とアストルム王国からも魔法学園で講師をしてほしいって頼まれてる。まだ正式には決まってないけど、三国が出資して作る魔法研究所の所長にって話もあるわ」

「……す、すごいじゃないか!! とんでもない出世だぞ!!」

「ま、ね。レベル80超えの魔法使いなんて存在したことないし、あたしまだ17歳で将来もあるし……それに」

「それに?」

「……まだ言わない。あとで話すわ」

「?」

「あ、料理来たわよ」


 シルキーはそっぽ向く。

 料理が運ばれ、シルキーは甘そうなフルーツパフェを幸せそうにモリモリ食べていた。

 俺もステーキを食べる……うん、少ししょっぱいけどタレがいい味出してる。

 シルキーが何を言おうとしてたのかは知らないけど、今は料理を楽しむか。


 ◇◇◇◇◇◇


 結局、夕方近くまでシルキーの買い物に付き合わされた。

 さすがに荷物が多い。服とかアクセサリーとか靴とかカバンとか……女の子の買い物ってすごいね。

 地味に両腕がキツくなってきた頃、シルキーが言った。


「いやー買った買った。こんなにいっぱいお買い物したの久しぶりだわ」

「買いすぎだろ……重い」

「何よ、だらしないわね。えーっと……あ、いたいた! おーいそこの、ちょっと来て!」


 シルキーが近くにいた男性二人に声をかける。すると、男性たちは驚いたように顔を背けたが、シルキーは当たり前のように言った。


「あんたら、第七騎士部隊のエリックとライクね? 悪いんだけど、クレスの荷物全部持ってあたしの部屋に届けておいてくれない?」

「え、おいシルキー、第七騎士部隊って」

「その名の通りよ。なにあんた、部隊編成も知らないの?」

「そ、そうじゃなくて……」


 俺は思わず男性二人を見た。

 どう見ても一般市民にしか見えない。普通のシャツとズボンと帽子を付けた青年だぞ。

 もしかしてシルキーのやつ……。


「ま、まさか、顔を覚えてるのか?」

「は? そんなの当然でしょ。ジーニアス王国にいる騎士や魔法使いの顔と名前ならとっくに覚えてるわよ。魔王と戦う仲間なんだから当然よ」

「…………」


 マジかよ……一体、何人いると思ってるんだ。

 各国から騎士や魔法使いが続々入国してるってのに、顔と名前を全て覚えてるだと? 

 俺、全く覚えてない。なんてこった……共に戦う仲間の顔と名前を覚えてないだって?

 聞くまでもないが、マッケンジーも知ってるんだろうな。

 すると、エリックと呼ばれた青年がコソッという。


「ご安心ください。シルキー様とマッケンジー様の頭脳がとんでもないだけです。普通は我ら下っ端騎士など覚えてなくて当然」

「……すまない」

「クレス様、荷物をお預かりします」

「あ、ああ……ありがとう」


 エリックとライクは荷物を抱えて去って行った。どうやら護衛に付いていたらしいが、まさか顔バレしているとは向こうも思ってなかったようだ。

 身軽になったが、心にズシッと重い物が乗ったようだ。

 俺ってやつは、人の名前も覚えていないのだ……最低だよ。


「クレス、行くわよ」

「あ、ああ……帰ろう」

「違うわ。話があるから……付いてきて」


 そう言って、シルキーは歩きだした。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 シルキーに案内されて到着したのは、城下町が見下ろせる高台だった。

 公園なのか、ベンチがある。意外にも人がいない。

 夕方なので空はオレンジ色だ。じきに夜が来るだろう。

 俺とシルキーは、柵に手を付いて城下町を見下ろしていた。


「こんな場所があったのか……」

「マッケンジーに聞いたの。ここ、地元の人もあまり知らないんだって」

「へぇ……こんないい場所だしな。はは、独り占めしたくなる光景だ」

「そうね。ほら、人がすっごく小さい」

「本当だ……みんな、これから夕飯食べたり、風呂に入ったり、酒場で酒飲んだりするのかな」

「きっとそうね……」


 ふと、会話が途切れる。

 何か話があってここまで連れてきたんだ。要件を聞こうとすると、シルキーが言った。


「さっきの話、覚えてる? 魔法研究所の話……」

「ああ。シルキーが所長に、ってやつだろ?」

「ええ。実はまだ続きがあるの。三国が出資して作るのは魔法研究所だけじゃない、戦術を学んだり、剣術や武器の扱いを学んだり……要は、三国が出資して、大きな町を作る計画があるの」

