第四章・決戦の前、それぞれの思い
帰還途中、馬車の中で
世話になった拠点を掃除し、荷物をまとめ、荷車に乗せる。
数日に一度は馬を外に出して走らせていたので、馬が運動不足になっていたと言うことはない。もちろん、メリッサの仕事だ。
メリッサには、とても世話になった。食事や洗濯、部屋の掃除、武具の手入れや疲労回復のマッサージまでしてもらった。縁の下の力持ち、陰の功労者という言葉がぴったりだろう。
荷車の準備が終わり、俺とロランが乗ってきた馬も合わせて荷台へ繋ぐ。もちろん、御者を務めるのはメリッサだ。
シルキーは、すっかり空っぽになった拠点を見つめる。
「離れるとなると、けっこう寂しいわね……」
「ああ。ここは俺たちの家みたいな場所だったからな」
俺とシルキーが名残惜しんでいると、マッケンジーが言う。
「一応、ここは秘密基地として残しておくよ。機会があればだけど、好きに使ってくれて構わないよ」
「そんな機会ないと思うけど、その時は使わせてもらうわ」
「そうだな。俺たち勇者の隠れ家だ」
拠点に別れを告げ外へ出ると、メリッサとロランが馬のブラッシングをしていた。
二人はすっかり仲良しだ。メリッサがロランの髪を梳かしたりしている光景を何度も見た。ロランの髪は綺麗だから伸ばした方がいいとアドバイスしたのは、他ならないメリッサだからな。
「あ、お師匠さま」
「皆さん、馬車の準備はできています。すぐに出発できますよ!」
メリッサは今日も元気だ。
すると、マッケンジーが前に出てメリッサに頭を下げた。
いきなりだったので、俺たちは全員ポカンとする。
「メリッサちゃん。キミがいなければこのレベリングは実現しなかった。勇者として礼を言わせてくれ……ありがとう」
「え」
「そうね。メリッサのご飯はすっごく美味しかったし、マッサージもすっごく気持ちよかったわ。レベリングの楽しみはメリッサの食事だけだったし、あんたがいなければきっと精神的に参ってたかもしれないわ」
「え、え」
「そうだな……メリッサ、俺からも礼を言わせてくれ。お前がいてくれて本当によかった。ありがとう」
「え、え、え」
「メリッサさん。私からも……親切にしてくれたり、髪を梳かしてくれたり、いろいろなことを教えてくれたり、私は本当に嬉しかったです。本当にありがとうございました」
「ぁ……あの、私はその、お仕事で……私みたいなメイドこそ、皆さんの役に立てて嬉しいので、お礼なんて……」
メリッサは照れ、頬を掻く。
俺たちは、メリッサに支えられてここまで成長できた。それは紛れもない事実だ。
メリッサは、紛れもない……勇者パーティーの一員だ。
「じゃあ、帰ろうか。ジーニアス王国へ」
こうして、長きにわたるレベリングが終わり、勇者パーティーは帰路へ。
レベルを大幅に上げ、魔王軍幹部天仙娘々を倒すという結果は、魔王軍にとっても大きな痛手であり脅威のはず。転生前のバッドエンドとは違う、グッドエンドへの道を進んでいるはずだ。
もうすぐ、全てが終わる。
赤の勇者クレス、青の勇者シルキー、緑の勇者マッケンジー、そして黄金の勇者ロランが、この世界の魔王を討伐し、真の平和を手に入れる。
それが、曽山光一がこの世界に来た意味。俺はそう感じていた。
◇◇◇◇◇◇
帰りは、急がずゆっくり帰ることにした。
道中、魔獣も現れたが……はっきり言って、今の俺たちに敵う魔獣は殆どいない。
デモンオーク、アサルトウルフ、ブルオーガという魔獣が現れたが、ロラン一人で簡単に倒してしまった。しかも全て十秒以内に決着が付いている。
でも、ちょっとした問題もあった。
「…………」
「どうした、ロラン?」
「あ、お師匠さま……その」
「遠慮しなくていい。言いたいことは全て言え」
「……はい。実は、武器が……」
ロランの武器を見たが、どれもボロボロだった。
