レベル大アップ

 ロックドラゴンの討伐を初めて一ヵ月が経過した。

 最初こそ手間取った相手だが、今ではソロで討伐できるくらい、俺たちは強くなった。

 現在のステータスはこんな感じである。



〇赤の勇者クレス レベル30

《スキル》

赤魔法 レベル17

剣技 レベル38

詠唱破棄 レベル16

格闘技 レベル21

短剣技 レベル23

弓技 レベル4

槍技 レベル11

斧技 レベル27

投擲技 レベル23

大剣技 レベル2

双剣技 レベル26

抜刀技 レベル24

馬術 レベル3

奴隷紋 レベル5

馬上技 レベル1

気配探知 レベル30



〇青の勇者シルキー レベル33

《スキル》

青魔法 レベル40

紫魔法 レベル31

黒魔法 レベル27

詠唱破棄 レベル30

格闘術 レベル21

杖技 レベル23



〇緑の勇者マッケンジー レベル40

《スキル》

緑魔法 レベル38

詠唱破棄 レベル36

格闘術 レベル23

弓術 レベル35

短剣技 レベル28

不動心 レベル45



〇ロラン レベル42

《スキル》

奴隷印 レベル5

剣技 レベル45

槍技 レベル38

双剣技 レベル40

短剣技 レベル41

弓技 レベル25

投擲技 レベル43

聖魔法 レベル47

光魔法 レベル41

馬術 レベル1

馬上技 レベル1

詠唱破棄 レベル40



 端的に言うと、ロランの成長速度が異常だった。

 これにはマッケンジーもニッコリ……とはいかず、ロランが本当に勇者ではないのかと疑い始めたのである。もちろん、ロランが黄金の勇者とは知らない。

 レベルの確認をし、拠点でミーティング中にマッケンジーは言う。


「おそらくだけど……ロランちゃん、勇者の血縁なのかもね」

「え? わ、私の両親は普通の農民でしたが……」

「たぶん、キミのご先祖様が過去に勇者だったとか? わからないけど、ただの農民がボクら勇者よりレベルアップが早いなんてあり得ない」

「えっと……お、お師匠さま」

「ま、心配するな。むしろすごいことじゃないか、レベル40なんて王国騎士団長レベルだぞ」

「そーね。それより、けっこうレベル上がったし、そろそろドラゴンの渓谷行く? まだパンデミック状態なんでしょ?」

「ああ。ドラゴンのパンデミックは数か月続く。少し前に偵察したけど、ドラゴンたちが大暴れしていたよ」


 確か、何日か前に休養日を入れたんだっけ。一日拠点でのんびりしてリフレッシュという名目だったけど……マッケンジー、偵察しに行ってたのか。

 

「さて、あとレベル50ほど上げれば魔王とも互角に戦える……いよいよ、ドラゴンの渓谷でレベリングだ。みんな、覚悟はいいかい?」

「ああ、もちろんだ」

「あたしも問題ないわ」

「わ、私もです……ちょっと怖いですけど」


 現状、この中では俺が一番レベルが低い。

 でも、足を引っ張るつもりはない。足手まといになるつもりもない。

 ロランが俺の隣で不安そうにしていたので、そっと頭を撫でてやる。すると、猫みたいに目を細めて気持ちよさそうにしていた。


「大丈夫だロラン。自信を持て。お前は俺より強いんだからな、むしろ弱い俺を守ってくれよ?」

「お師匠さまが弱いなんてあり得ません!! お師匠さまは、お師匠さまは!!」

「お、落ち着け、な?」

「はっ……す、すみません」


 ロラン……増長することなく強くなったのはいいが、俺にべったり甘えるようになってしまった。

 席は必ず俺の隣、何かあるとすぐに俺を頼る、寂しいと俺の部屋で寝ようとする、などなど。

 シルキーは『はっ』と笑う。


「愛されてるわねー」

「は? お、おいシルキー」

「ふん。言っておくけど、ベタベタするのは禁止だからね。ロラン」

「わ、わかっています」

「むぅ~……わたしも頑張らないと」


 なぜかメリッサが気合を入れた。

 ちなみに、メリッサの料理レベルが上がり4になった。城下町で料理店を出せるくらいのレベルだ。

 

「よし。明日を休養日にして、明後日からドラゴンの渓谷に挑もう。目標レベルは80……文字通り、人類最強の勇者になろうじゃないか」

「ああ。とことんやってやるよ」

「あたしの魔法、見せてあげるわ」

「私、お師匠さまのために頑張ります!!」

「お料理なら任せて下さい!!」


 俺たちは決意を新たにし、ミーティングを終えた。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 俺はリビングで、ロランと一緒に武器の手入れをいていた。

