帰還と報告と飲み会
何か月かぶりに、ジーニアス王国へ帰ってきた。
町に入ると、喧噪やたくさんの人々、露店や商店から漂う香りが俺たちの全てを刺激する。ずっと岩場の拠点とドラゴンの渓谷を往復していただけの俺たちにとって、都会の香りはとても懐かしく、まるで誘惑されているようだった。
特にシルキー、荷台からメリッサの御者席に移動してキョロキョロしている。
「はぁ~都会の香り! なんだか甘いの食べたいわぁ~……メリッサ、あそこのパン屋に寄りましょう!」
「え、あの」
「駄目だよメリッサちゃん。まずは王城へ行くから」
「は、はい」
「いいじゃん少しくらい! あたし、焼きたてのロールパンが食べたい! メリッサ、パン屋パン屋!」
「えーっと……」
メリッサの視線は俺へ。勇者二人の意見が違うのでどうすればいいのかわからにようだ。
ロランはいつの間にか俺に寄り掛かってスヤスヤ寝てるし……仕方ない。
「メリッサ。シルキーの言うことは無視。まずは王城へ帰還の報告だ」
「はい、クレス様」
「ちょ、クレスぅ~」
「シルキー、あとで俺が好きなだけパンを奢ってやるから、我慢しろ」
「え、ほんと? じゃあさ、パンもいいけど……あ、あそこのカフェ行きたい!」
「いいぞ。お前には世話になってるしな、ご馳走するよ」
「やった! あ、あのさ……それ、二人で行くんだよね?」
「ん? そうだな、せっかくだしみんなで「じゃあ二人で行くわよ!!」……お、おお」
「むっ……シルキー様。買い出しがあるので私も同行させていただきますね。ふふ、構いませんか?」
「ぐっ……か、買い出しは別の日でいいんじゃないかしら?」
「いーえ! そうはいきません。クレス様に荷物持ちしていただくお約束ですので!」
「むぅぅ……」
「あっはっは。クレスは人気者だねぇ……そうだ、ボクのお茶に付き合う約束、忘れてないよね?」
「は、初耳だけど……あと近い」
「んん~……お師匠さまぁ」
ロランが起きてしまった。
結局、ロランを含めた全員に俺が奢ることになってしまった……なんで?
◇◇◇◇◇◇
ジーニアス王城へ向かい、ボロボロの装備を全て預けた。
ここまで運んでくれた馬にお礼を言い、メリッサと別れる。
「メリッサ、改めてお疲れさま。しばらく仕事を休んでゆっくりすること、いいね」
「はい、クレス様」
「メリッサちゃん。給金を支払うから、後でクレスの部屋に来てね」
「はい、わかりました!」
「え、なんで俺の部屋?」
「いいからいいから。シルキーもロランも、謁見が終わって身体の採寸が終わったらクレスの部屋に集合ね」
ちなみに採寸とは、俺たちの身体にあった装備を作るための採寸だ。
まだ16歳だし、この数か月で身長や体重も変わったしな。
メリッサは頭を下げ、俺たちの前から去っていく。
「じゃ、ボクたちは一度部屋に戻ろう。身体を清めて着替えをして、王に謁見だ」
「わかった」
「はいはーい。はぁ、甘いの食べたいな」
「あの、私は……?」
「もちろん、ロランちゃんも。ちゃーんと手配してあるから」
メイドに案内され部屋へ。
風呂に入れられ、髪を梳かされ、新品の服と靴に着替え……一時間後、貴族のようなスタイルの俺がいた。いやはや、こんな格好するの久しぶりだ。
部屋を出ると、マッケンジーがいた。
「おぉ……かっこいいね、クレス」
「お前もな」
「ありがとう。うれしいよ♪」
「…………」
マッケンジーは、香水でも付けてるのか花の匂いがする。
綺麗な装飾のされた礼服にマントを着ている。イケメンすぎるのでマッケンジーの傍にいるメイドたちが顔を赤らめていた。
そして、シルキーとロランが合流……ぉぉ。
「こういうの久しぶりねー」
「わ、私……こんな綺麗な服、初めてです」
シルキーとロランだ。
シルキーは蒼を基調としたドレスで、肩から胸元が大きく開いている。16歳のくせに発育が良く、胸の谷間がしっかり見えていた。それに、ここ数か月戦いっぱなしだったので贅肉など付いておらず、腰のくびれや手足の細さが際立っているのが美しい。
風呂に入り香油などで髪を整えたのか、肌ツヤもよくとても美人だ。
ロランもだ。
髪を伸ばし始めたので金髪が肩にかかるくらいの長さになっている。肉付きも女性らしくなり、14歳の少女らしいスレンダーなスタイルだ。
黄色を基調としたドレスはとても似合っていた。
「二人とも、すごく似合っている」
「「っ……」」
「シルキーは蒼か。綺麗な空色、シルキーの綺麗な髪色と同じでとても美しいよ」
「そ、そう……? あ、ありがとう」
「ロラン、髪が伸びたな。綺麗な金色の髪、まるで宝石のようだ。よく似合っている」
「あ、ありがとうございます……お、お師匠さまも素敵です」
「ありがとう。さぁ、行こう……なんだよ、マッケンジー」
「いや、帰るなり面白くってさ……っくく」
マッケンジーがなぜか笑っていた。
シルキーとロランも顔を赤くしているし……風邪でも引いたのか?
