ロックドラゴン
ロックドラゴン。
全身が岩に包まれたドラゴンで、ドラゴン種の中では最弱部類。
ドラゴンの渓谷に住むことができず、この岩場地帯に生息し、小型魔獣をエサにしているらしい。
性格は獰猛。食べることしか頭になく、岩場地帯を抜け出し街道に出現することもあるとか。
「ま、こんな感じかな」
マッケンジーが説明してくれた。
俺は知っていたが、知らなうフリをして話を聞く。これからしばらくロックドラゴン狩りをするからな、敵の情報はとても重要だ。
ちなみに、現在は夕食中。
メリッサの作った料理を全員で完食し、明日のロックドラゴン戦に備えミーティング中だ。
俺はメリッサの淹れた紅茶を啜る。
「弱点はあるのか?」
「もちろん。ロックドラゴンの体表は硬い岩に覆われているけど、青魔法……水属性の魔法に弱い。水に触れると岩がクッキーみたいに脆くなるんだ。水に濡らせば武器が通る」
「ついにあたしの出番ね!」
「そうだね。シルキー、頼りにしているよ。その後はクレス、ロラン、キミたちの出番だ」
「ああ、任せてくれ。なぁロラン」
「はい! 頑張ります!」
このレベリングも、過去にはないイベントだ。
というか、ここから先は未知の領域……何度か考えたが、今の俺が死んだらどうなるんだ? また転生……なんて、都合のいいことは起こらないと考えた方がいいな。
だから、もっと慎重にいこう。
「マッケンジー、もっと詳しくロックドラゴンのことを教えてくれ」
「いいけど……すっごいやる気だね」
「ああ。レベルを上げて、魔王討伐の可能性を少しでも上げないといけないからな」
「ふぅん……嬉しいね。魔王封印ならみんな喜んでくれるけど、討伐となると腰が引ける奴ばかりだったんだ。キミみたいに前向きでまっすぐな子……嫌いじゃないよ?」
「お、おお……」
な、なんか背中がぞわぞわした……マッケンジー、その流し目やめてくれ。
シルキーとメリッサはなんか冷たい目で見てるし、ロランは首を傾げてる。
「クレス、あんた……そっち系だったの?」
「く、クレス様……」
「いやいや、何を勘違いしてるんだ!?」
「あの、お師匠さま……そっち系、とは?」
「お、お前はそういうことを知らなくていい!!」
「あっはっは」
「マッケンジーは笑うな!」
全く……楽しくやれそうだよ。
◇◇◇◇◇◇
シルキーとメリッサは、ロランを連れて風呂に行った。
覗いたら殺すと脅されたので(もちろん覗くつもりはない)、マッケンジーと戦略について話をする。
俺は、マッケンジーに確認した。
「なぁ、マッケンジーのステータスを確認したいんだけど」
「ん、ああ。いいよ」
〇緑の勇者マッケンジー レベル25
《スキル》
緑魔法 レベル21
詠唱破棄 レベル19
格闘術 レベル7
弓術 レベル23
短剣技 レベル16
不動心 レベル29
す、すげぇ……レベル25かよ。それにスキルこそ少ないけど、全体のレベルが高い。
不動心ってなんだ? 詠唱破棄レベル19ってすごい……弓が得意だって聞いたけど本当だった。格闘技は低いな、それでもレベル7……一般兵士より強いぞ。
「どうかな? ボクの全てを見て満足したかい?」
「不動心ってなんだ?」
「揺れない心さ。緑の勇者は頭脳担当、どんな状況でも冷静沈着な行動が必要とされる……たとえ、キミたちの誰かが死んでもね。だから、揺れない心を徹底的に鍛えたのさ」
「……死なないさ。いや、俺が死なせない」
「そうだね。ありがとう」
マッケンジーはにっこり頷く。
すると、湯上りのシルキーたちが部屋に入ってきた。
「はーさっぱり。あんたたちも入ってきたら?」
「お先にいただきました、クレス様、マッケンジー様」
「お師匠さま、気持ちよかったです」
なんとも色っぽい……のか? なんかよくわからん。
「じゃ、ボクたちも行こうか……背中、流してあげるよ」
「え、遠慮します……俺、入口の様子を見てくるから。入口が狭くても魔獣が来る可能性あるしな!」
「あ、ちょ……全く、恥ずかしがり屋だねぇ」
マッケンジーから逃げ、俺は隠れ家入口へ走り出した。
◇◇◇◇◇◇
翌日。いよいよロックドラゴンと戦う。
隠れ家にメリッサを残し、俺たちは外へ出た。
「魔獣は入ってこないと思うけど、念のため魔獣除けを置いていくよ。この香り袋があれば、この辺りの魔獣は近づけないはずだ」
「そんなものまで……あんた、すごいわね」
「ま、当然さ」