 ヒヒイロカネ製の剣と鎧を油で磨き、しっかりと汚れを取る。

 シルキーは杖を磨き、メリッサは洗濯をしたり馬の世話をしていた。


「お師匠さま、これでいいですか?」

「どれどれ……うん、いいな。ロラン、武器の手入れだけは怠るなよ」

「はい」

「ねぇクレス、あたしのも見てよ」

「おう。どれ……うん、いい杖だな。長く使われてるみたいだけど手入れもしっかりしてある。さすがシルキーだな」

「えへへ。まーね」


 この拠点には、簡単な鍛冶場もある。

 手入れの道具も揃えてあるし、武器防具のメンテナンスはばっちりだ。そして、意外なことだが……武器庫にある武器の手入れはメリッサの担当だった。

 ちゃんと聞いていなかったが、メリッサのスキルはこんな感じ。



〇メリッサ レベル3

《スキル》

掃除 レベル2

裁縫 レベル2

料理 レベル4

馬術 レベル1

鍛冶 レベル1



 意外と多才だった。

 一般人でここまでスキルを保有しているのは稀らしい。マッケンジーは『ボクたち三色の勇者の近くにいるから、何かしらの影響を受けたんじゃないか?』って言ってた。あくまで推測だが、そんな気がした。

 鍛冶は武器の手入れをしているうちに覚えたそうだ。メリッサ、ここでの家事炊事を行っているうちに、レベルが上がったり新スキルを習得したりしている。

 すると、マッケンジーが帰ってきた。


「戻ったよ。ふぅ……やっぱりドラゴンの渓谷は荒れてるね。大中小のドラゴンが喧嘩しまくってるよ」

「おかえり。でも、お前の予想通りなんだろ?」

「うん。いいレベリングができそうだ」


 マッケンジーはソファに座り、持っていた弓を分解して掃除をする。

 この日は、武器の手入れし、風呂に浸かって身体のコリを徹底的にほぐし、早めの就寝をする。

 ベッドに飛び込み、仰向けになった。


「…………」


 これまでのことを考える。

 転生前とは違う、これがゲームなら正規のルート……バッドエンドではない、グッドエンディングへの道を進んでいる、でいいのだろうか。


 ゲームで言うなら、ボス戦を前に、稼ぎ場所で経験値を稼いでレベリングしているところだ。万全の状態に持っていき、準備をしてボスに挑む。


 パーティーキャラのレベルは30~40。ボスに挑むためにレベル80は必要。ゲームと違うのは、都市を回る度に武器防具を買いなおさないところと、死んだらコンティニューできないというところか。

 俺は、正しいルートを進んでいるのだろうか。

 この道が、バッドエンドに続いていないとも限らない。魔王とその幹部を倒し、誰もが幸せになれるルートを進んでいるのだろうか。


「……わからないな」


 今は、これが俺にとっての現実だ。

 自分が信じた道をひたすら進むしかない。ロランを育て、シルキーとマッケンジーと共に強くなり、魔王を倒す……それこそが、今のクレスが進む道だ。


「やってやる。もっと強くなってやる」


 寝ころんだまま拳を握り、天井にむかって突き上げる───。

 すると、ドアがノックされた。


「はい、どうぞ」

「入るわよ」


 部屋に来たのは、シルキーだった。

 寝間着を着て、長い蒼髪も下ろしている。部屋が薄暗いせいで顔が見えにくい。

 

「ちょっと寝付けなくてね、話に付き合ってよ」

「いいけど……」


 シルキーは部屋に入ると、俺が寝ころんでいたベッドにどっかり座る。

 俺が備え付けの椅子に座ると、さっそく話をしててきた。


「あんたさ、魔王を倒せると本気で考えてる?」

「当たり前だろ。そのためにレベリングしてるんだ」

「じゃあさ……その後は?」

「……え?」

「魔王を討伐したら、あんたはどうするの?」

「…………」


 その後? その後って……ああ、考えてなかった。

 この二度目の人生は、転生前のクレスの罪滅ぼし……たぶん、神様がくれた奇跡だ。

 それ以上のことは望んでいない。というか、考えたこともなかった。


「考えてないな……そっか、その後か」

「なにそれ。あんた、その後のことくらい考えておきなさいよ。過去、魔王を封印した勇者たちはみんな、国の重要職に就いたリ、報奨金をもらって不自由なく暮らしたりしてるわ」

「へぇ……シルキーはどうするんだ?」

「……教えない」

「は? 自分から振っといてそれかよ?」

「ま、魔王討伐したら教えてあげる。その……あんたにも関係あることだし」

「俺に?」

「い、今はそれだけ!! 全く、鈍感ね……」

「わ、悪い? のか?」

「ふん。それより、明日からドラゴンの渓谷よ。あたしたちはかなり強くなってるけど……それでも、ドラゴンを相手にするにはレベルが10は足りない。きっと苦しい戦いになるわ」

「大丈夫。俺たちが協力すればどんな相手でも戦えるさ」

「根拠な~し。全く、前衛のあんたは一番危険なんだからね。その……怪我、しないでね」

「ああ。ありがとう、シルキー」

「…………」

「…………」


 互いに見合い、頷きあう。

 そうだ。後のことは後で考えればいい。

 俺は赤の勇者。攻撃特化の勇者で、後衛のシルキーやマッケンジーを守る重要な役だ。

 今は、自分とロランを鍛えることに集中しよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る