転生しても見えない未来

 レベリングは順調だった。

 ドラゴンの渓谷に赴いては、ドラゴン同士で戦って弱ったドラゴンを両方倒すという作戦でレベルを上げる。

 レベルが上がると技のキレが増し、体力や魔力も増えていく。武技も開放され、俺たちはどんどん強くなっていった。

 今では、中型ドラゴンはおろか、大型のドラゴン相手でも戦える。

 そして今日。俺たちは大型ドラゴンの一体と戦闘を行っていた。


「剣技、三十連斬り!!」

「双剣技、乱れ斬り!!」


 俺の剣技とロランの双剣技が、大型ドラゴンの顔面を切り刻む。

 この大型ドラゴンは、蛇の身体に西洋の龍みたいな顔をしている。推定レベル65のナーガドラゴンだ。

 主な攻撃は長い身体を使った締め付けで、一度締め付けられたらもうおしまいという危険なドラゴンだ。だが、今の俺たちは真正面から挑んでいる。


「パープルボルト!!」

「ゲイルブレード!!」

『ギャァァァァーーーッゥ!?』


 俺とロランが攻撃をヒットさせると同時に離脱し、シルキーの紫魔法とマッケンジーの緑魔法がヒットする。ちなみに、紫魔法は雷属性だ。

 紫電の雷、風の刃がドラゴンの身体を引き裂き、傷だらけの身体から血が噴き出した。

 俺は刀を収め、ロランに合図する。


「行くぞロラン、合わせる!!」

「はい、お師匠さま!!」


 ロランも剣を収め、二人同時に駆け出した。

 そして同時に跳躍。雷で痺れて痙攣しているドラゴンの顔面辺りまで飛ぶ。


「「居合技、奥義───紫電一閃!!」」


 俺とロランが同時に放ったのは、神速の抜刀。

 バッテンに斬られたナーガドラゴンの顔が、綺麗に四分割されて地面に落下……切断された部分から大量の血が噴き出した。

 もちろん、ナーガドラゴンは死亡。俺たちの勝利だ。


「うし、レベルアップ。ロランはどうだ?」

「私も上がりました。お疲れ様です、お師匠さま」

「ああ、お疲れ様」

「…………」

「えーと、お疲れ様……よしよし」

「えへへー♪」


 ロランは、俺に撫でられるのを待つようになった……いや、別にいいけどね。

 岩場を拠点として早二月。レベル上げという運動に加え、メリッサによる栄養満点の食事と合わせ、細かった身体も少し肉が付き、髪も少し伸びた。

 すると、シルキーとマッケンジーがこっちに来る。


「くぉらそこっ!! べたべたするなっ!!」

「わわっ、す、すみません、シルキー様」

「わ、悪い。お、お前も撫でるか?」

「はぁぁ!? ばば、バカじゃないの!? バカじゃないの!?」

「はいはい、みんな落ち着いて。それより、今日のノルマは達成だ。拠点に戻って反省会をしよう」


 マッケンジーが締め、俺たちは拠点に戻ることにした。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 拠点に戻ると、メリッサの作った料理が俺たちを出迎えた。

 

「おかえりなさいませ!! 夕飯の支度ができてますよ!!」

「あーお腹減ったぁ~♪ メリッサのご飯が一番の楽しみだわ」


 シルキーが武器を放ってメリッサに抱きつく。メリッサももう慣れたのか、くすっと笑ってシルキーを受け止めた。

 だが、俺はシルキーを叱る。


「シルキー。武器を放るのは良くないぞ。武器は自分の身体の一部のごとく扱えって「あーあーわかったわかった。あんた真面目過ぎるのよ!」……お、おお」


 シルキーは武器を拾い、俺の胸をドンと叩く。

 すると、いつの間にか手を洗い、席についていたマッケンジーとロランがいた。

 マッケンジーは苦笑しつつ言う。


「そこのお二人さん。痴話げんかもいいけど、美味しい夕食が冷めちゃうよ?」

「だだ、誰が痴話げんかよ!? この馬鹿!!」

「あっはっは。さ、クレスも手を洗ってきなよ。ロランちゃんを見習わないと」

「わ、私はその、帰ったら手洗いうがいを最初にしろってお師匠さまの言葉に従っただけで、お腹が空いたというわけでは」

「いいぞロラン。手洗いうがいは何より大事だ。風邪でも引いたら困るからな」

「は、はい!! お師匠さま!!」

「いーから、さっさと手を洗いに行くわよ」

「お、おい、引っ張るなよ」


 手を洗い、装備を外してテーブルへ。

 五人で食べる夕食はもう何度目か。立場などない、友人同士の気さくな雰囲気があった。

 夕飯が終わり、メリッサの紅茶を飲みながらミーティングをする。


「さて、レベルの確認だ。ボクの予想が正しければ、そろそろ60~70くらいかな?」


 マッケンジーが片目ウィンクする。あの、なぜ俺だけを見て言うのでしょうか?