ミスリルソードは刃こぼれし、双剣も刃こぼれどころか亀裂が入っていた。
俺の刀や鎧もボロボロだ。というか、全員の装備がもう限界だった。
すると、荷台で優雅に読書をしていたマッケンジーが言う。
「心配しなくていいよ。ボクたちの装備はもちろん、ロランちゃんの装備も新調するからさ。というか、これだけ戦ってきたんだ。武器が限界に近づいているのは難なく想像できたし。出発前に最高級の素材を手配しておいたから、そろそろジーニアス王国へ届いているはずさ」
「え、そうなの!? やったぁ!!」
「さすがだな……そこまで手をまわしていたのか」
「もちろん。職人も手配しておいたから、帰って国王に報告したら新しい武具を造る。そのために少し協力してもらうよ」
「もちろんだ。よかったな、ロラン」
「はい!! マッケンジー様、ありがとうございます!」
ロランは嬉しそうに頭を下げたが、ミスリルソードと皮の鎧に触れて言う。
「でも、この装備……お師匠さまが私のために買ってくれたものです。できるならずっと使いたいですけど……」
「ん~、修理くらいはできると思うよ。使う使わないは別として。修理に出すくらいはしてみたら?」
「はい。そうさせていただきます」
「ロラン……」
なんとも、嬉しい話だ。
物を大事にするのは悪いことじゃない。それに、ここまで想ってくれると気分がいい。
すると、シルキーが言う。
「あんたらさぁ……国王に謁見とか武具の新調とか修理とか確かに大事よ? でもさ、せっかく王国に帰るんだし、美味しい物いっぱい食べましょうよ! 宴会よ宴会!」
「宴会って……お前な、それは魔王を討伐したらだろう。レベリングが終わった今、魔王軍の脅威に備えることが何より大事だ。天仙娘々を倒した今、魔王軍がどういう動きを見せるのか、過去のデータから敵がどういう戦力で来るのかを分析して」
「真面目過ぎ!! あのね、一日くらい騒いでもいいでしょ!? 別に城でパーティ開けって言ってるわけじゃないの。城下町にある酒場のテーブルで安い肉料理並べてエールで乾杯して、あのドラゴンは牙が硬かったとか、鱗を削いだら暴れたとか、そんな話をしながら盛り上がるのもいいじゃない!」
「お、おう……あの、近い」
シルキーがめっちゃ至近距離で俺を睨みながら叫んだ。
マッケンジーが苦笑しつつ言う。
「国王との会食とかも予定されると思うけどね。まぁ、シルキーちゃんの言うとおり、ボクたちだけで反省会するのも悪くない」
「でしょ!!」
「それに……実はボク、いい店を知ってるんだよね♪」
「お、話がわかるじゃないマッケンジー!! よーし、じゃあ店を予約しておきなさいよ。あたしとクレスとあんたとメリッサとロランの五人ね!!」
「はいはい。肉と魚、どっちがお好きかな?」
「両方に決まってんでしょ!!」
な、なんかシルキーのテンションが高い。
シルキーはロランに絡み、酒は飲めるのかとか肉と魚どっちが好きなのかと質問し、メリッサにまで絡んでいた。
「シルキーちゃん、久しぶりに街に行くからテンション上がってるね」
「ああ。でも、なんだか楽しそうだ」
「そうだね……クレス、これから大きな戦いになる。シルキーちゃんみたいに、ガス抜きは必要かもね。キミはすっごく真面目で謙虚だから、少しくらい羽目を外してもいいと思うよ?」
「そ、そうかな?」
「うん。きっとそうさ」
マッケンジーがやたら近い距離でそんなことを言う。
まぁ、確かに……少しくらいはいいのかな。
「ジーニアス王国まであと数日。いろいろ忙しくなる……クレス、休めるときにしっかり休んでおこう」
「ああ、わかったよ」
とりあえず、シルキーが主催の宴会は盛り上がりそうだった。
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