「そんなのあるなら早く教えてほしかった……俺、昨日何度も起きて入口チェックしたんだぞ」
朝っぱらから疲れてる俺……ロランが心配そうに覗き込む。
「お、お師匠さま! 見張りでしたら私も!」
「いや、大丈夫。ありがとう、ロラン」
「ちょっと、そこうっさい。行くわよ」
シルキーに遮られ、俺たちは徒歩で岩場地帯に乗り込んだ。
場所によってはかなり狭い岩場だ。俺やマッケンジーよりも大きな岩がゴロゴロしており、崖みたいになっている場所もあれば、山のように言わ牙積み重なっているところもある。
「気を付けなよ。ここはロックドラゴンのホーム……この岩場は奴らにとって絶好の保護色だ」
「ああ。シルキー、ロラン、油断するな」
「はい、お師匠さま」
「ふん、わかってるわよ」
今日は槍を置き、斧を背負ってきた。
岩場で槍は振り回せないしな。ちなみに、隠れ家には武器庫があり、一通りの武器は揃っていた。
マッケンジーは競技用のコンパウンドボウみたいな弓と矢筒、シルキーは金属製の杖を肩に担いでいた。
「ロラン、作戦は聞いているな?」
「はい。シルキー様が水魔法でロックドラゴンを弱らせ、お師匠さまと私で追撃、マッケンジー様が援護ですね」
「そうだ。いいか、決して油断するな。無理だと思ったらすぐに下がれ」
「はい!!」
マッケンジーはシルキーに言う。
「魔力の節約のため、水魔法は顔を濡らすくらいでいいよ。頭を潰せばどんな生物も死ぬからね」
「わかった。じゃあ無詠唱のハイアクアでいい?」
「そうだね。レベルが上がれば魔力も使える魔法もスキルレベルも上がる。自身も付けば勇者としての真の力も覚醒するだろう」
「……なにそれ?」
「ふふ、まだ秘密。まぁボクもよくわからないんだけどね」
そして、歩くこと数分……俺の気配探知に何か引っかかる……これは、呼吸音。
一定の、感覚が長い呼吸音だ……息を潜めている。
あ、気配探知のレベルが2になった。これ、いいな。
「みんな、気を付けろ」
ここは、岩が多い……隠れるにはもってこいの地形だ。
俺は斧を、ロランはミスリルソードを、マッケンジーは矢を番え、シルキーはスッと目を細める。
やはり、勇者として戦闘経験を積んでいる者たちだ。気配が変わった。
そして───。
「───来るぞ!!」
岩場の壁伝いに現れたのは、まるで最初からそこにいたようなトカゲ……いや、全身に岩をくっつけたロックドラゴンだった。
大きさは10メートルもない。最大の物は30メートルを越えると言うから、このロックドラゴンは小型だろう。
「ハイアクア!!」
シルキーの無詠唱魔法だ。
運動会の大玉転がしで使うような大きさの水球が一瞬で形成され、ロックドラゴンの顔面に直撃する。
同時に、マッケンジーが放った矢が濡れたロックドラゴンの頭部に突き刺さる。
『ギュィィィッ!?』
「行くぞロラァァンッ!!」
「はい、お師匠さまっ!!」
矢が刺さったおかげでロックドラゴンは岩壁から落下。俺とロランは走り出す。
俺は斧を振りかぶって跳躍。落ちてきたロックドラゴンの頭めがけて斧を振り下ろすと、岩が砕けて頭に斧が突き刺さった。
ロランは飛ばず、落ちてくるロックドラゴンに合わせて構え……おい、まさかこれは。
「───フッ!!」
居合、一閃───!!
ロックドラゴンの頭部が、キレイさっぱり切断された。
俺は着地し、ロックドラゴンの胴体がズズンと落下。確認するまでもなく、ロックドラゴンは死亡。
「いやはや……まさか、居合技で頭を切断するとは。きみ、想像以上にすごいよ」
「お師匠さまから習った技です……お役に立てたようでうれしいです」
「さすがだな、ロラン」
「お師匠さま!! ありがとうございます!!」
「お、今のでレベル上がったわ。新しい呪文覚えたし、魔力も上がったかも!!」
俺も斧技のレベルと総合レベルも上がった。すごいな、高レベル魔獣は経験値が多いみたいだ。実力だけじゃなく自身も付いた気がするのはレベルアップ効果だろうか。
「でも、こいつは小物だ。もっと大物を討伐し続けて、ここのボスであるハイロックドラゴンを倒さないとね。じゃあ次に行くよ」
マッケンジーは気を抜かず、勝利の余韻もないまま歩きだした。
確かに、まだまだこれからだ。もっと魔獣を狩ってレベル上げをしなくては。
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