マッケンジーの頼みとメリッサのこれから

 魔王復活まで残り百日。

 この情報は信憑性が高いと判断され、ジーニアス王国・アストルム王国・ブルーノ王国は魔王軍に備えて軍の準備を急がせた。

 各国の職人を総動員し兵たちの武器防具を揃え、聖属性の魔法使いを集め治療に備え、過去の魔王軍の情報を各国の軍師が分析し作戦を練る。


 魔王軍最初の狙いはジーニアス王国。ここを落とすとヒルデガルドは言った。

 そのために、百日間でできることは全て行う。

 国民を他国へ避難させ、ジーニアス王国の外壁を強化し魔獣に備える。過去のデータではワイバーンという空飛ぶトカゲみたいな魔獣に苦戦したらしい。

 現在、マッケンジーの執務室で二人きりのミーティング中。俺はマッケンジーにアドバイスした。


「夢では、空よりも陸を重視した編成だった。兵たちの武器は槍をメインに、重戦士には斧を持たせるんだ。軽戦士は接近戦よりも弓を持たせた中衛をメインに、城の外壁に魔法使い部隊を多めに配置して、なるべく城に近づけないようにするべきだ」

「そうだね……はは、クレスってば、まるでその場にいたような話し方だね」

「そ、そうかな? あはは、あはははは……」


 そりゃあいましたからね……後方でふんぞり返ってただけですけど。

 転生前の記憶では、マッケンジーが雇った傭兵部隊があっさり全滅、シルキーが前線で戦い天仙娘々に殺され、マッケンジーはヒルデガルドに殺されたんだっけ。

 でも、今回はそうはいかない。俺もロランもいる。


「戦術は?」

「ああ。魔獣はひたすら突っ込んでくるだけで、兵たちとシルキーの魔法で対応できる。本命のヒルデガルド、ブラッドスキュラー、魔王は俺とロランで戦う」

「……きみたち二人でかい?」

「お前は軍の指揮を執りながら俺とロランに補助魔法をかけ続けて、シルキーは魔獣何千体と相手しながら俺とロランの援護だぞ? それとも変わろうか?」

「……遠慮しとく」


 マッケンジーは苦笑した。

 そう、これはゲームのようにパーティで戦うわけじゃない。マッケンジーは司令官として軍を動かさないといけないし、シルキーは大火力の魔法で数千の魔獣の相手をしなければならない。

 敵の中ボスであるブラッドスキュラー、ヒルデガルドは俺とロランで戦わなければならない。たぶん、タイマンになるだろう。


「クレス、魔王についてだけど……」

「ああ。魔王はヒト型だけど、巨大な魔獣に変身する。いいか、魔王に兵は絶対に近付けるな」

「わかった。おそらくだけど、魔王のレベルは100だろうね……レベル差はあるけど、倒せない相手じゃない。ボクらの代で終わらせるよ」

「ああ。わかってる」


 マッケンジーは熱いまなざしを俺に……な、なんだよ一体。


「クレス、今のうちに言っておきたいことがある」

「え」


 マッケンジーは俺をまっすぐ見ていた。


「父さんと話をしてね……魔王討伐が終わったら王位をボクに譲るって言うんだ。魔王討伐って功績があれば誰も口出しできないだろうし、こう見えてけっこう慕われてるからね」

「へぇ……マッケンジーがジーニアス王国の王様か」

「うん。クレス、キミにもこの国に残ってボクを支えて欲しいんだ」

「……はい?」

「魔王討伐をすれば体内の宝珠は排出されて勇者じゃなくなる。今のきみのレベルなら、どこの国に行っても騎士団長として優遇される。アストルム王国は間違いなくきみを手元に置こうとするけど、きみの意思でボクの……ジーニアス王国に来てくれたら嬉しい」

「マッケンジー……」

「友人として、ボクを支えてくれないか、クレス」

「…………」


 いや、なにこれ? 告白? 

 ジーニアス王国に残ってマッケンジーを支える。そんな生活も悪くない。

 マッケンジー曰く、勇者の宝珠が体外に排出されても、レベルやスキルが失われるわけではないらしい。レベル70台で残りの人生か。

 さすがに、これは即答できなかった。


「まだわからない。シルキーにも聞かれたことがあるけど……まだ答えは出ていないんだ」

「……そっか。ごめん、変なこと聞いて」

「いや、そんなことない。優柔不断で先のことを考えてないだけさ」

「ははは。じゃあ、選択肢の一つに入れておいてよ。ボクの隣でボクを支えるって人生をさ!」

「お、おう」


 なんか言い方が……こいつ、たまに本気でソッチ系じゃないかって思うんだよな。

 ま、まぁいい。マッケンジールートはないけど、ジーニアス王国に仕える道もあるってことは覚えておこう。


 ◇◇◇◇◇◇


 夜。いつも通り、月明かりの下で自主練習を行う。

 いつもはロランやシルキーたちが参加するが今日はいない。


「クレスさまー!! 休憩しましょー!!」

「わかった。今行くよ」


 久しぶりに、メリッサと二人きりだ。

 訓練場のベンチに座り、メリッサの作った夜食のホットサンドをかじる。


「うん、おいしい。さすがメリッサだな」

「えへへ……こうしてクレス様と二人きりって久しぶりです」

「そうだな。前はシルキーやドロシー先生もいたしな……なんだかずっと昔のことみたいだ」

「はい……あ、お茶を」

「ありがとう」


 メリッサの紅茶を飲みながら、月を見上げる。

 この世界の月も丸い。やはり宇宙だとかほかの惑星とかあるのだろうか?

 それとも、この星は地球から何光年も離れた惑星で、流れている時間は同じなのか? なーんて……くだらないことを考えていると、メリッサがもじもじしながら言う。


「あの、クレスさま……この戦いが終わったら、クレスさまはどうなさるのですか?」

「え? ああ……どうしよっかな。まだ考え中なんだ」

「アストルム王国に戻らないのですか?」

「んー……どうなるかな。このまま世界中を巡る冒険なんてのも面白そうだし、実は今日、マッケンジーにジーニアス王国で働かないかって誘われたりもしたんだ」

「えぇっ!? じゃあ、ジーニアス王国に?」

「うぅん、考え中。先のことなんて考えてなかったしな……メリッサは?」

「わ、わたしは……」


 メリッサはもじもじし、俺を見た。

 まっすぐな瞳だ。なんとなく、目を反らしてはいけない気がする。


「わ、わたしは……く、クレスさまにお仕えしたいです。これからも、ずっと」

「え、俺に?」

「は……はぃ」

「はははっ、そうか。ありがとう。メリッサのご飯が毎日食べられるならそれもいいな」

「え」

 

 さしずめ、俺のかまど番か。

 料理レベル5のメリッサだったら大歓迎だ。毎日美味しい食事が楽しめる。

 どこかに家を買って、メイドとして迎えるとかいいな。


「ん、どうした?」

「ぃ、ぃぇ……はぅぅ」

「?」


 月明かりだけじゃわかりにくいが、メリッサは真っ赤になっていた。

 もしかして風邪でも引いたのか? けっこう冷えてきたし、今日はこのくらいにしておこう。

 俺は立ち上がり、自分の上着をメリッサに掛けてあげる。


「少し冷えてきたな」

「ひえぇっい!? はわわ、はわわわ」

「夜食、美味しかった。今日はこのくらいにしよう。部屋まで送るよ」

「ははは、はいぃっ!!」


 上着をがっしり着込んだメリッサを部屋まで送り、俺も部屋に戻った。

 あと百日後に決戦だ。それまで、しっかり今後のことを考えておこう。

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