 とりあえずウィンクは無視し、俺たち全員がレベルの確認をした。



〇赤の勇者クレス レベル64

《スキル》

赤魔法 レベル45

剣技 レベル72

詠唱破棄 レベル44

格闘技 レベル55

短剣技 レベル57

弓技 レベル10

槍技 レベル62

斧技 レベル60

投擲技 レベル64

大剣技 レベル38

双剣技 レベル65

抜刀技 レベル68

馬術 レベル3

奴隷紋 レベル15

馬上技 レベル1

気配探知 レベル65



〇青の勇者シルキー レベル68

《スキル》

青魔法 レベル75

紫魔法 レベル69

黒魔法 レベル65

詠唱破棄 レベル60

格闘術 レベル39

杖技 レベル58



〇緑の勇者マッケンジー レベル75

《スキル》

緑魔法 レベル80

詠唱破棄 レベル78

格闘術 レベル66

弓術 レベル78

短剣技 レベル70

不動心 レベル81



〇ロラン レベル78

《スキル》

奴隷印 レベル15

剣技 レベル81

槍技 レベル79

双剣技 レベル78

短剣技 レベル77

弓技 レベル45

投擲技 レベル78

聖魔法 レベル75

光魔法 レベル75

馬術 レベル1

馬上技 レベル1

詠唱破棄 レベル72



 これだけは言える。俺たちは間違いなくこの世界最強だろう。

 人類最高レベルの60を超え、今なお成長している。

 最高レベルが100なので、もうすぐ上限に達する。特にロラン……もはや、俺たちよりも強くなっていた。


「ロランちゃん、キミが一番ずば抜けてるね……いやはや、驚いた。クレスの眼力が正しかったよ。彼女はもうボクらの筆頭戦力だね」

「そ、そんな。私はお師匠さまに言われた通り戦っているだけで」

「ロラン。自信を持て、お前は強い……俺よりも。というか、この中の誰よりもな」

「お師匠さま……」

「ってか、もうティアマットドラゴンに挑めるんじゃないの? あたしたち、ドラゴンの渓谷の大型ドラゴンも倒せるくらい強くなったわ。それに、ドラゴンパンデミックも終わりつつあるし……」

「うん。シルキーの言う通りだよ。そろそろティアマットドラゴンを倒して、最後のレベル上げだ。そして……ティアマットドラゴンとの闘いで、『勇者の力』を覚醒させる」

「「勇者の力?」」


 お、シルキーとかぶった。

 ロランは首を傾げ、メリッサは会話の邪魔をしないように黙り、みんなのティーカップに紅茶のおかわりを注いでくれた。

 マッケンジーは熱い紅茶をひと啜りし、喉を潤す。


「ボクたち『三色の勇者』は、勇者としての力を備えていることはわかるね? クレスの場合は攻撃力上昇にスキル習得率アップ、シルキーの場合は魔法攻撃力アップに魔力量アップ、ボクの場合は思考力アップに精神力アップ。これらはパッシブスキルとして常時発動している。でも、それとは別に真の力があることは知ってるかい?」

「なにそれ? そんなの聞いたことないわ」

「俺も……いや、待て。まさか……」


 俺はステータス画面を表示させる。

 スキルの部分ではない。名前の部分だ。



〇赤の勇者クレス レベル64

《赤の勇者》

・経験値アップ

・スキル習得率アップ

・攻撃力アップ

・?????



