ロランとメイドと勇者たち

 とりあえず、事情を説明することに……の前に、少し、いやかなり気になった。

 マッケンジーがいたこの岩場、なんだか妙な感じがする。

 岩の間に斜めに掘り進められた妙な空間があり、かなり深く続いていそうだ。

 俺が岩場を気にしているのを感じたのか、マッケンジーは説明する。


「ま、いろいろ気になることはあるだろうけど、まずは中へ。馬車くらいなら通れるから馬も連れてきなよ」

「あ、ああ。ロラン、馬を頼む」

「はい、お師匠さま」

「……お師匠様? きみが?」

「ま、いろいろ気になることはあるだろうけど、ってか?」

「……やれやれ」


 馬を連れて細い洞窟を進んでいくと、地下空間が広がっていた。

 しかも、かなり広い。まっすぐ続く長い道で、両側の壁にはドアが付いている。

 マッケンジーの案内で向かったのはなんと、馬を置くための厩舎だった。馬が二頭おり、野菜をボリボリ齧っている。

 馬を休ませ軽く撫で、厩舎を後にした。


「なぁ、ここはまさか」

「うん。ドラゴンの渓谷でレベル上げをするために造った拠点だよ。個室はもちろん、会議場や食堂、入浴施設やキッチンもある。事前に食料をたんまり保存しておいたから、一年は余裕で暮らせるよ。水は青の勇者様がいくらでも出してくれるからね」

「……なんて奴だ」


 これだけの規模の隠れ家、簡単に用意できるわけがない。

 恐らく、マッケンジーは勇者に任命される前から準備していたに違いない。

 ドラゴンの渓谷でレベル上げをするために、岩石の密集地帯に隠れ家を作る。ドラゴンは身体が大きいからこの岩場には入ってこないし、隠れ家へ続く斜めの洞穴は狭く、魔獣が入ってきても楽に対処できる。

 転生前はこんな場所に来なかった……すごいよ、マッケンジー。


「ボクとキミ、シルキーとメリッサ、あとは……ロランだっけ? ここを拠点にしてレベリングしよう。まずはレベル三十を目標にこの岩石地帯で魔獣狩りをする。ここに出てくるロックドラゴンはドラゴン種でも最弱の部類だ。最初は苦戦するだろうけど、徐々に慣れれば敵じゃなくなるだろう」

「ロックドラゴン……」


 確か、全身が岩みたいなトカゲだ。

 この岩石地帯の奥、ドラゴンの渓谷側に住んでいるんだっけ。ドラゴン種で最弱だから、渓谷で暮らすことができずにこの岩場に住んでいるとか。


「情報では、ロックドラゴンのレベルは20~30くらい。この岩場の主である大型のロックドラゴンのレベルは40ってところだ。まずは大型のロックドラゴン……そうだな、ハイロックドラゴンと呼称しておこう。そいつから討伐する」

 

