ドラゴンの渓谷
ドラゴンの渓谷。
霧に包まれたこの世界最高の危険地帯。
ここでレベリングしよう、なんて考えをする者は過去の勇者にもいなかった。そもそも、魔王を封印するためのレベルなら50~60もあれば足りると考えられていたからだ。
三色の勇者の真の力をもって、魔王は封印される……これは有名な話だ。今さらだが、黄金の勇者に関する話はまるで聞いたことがない。俺も、魔王から聞くまでは考えもしなかった。
「なんか、気味悪いわね……」
「は、はい……」
シルキーとロランが言う。
渓谷の入口付近にある岩場に身を隠し、俺たちはミーティングをしていた。
拠点からドラゴンの渓谷は徒歩30分ほどだ。これなら日帰りで拠点を往復できる。
「クレス、キミの気配探知を使ってドラゴンを見つけることは?」
「できる。でも、わかるのは数と大きさくらいだ。距離も俺から300メートルくらいが限界」
「それでいい。まずは小型ドラゴンの群れを探してくれ」
「小型ドラゴンの群れ?」
「ああ。この辺で小型ドラゴンの群れと言えば『サーベルラプトル』しかいない。大きさは最大2メートルと小型だけど、このドラゴンは群れで行動する。まずはこいつらを狩ってレベリングする」
「わかった」
レベルが上がると、不思議と力や技のキレが増す。
ゲームみたいに劇的に強くなる実感は湧かないが、今の俺ならロックドラゴン程度なら単体で撃破できる。小型ドラゴンの群れくらいやってやるさ。
「お師匠さま、頑張ってください!」
「ああ、ありがとうな、ロラン」
「後方支援は任せなさい。それと、ちゃんと守りなさいよね」
「もちろん、シルキーとマッケンジーは俺が守るよ」
「ふふ、うれしいねぇ、ありがとう♪」
「お、おお……」
マッケンジー、『♪』を付けて喜ばないでくれ……ちょっときつい。
◇◇◇◇◇◇
「嘘だろ……」
「どうしたんだい?」
「いた」
ドラゴン渓谷に踏み込み、さっそく気配探知をする。
すると……いるわいるわ、わんさといる。大きな気配、中くらいの気配、小型の群れ……大きい気配に中くらいの気配がいくつも集まり、小型の群れが中型を包囲して暴れたりと、どこもかしこも戦っているよ、すごいな。
「ね、ねぇ……ドラゴンの声、めっちゃ聞こえるわ」
「は、はい。確かに……」
気配探知を使わなくても、あちらこちらからギャーギャーやグォォンンといった叫びが響いている。これには、さすがのマッケンジーの冷や汗を流す。
「んー……日を重ねるごとに凶暴になっていくね。でも、おかげでやりやすい」
「ど、どこがよ……」
「頭に血が上った生物の行動は単調になるってことさ。クレス、さっき言ったように小型ドラゴンの群れがいる場所を。できれば戦闘中のがいい」
「わかった……こっちだ」
霧に包まれた渓谷内を進んでいく。
あちこちからする気配はどれも大きい。気配探知をフルに活用して歩き、到着した。
少し離れた藪に隠れ、観察する。
「あれだ……」
木々がなぎ倒され、トリケラトプスみたいなドラゴンに飛び掛かる二足歩行のトカゲがいた。トカゲの数は50を超え、トカゲと違うのは牙がサーベルタイガーみたいに伸びており、トリケラドラゴン(勝手に命名)の硬そうな外殻に噛みつき、容易く貫通させているところだ。
「双方、だいぶ弱っているね……」
「ああ。見ろ、小型ドラゴンが30は死んでる。トリケラドラゴンもだいぶ弱ってるし」
「じゃ、行こうか」
「「「え」」」
マッケンジーが藪から立ち上がり、弓に矢を番えて放つ。
矢は風を帯び、音速近い速度で小型ドラゴンの頭を貫通した。これが弓技の武技『疾風の矢』か。
『ギャヒッ!?』
「お、貫通した。ふふ、弓技の威力も上がってるね」
『ギャァァーーース!!』
「おい気付かれたぞ!? どうすんだ!?」
「大丈夫。数は少ないし相手も弱ってる……まとめて片付けよう!!」
「あんた頭おかしいの!? 緑の勇者は頭脳担当じゃなかったの!?」
「心外だね。ほらほら、クレスもロランも前に出て、シルキーは魔法で援護しなきゃ♪」
「「こ、この野郎……」」
「お師匠さま、いきますっ!!」
ロランが双剣を抜いて飛び出し、飛び掛かってきた小型ドラゴンの首を綺麗に切断した。