 そうか、ずっと気になっていたこの?????部分。

 マッケンジーに確認する。


「そう。この?の部分こそ、赤、青、緑の勇者の真の力だとボクは確信している。過去の勇者が残した文献を読み漁ってみたら、この力は勇者としての象徴が具現化したもの……らしい」

「らしい? どういうことだ?」

「わからない。文献にはそこまで詳しく書かれていなかった……でも、力であることは間違いない。きっと、魔王討伐にも役立つはず……ティアマットドラゴンとの闘いで覚醒させることができれば」

「なるほどね……面白そうじゃない」

「ま、できればの話だよ。ティアマットドラゴンの推定レベルは80、力の検証なんてやってられないくらいの強敵だからね。おそらく、野生の魔獣で最強種だ。修行の締めくくりに相応しい」

「締めくくりが最強のドラゴンか……」

「あはは。でも、ボクたちならできるよ。この数か月、ドラゴン相手にひたすら戦っていたんだ。自分を見ればわかるだろう? 力と自信に満ちている。決して慢心じゃない、努力の結果がここにある」


 マッケンジーの言う通りだ。

 体力と魔力もかなり増えた。使える魔法もかなり増えた。武技も強力な物をいくつも習得した。大型ドラゴンと対峙してもビビることはない。


「さ、話はここまでだ。今日はゆっくり休んで、明日の戦いに備えようか」

「そうだな。シルキーたちは風呂にでも入ってこいよ。俺は武器の手入れをするから」

「そうさせてもらうわ。メリッサ、ロラン、行くわよ」

「はい!! お二人のお背中を流しますね」

「私も手伝います!!」

「いや、メリッサだけでいいわよ……」

「じゃ、クレスはボクと一緒にね。ふふ、背中を流してあげるよ」

「え、遠慮します……」


 なぜか俺に近づくマッケンジーと距離を取る……こいつ、なんか別の意味で怖いな。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 俺は強くなった。

 俺だけじゃない。ロランもシルキーもマッケンジーもだ。

 きっと、これが正しいルートに違いない。レベル上げをして魔王に挑むのが、正しいルートなんだ。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 いつも通りに朝食を食べ、ドラゴンの渓谷に出発した。

 装備もばっちり、気力も充実している。

 俺たち4人は、ティアマットドラゴンと戦うため、ドラゴンの渓谷の最深部を目指して歩く。


「……どうやら、ドラゴンパンデミックは終わったようだね」

「ええ……不気味なくらい静かね」

「恐らく、パンデミックを生き抜いたドラゴンが休んでいるだと思う。この数か月、戦いっぱなしだったからね……」

「ティアマットドラゴンもか?」

「いや、ティアマットドラゴンはドラゴンの王みたいな存在だ。きっと、高みの見物でもしてたんじゃないかな?」

「…………」

「ロラン? どうしたのよ?」

「い、いえ……少し緊張して」


 俺は、ロランの肩に手を置いた。


「大丈夫。いつも通りだ」

「はい、お師匠さま……お師匠さまの手、すごく安心します」

「そうか?」


 俺は手を閉じたり開いたりする。ロランはクスっと笑った。

 そして、最深部へ。霧に包まれた渓谷最深部へ。

 ティアマットドラゴンの住む───。


「…………あれ?」


 最深部には、何もなかった。

 ティアマットドラゴンがいない。

 

「……なにこれ? なんか、変な匂いしない?」

「…………おかしいな? ティアマットドラゴンは動いていないはず。餌でも取りに行ったのかな?」

「…………あの、何かありますよ?」


 妙な匂いがした。

 霧の奥に、鉄のような匂い。

 おかしい。霧が……赤い。


「…………な、なんだ? 様子がおかしいぞ」


 マッケンジーが、赤い霧を見て顔をしかめる。

 すると、赤い霧の奥で妙な音が聞こえてきた。

 

 ぐちゅり───ぼちゅ───ぼぎゅ───。

 

 まるで、何かを食いちぎるような音だった。

 



「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぇ」




 そう、きっとこれはただしいるーと。

 ばっどえんどじゃない。ぐっどえんどへつづくみち。




んー?・・・……誰かそこに・・・・・いるのかにゃ?・・・・・・・




 だれか、いた。

 それはトラ耳・・・・・・

 何かを咀嚼している・・・・・・・・・

 

「え? 声? だ、誰だ? こんなところに人が?」

「女の子? え? 獣人?」

「な、なんでしょうか? よく見えません…………お師匠さま?」

「クレス、どうしたんだい?」

「ちょっとクレス?」


 俺は、震えが止まらなかった。

 バカな、バカな、バカな、バカな、バカな。

 嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。


「ぁ……あ、あ……う、嘘、だ……」

「クレス?」

「クレス、どうしたのよ?」

「お師匠さま?……真っ青です」

「……はぁ、はぁ、はぁっ!! あ、あぁぁ」


 俺は全力で叫んだ。










「気を付けろ!! そいつは魔王軍幹部だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───ッ!!!!!!!!!!」










 ティアマットドラゴンを引き千切り、捕食していたのは……魔王軍幹部、天仙娘々テンセンニャンニャンだった。

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