「そうなのか? 初耳だ」

「まだ正式には決まってないからね。戦術、魔法、戦闘技術を学ぶ大きな学園を作って、そこで学んだ生徒が各国の兵士や騎士として国を、この世界を守るって計画……実現すれば、この世界は安心ね」

「そうだな。ん……おい、まさか」


 俺はようやく察し、シルキーを見た。


「そう。あんたも近いうちに打診がくるわ。学園で戦闘技術を教える教師にならないか、ってね。ちなみにマッケンジーは戦術面での講師を務めることを了承したわ」

「マジか……」

「たぶん、ロランにも打診がくるわ」


 なるほど……ロランにも。

 黄金の勇者が戦闘指導とか、とんでもない兵士が生まれそうだ。

 シルキーは柵から手を離し、身体を俺に向ける。

 俺は顔だけをシルキーに向けた。


「クレス。あたし……あんたと一緒に居たい」

「───え?」


 シルキーは、夕焼けの中……胸に手を当てて言った。


「あんたが好き、愛してる……あたしをあんたの傍に置いてほしい。これからずっと一緒に居たい」


 それは、愛の告白だった。

 俺は、どんな顔をしてただろうか。


「初めて会った時から気になってた。あたしを守るとか言って生意気な奴とも思った……でも、あんたは守ってくれた。噓じゃなかった……ドラゴンの渓谷でも、あたしは一度たりとも傷ついてない。あんたが守ってくれるって信じたから、全力で魔法を使えた」

「…………」

「気が付くと、あんたばっかり見てた。メリッサやドロシー、ロランと一緒にいるところを見るだけで……嫉妬した。あんたは優しいし、きっとみんな惹かれてる。最後の戦いが近いから……どうしても伝えておきたかったの」

「…………シルキー」

「返事はすぐじゃなくてもいい。ってか、あたしに釣り合う男なんてあんたしかいないんだから。悪いけど断っても諦めないからね!」


 シルキーは、まっすぐに気持ちをぶつけてきた。

 俺は、こんなにも熱い愛の言葉を受け取ったことがなかった。

 シルキーは可愛い。俺をまっすぐ見る目が熱っぽく、冗談ではない。

 心臓が、ドクンと高鳴る。

 仲間を、近しい人を、女として見たことがなかった。



〇赤の勇者クレス レベル82

《スキル》

赤魔法 レベル68

剣技 レベル82

詠唱破棄 レベル60

格闘技 レベル77

短剣技 レベル78

弓技 レベル12

槍技 レベル80

斧技 レベル79

投擲技 レベル80

大剣技 レベル55

双剣技 レベル81

抜刀技 レベル79

馬術 レベル5

奴隷紋 レベル20

馬上技 レベル3

気配探知 レベル82

不動心 レベル55



 あ、不動心のレベルが1上がった。

 はは、こうしてみるとかなりレベル上がったなぁ……ロランと模擬戦したり、魔法を使いまくってるせいでかなり強くなった。


「でも、ちゃんと返事は欲しい……あんたが、あたしをどう思ってるか。好きなら嬉しい、そうじゃないならあたしを好きにさせてみせるわ!」

「あ、ああ……あの、返事はその」

「じゃあ、魔王討伐したら! その後、返事をちょうだい」

「は、はい」

「うん! じゃあ話はおしまい。帰ってご飯にしましょ! メリッサ、今日はオムライス作るって言ってたわ。あの子のオムライス、中に小さなチーズいっぱい入ってるから絶品なのよね~♪」


 そう言って、シルキーは歩きだす。

 抱えていたものを全て吐き出し、晴れやかな気持ちで。

 俺は、この想いに真剣に考え、答えるべきだろう。

 

 あ、ちなみにメリッサだが。料理レベル5という実力と俺たち勇者からの希望で、勇者専属料理人になりました……って、そんなことどうでもいいっつーの!!

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