「───行けます!! お師匠さま、マッケンジー様の言う通り、このドラゴンたちは弱っています!! これなら倒せる……!!」
なんとまぁ、頼もしくなったもんだ。
俺も覚悟を決め、刀を抜く。
「シルキー、援護頼む!!」
「あぁもう!! やってやるわよ!! アクアプロテクション!!」
水の膜が俺とロランの身体に張り付く。
「じゃ、ボクも。ゲイルプロテクション、ゲイルスピード」
マッケンジーの補助魔法だ。風の膜が包み、風のアシストでスピードアップだ。
俺とロランは二人のサポートを受けた。
「お師匠さま!!」
「わかってる……いくぞ!!」
「はいっ!!」
俺は、うれしさを爆発させたようなロランと一緒に、向かってくる小型ドラゴンを斬りまくってトリケラドラゴンの元へ突っ走った。
◇◇◇◇◇◇
トリケラドラゴンは血塗れで弱っていたが、それでもドラゴンだった。
『グォォォォォーーーンッ!!』
「っく……」
ロランとが周囲の小型ドラゴンの群れを一刀で倒しているのを確認し、俺は単独でこのトリケラドラゴンに挑んでいる。
適材適所というやつだ。今やロランの速度は俺でも追いつけない。マッケンジーたちを守りつつ小型ドラゴンの群れを倒させるならロランのがいい。
トリケラドラゴンは咆哮を上げたが……全身血濡れで動くことができなかった。今できるのは、わずかに首を動かすのと威嚇くらいだろう。
それでも、負けを認めない強さは……さすがドラゴンと言ったところだ。
「いくぞ……!!」
俺は剣を鞘に納め、某抜刀術のポーズをとる。
そして、全力でダッシュし、トリケラドラゴンの真横から剣を抜いて切り上げた。
「抜刀技、奥義!! 『居合両断』!!」
剣を高速で抜き切り上げる。抜刀技レベル20の奥義だ。
これは、トリケラドラゴンがほぼ動かないからできた技。今の俺ではやや早い速度でしか繰り出せない。真の達人なら高速で移動しつつ切り上げる。
だが、赤の勇者は攻撃力重視。レベル20の奥義は推定レベル50のトリケラドラゴンの首を両断した。
「お……レベル上がった」
〇赤の勇者クレス レベル33
《スキル》
赤魔法 レベル17
剣技 レベル42
詠唱破棄 レベル16
格闘技 レベル21
短剣技 レベル23
弓技 レベル4
槍技 レベル11
斧技 レベル27
投擲技 レベル23
大剣技 レベル2
双剣技 レベル26
抜刀技 レベル34
馬術 レベル3
奴隷紋 レベル5
馬上技 レベル1
気配探知 レベル33
剣技、抜刀技、気配探知のレベルが一気に上がった。
総合レベルも3上がる。すごい、これがドラゴンを討伐した経験値なのか。
そうか、これがマッケンジーの狙い。戦って弱ったドラゴンを狙い、第三戦力として弱った双方を一気に叩く作戦。
「お師匠さま、終わりました!! おお……さすがお師匠さまです!! こんな大きなドラゴンを一刀に……」
「ロラン、お疲れ様。シルキーたちは無事か?」
「はい!! 皆さん無事です。それにレベルもいっぱい上がりました!!」
「よしよし、マッケンジーの狙い通りだな。この調子で頑張ろうな」
「はい!! ぁ……えへへ」
ロランの頭を撫でてやると、嬉しそうに笑った。
マッケンジーとシルキーの元へ向かうと、二人とも驚いていた。
「すごい、レベルがいっきに3も上がったわ……」
「このダイノトリケラは推定レベル50以上。この渓谷の中では中堅ドラゴンだからね、人類が倒したことはないんじゃないかな?」
「そ、そんな奴の前にお前は飛び出したんだぞ」
「あはは。まぁ、魔王を討伐するんだ。この程度でコソコソできないと思ってね。それより、次のドラゴンを探そう。ああ、わかってると思うけど」
「戦闘中、互いに負傷しているドラゴン、だろ?」
「うん。レベル50くらいまではその戦法で、50を超えたら中型ドラゴンに真正面から挑むよ。そしてレベル80を目標にして、仕上げを行う」
「仕上げ、ですか?」
ロランの頭をが首を傾げた。こうしてみると小動物みたいに可愛い。
「うん。この渓谷の主、ティアマットドラゴンを倒す」
「「……え」」
「ティアマット?」
マッケンジーの口から出てきた名前は、推定レベル80のドラゴンだった。
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