 そこまで話すと、マッケンジーは大きなドアの前で止まる。


「ま、今日はゆっくり休んで明日から備えようか」


 ドアを開けると、そこはリビングのような雰囲気の空間だった。

 大きなソファ、本棚、椅子テーブル、食器棚がある。いい匂いがすると思ったら……。


「クレス様!!」

「お、ようやく来たわね」

「メリッサ、シルキー、よかった、無事だったか」


 メリッサが紅茶の支度をして、シルキーがソファに寝転がり本を読んでいた。

 たった数日だけど、再会がとても嬉しい。


「……誰?」

「あ、あの……お客様、ですか?」


 ま、そうだよな……二人の視線はロランへ向く。

 俺はロランの背を押して前へ。みんなに紹介した。


「彼女はロラン。リブロ王国で買った奴隷で、俺の弟子にして従騎士だ」

「「…………」」


 シルキーとメリッサはポカンとして、マッケンジーは苦笑しつつ首を捻る。


「クレス、キミ……弟はどうしたんだい?」


 ま、当然の疑問だよな……あはは。


 ◇◇◇◇◇◇


 リビングで紅茶を啜る。


「……おいしい」

「うん。メリッサの紅茶だ。優しい味がするんだよな……」


 ロランも顔をほころばせた。

 久しぶりの味に、俺も顔がほころぶ。まさか、ドラゴンの渓谷近くの岩場地下で、メリッサの紅茶が飲めるとは思えなかった。


「で、どういうこと?」

「…………」


 なぜか苛立ってるシルキー。紅茶はすでに飲み干したようだ。

 とりあえず、考えていた言い訳をする。

 シルキーをまっすぐ見ながら、できるだけ流暢に話をした。


「マッケンジーのことだし、俺の事情は聞いていると思うけど……俺は弟を探しにリブロ王国に行って、そこでロランと出会ったんだ」

「それは知ってる。ってかさ、どう見ても弟じゃないんだけど?」

「……ああ。ロランは女の子だ。俺の弟はいなかった」

「で、どうしてこの子を?」

「……一目見て、気になったんだ」

「はぁ!?」「ええ!?」「……っ」


 と、なぜかメリッサまで驚愕。ロランは赤くなり……マッケンジーはクックと笑っていた。

 俺、そこまで変なこと言ったかな? まぁいいや、話を続ける。


「一目見て、この子しかいないと思った。ロラン、この子には才能がある。俺の中の勇者としての何かが、ロランを連れて行けと求めていたんだ。だからロランを買ってここまで連れてきた」

「「な、なんだ……」」「……むぅ」


 あの、なんでシルキーとメリッサはホッとしてる? そしてロラン、なぜお前はむくれている? そしてマッケンジー、お前はなぜ笑いを堪えている?

 ま、まぁいいや……とにかく続ける。


「ロランは俺と一緒に前線で戦える。ここまで魔獣と戦闘を繰り返してきたが、成長速度は勇者に匹敵する。マッケンジー、この勇者パーティーにロランを加える許可をくれ」

「……ん~、ボクは直接この子の戦いを見たわけじゃないし、キミがそこまで言うなら信じたいけどね……ねぇクレス」

「お、おう」


 マッケンジー、男に向かってウィンクは止めようぜ。

 すると、マッケンジーはロランに言った。


「ロランちゃんでいいかな? 差し支えなければ、キミのステータスを確認したいんだけど」

「…………」

「頼む、ロラン」

「……わかりました。どうぞ」


 ロランはマッケンジーを真剣に見つめ、俺に確認を取った。

 マッケンジーは、ロランのステータスを確認し、目を見開いた。


「おいおい、冗談だろ?……クレスに匹敵するスキルの数じゃないか」

「ちなみに、俺がロランを買って一週間も経過していない。当然、スキルは全く習得していなかったし、レベルも1のままだった。たった数日でここまで育ったんだぞ?」

「……勇者並み、だね」

「ああ。鍛え上げれば、俺たちすら超える存在になる。俺は確信しているよ」

「お、お師匠さま……あんまりその、持ち上げられると」


 ロランは恥ずかしいのか、もじもじしていた。

 マッケンジーはロランから視線を外すと、なぜか俺を見た。


「うん、いいよ。この子も前衛として一緒に鍛えよう。かつて存在した『黄の勇者』の代わりといこうか」


 黄色じゃなくて黄金だけどね。似て非なる者ってやつだ。

 すると、固まっていたシルキーとメリッサが復活した。


「え、え、じゃあ、仲間になるのかしら?」

「ああ。ロラン、彼女はシルキー、後衛で青の勇者だ」

「はい。シルキー様、よろしくお願いします」

「え、あ、うん」

「そして、彼女はメリッサ。料理上手でメリッサの作るホットサンドはとても美味しいぞ。期待してくれ」

「はい。メリッサ様、よろしくお願いします」

「え、あ、はい。あ、私に様はいらないので……」

「では、メリッサさんとお呼びします。よろしくお願いします」


 うんうん。女の子同士、仲良きことは美しきかな。

 みんな、いい友人になれるといいね。


「女の子同士、楽しくやれるといいね。ボクとクレスみたいにさ!」

「そ、そう、だな?」


 マッケンジー……なんか近いんですけど。

 ともかく、これからロックドラゴンでレベル上げだ!

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