四人集まったので、迎えに来た騎士に案内され謁見の間へ。
謁見の間に入り、王の前で跪いた。ジーニアス王はマッケンジーの父親だが、今回はきちんとした喋り方でマッケンジーは対応する。
「陛下。勇者パーティー一同、戻りました」
「うむ。レベル上げは済んだようだな」
「はい。そして、ご報告いたします。我々勇者パーティー、ドラゴンの渓谷にて遭遇した魔王軍幹部の一人、天仙娘々なる者を討伐したことをご報告します」
「なんと……!?」
この報告には、ジーニアス王も驚いていた。
謁見の間にいた宰相や大臣、そして騎士たちも驚……あ!! シギュン先生がいる!!
ああ、久しぶりに見た。シギュン先生を見ていると、シギュン先生も気付き口元を緩めて頷いてくれた。後でしっかり挨拶しよう。
おっと。ちゃんと話を聞かないと。
「彼女はロラン。勇者クレスが見つけた新たな勇者です」
「は、初めまして。国王さま」
「おお……!! まさか、三色以外の勇者が」
「恐らく、リブロ王国出自の黄の勇者かと。原因は不明ですが、勇者と同レベルの成長性があり、魔王軍幹部の討伐功績は彼女のおかげと言っても過言ではありません」
「おお……!! ふふふ、此度の魔王
「……はい」
マッケンジーはニヤリと笑う……こいつ、国王に討伐のこと話してないな。
俺とシルキーは何も言わず、ロランは緊張でガチガチになっていた。
「報告書は後に提出いたします。今後の予定などの話もございますので……」
「うむ。勇者たちよ。しばし休まれよ」
「「「はっ!!」」」
「はは、はっ!」
簡単な報告が終わり、ようやく解放された。
謁見の間を出てしばらく歩くと、マッケンジーが言う。
「本当は今夜食事会があるんだけど、父さんにはボクから言っておくよ。城下町の店も予約しておくから、着替えてクレスの部屋に集合しようか。メリッサちゃんにも声をかけておくよ」
「ありがとう、マッケンジー」
「よっしゃ! 今日は飲むわよー!」
「わ、私も!」
部屋に戻り、着替えて待っていると、私服に着替えたシルキーたちが来た。
メイド服のままのメリッサがいる。どうやら強引に連れてきたようだ。
「ヤッホー♪ んふふ~」
「お疲れ様です、お師匠さま」
「やぁ。父さんには報告しておいた……というか、さすがボクの父親だね。食事会はとっくにキャンセル、勇者仲間と一緒に外でメシ食って来いだってさ」
「わ、わたしもいいんでしょうか……というか仕事中で」
「そんなのキャンセル! あんただって長旅で疲れてるんだから、今日はあたしたちと飲み会するの!」
「そうそう。シルキーの言うとおりだよ」
マッケンジーは外で待機していたメイドに、メリッサの着替えを用意するように頼むと連れて行かれた。
それから数十分で、普段着に着替えさせられたメリッサが戻ってきた。
「あ、メリッサちゃん。これ今までの給金ね」
「はい、ありがとうございます重っ!? こ、こんなに!?」
「うん。調理代、武具手入れ代、馬の世話代、マッサージ代、御者代、危険手当その他諸々ってところかな?」
「こ、これは多すぎです!!」
「ダメ。じゃ、行こうか。せっかくだし歩いて行く? 町の空気を吸いながら行こうじゃないか」
「賛成ッ!」
「私も賛成です!」
「俺も。よし、案内よろしくな、マッケンジー」
「了解~♪」
みんなと一緒に、城下町へ向かう。
今日は楽しくなりそうだ。勇者たちの休息といこうじゃないか。
「あ、あの、お金多すぎですーっ!!」
メリッサが何か言っていたが……俺たちは聞こえないふりをした。
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